王都でのギルドマスター会議を無事に終え、急いで迷宮都市に戻ってきた私に待っていたのは大量のトレントだった。
薄々予想はしていたけれど、トレントの森を消失させたのはサラ様だったんですね!
森が出来る程のトレントを、一体何処に仕舞われたのですか!?
ここ迷宮都市では、マジックバッグは最大30㎥の物しか販売されていない。
今までは、お一人で1つずつ持たれていた筈だ。
どう考えても計算が合わないんですが……。
王家秘蔵のマジックバッグ1,000㎥でも借りてきていらっしゃるのかしら?
でもそんな物を人前で見せる程、サラ様は愚かな方ではない。
あれはもう国宝と呼ばれる物で、普段は王宮の宝物庫で厳重に管理されているべき代物だ。
勿論、サラ様が王様に願えば貸してはもらえるだろうけれど……。
多分そうではないだろう。
何せ時空魔法の適性がある御方だ。
移転の他にアイテムBOXの能力も当然あって然るべきと考えた方がしっくりくる。
存在を秘匿されるのは、まさにその能力が戦場を一変させるからに他ならない。
エルフの国が今まで滅ぼされなかったのは、偏に秘匿された方が居たお陰だ。
敵陣へ大量の兵士を一瞬で送り、無尽蔵に戦略物資を運ぶ事が可能であれば戦に負ける事など有り得ない。
王宮の奥深くの神殿で多くの影衆に守られているのは、いざという時に戦場に立たれるお方だから……。
数百年に1度、王族から生まれてくる大切な存在。
そして最大の切り札。
私はこの国で生まれたのでエルフの国には行った事がないけれど、父から聞いた話では緑豊かな土地であるそうだ。
そのため、エルフの容姿も相まって常に他国から狙われていたらしい。
ここ数百年は侵略する国も、ほぼ殲滅したので平和が続いていると言う。
サラ様がアイテムBOX持ちだとするなら、今後毎週のように大量のトレントを換金なさるだろう。
これは新しく倉庫を借りている場合じゃないな。
ギルドが所持しているマジックバッグでは追いつかない。
借りを作るようで癪に障るが、ヒューに頼み摩天楼で販売されているマジックバッグ100㎥を送ってもらう事にするか。
早くしないと冒険者ギルドの倉庫がトレントで溢れてしまう。
私は冒険者ギルド間を繋ぐ通信の魔道具を作動させた。
この魔道具は、ギルドマスターの部屋にしか設置されていない。
遠方の支店や王都の冒険者ギルド統括本部との遣り取りで使用する魔道具だった。
羊皮紙に文字を書いた物を魔道具に読み取らせ、あらかじめ設定されている支店の番号を押したら完了だ。
内容は送り先の支店の魔道具に映し出される。
誤差は殆どなく一瞬で相手先に送られるが、1回に使用する魔石代がとても高い。
送信するのに銀貨1枚も必要なので、そうそう滅多に使う事はなかった。
数分後、幸いヒューがギルドマスターの部屋に居たらしく返信が届いた。
本日マケイラ家でテイムしているグリフォンに、マジックバッグ100㎥を10個載せて送り出すので、代金はグリフォンの首に付けてある袋に入れてほしいと書いてあった。
トレントを買い取るために、幾ら経費がかかるのか……。
これは収支が合うんだろうか?
迷宮都市から摩天楼のダンジョンがある都市まで、馬車で行けば片道約1ケ月かかる。
私がなるべく早く欲しいと書いたので、グリフォンで対応してくれたんだろう。
グリフォンならば大体片道5~6日といった所か。
その事自体は大変有難いけれど、また父の機嫌が悪くなりそうだ。
ハーレイ家でテイムされた魔物はペガサスだが、時に諜報活動を担うマケイラ家はグリフォンをテイムしていた。
当然、グリフォンの方が速い。
体の構造から考えれば分る事だが、父はそれが気に入らないらしい。
あの2人は、どうしてこんなに仲が悪いのか……。
同じ女性を取り合った訳でもないのに、幼少期に何かあったのだろうか?
はぁ~、取り敢えずトレントの保管に関してはマジックバッグで対応出来そうだな。
父の機嫌を取るために、今日はもう家に帰ろう。
私も些か疲れが溜まっている。
今日こそ、久し振りにベッドで寝たい。
その夜、摩天楼のダンジョンに20年前から王族の方がお忍びで冒険者をしている事を知った父が大激怒し、今すぐにでもマケイラ家に向かいそうになるのを必死で止める事になった。
しかも20年前は迷宮都市に居て、何故お前は気付かなかったんだと責められる。
セイ様は人族の姿をしていたのだから、私に怒るのは筋違いだと思う。
どうやって気付けと?
そもそも王族の方が、お忍びでカルドサリ王国に来られる事は想定外じゃないか!
流石に言われっぱなしでは腹が立つので、父に言い返す。
その後、私達は大人気なく盛大な親子喧嘩を始めてしまい、早く寝る心算だったのに大幅に予定が狂ってしまった。
結局最後は飲み比べで決着を付ける事になり、親子揃って酔い潰れ二日酔いで朝を迎える羽目になる。
気分は最悪だった。
朝食も吐き気で食べる事が出来ず、そのまま冒険者ギルドに仕事に向かう。
部屋に入ってから、最近常備しているポーションを飲んで一息ついた。
これで多少は楽になるだろう。
不在の間に溜まっていた書類に目を通していると、受付嬢が部屋に入ってきた。
「ギルマス。オリーさんが宿泊していた宿から、苦情が入ってるんですけど……」
「苦情? どんな内容なの?」
「宿泊代を払わずに出ていったそうです」
あぁ、もう消されたのか……。
「確か未払いの給料があるから、経理に言ってそこから払ってあげなさい」
「了解しました。オリーさん、最後まで厄介な人でしたね~」
「あぁ当分、貴族のぼんぼんを受け入れるのは断る心算だよ」
「是非、そうして下さい。役に立たない人は要りませんから。あっ、そうだ! ギルマスが不在の間に、他領から来た冒険者パーティーが全員キングビーに刺されて帰還しました。ちょっと気になるので、お伝えしておきます」
「他領から来た冒険者か……。情報ありがとう」
「また変な人達じゃないといいですね!」
そう言い残し、受付嬢は帰っていった。
いや気になるだろう!
キングビーが居るのは地下14階じゃないか!
私の受難の日々は、まだまだ続きそうだった……。
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