SUVを走らせ鰻屋に到着すると、いつも店から漂っていた鰻を焼いているなんとも言えない食欲をそそる匂いがない。
これはホーム内が無人の弊害だ。
店内に入り電子メニューで俺は鰻重、沙良はひつまぶしを選ぶと、直ぐにテーブルの上に注文した料理が出てきた。
鰻重の蓋を開けると、照りのよい大振りな鰻が見える。
早速頂こうとした目の前で、沙良がアイテムBOXからまな板と包丁に万能ねぎを取り出していた。
うん?
何をする心算なんだ?
沙良は万能ねぎを切り、ひつまぶしに添えられたねぎに追加した。
「いつもねぎの量が少なくて不満だったんだよね~。行儀が悪いけど店の人もいないし、ここならよいかと思って。ついでに海苔も増量しちゃおう!」
聞いてもないのに沙良が言い訳を始めて、今度はアイテムBOXから焼き海苔を出してちぎっている。
提供された薬味が足りない事が不満だったようだ。
まぁ店内には俺達以外誰もいないので、自宅で食べているようなものだから自分で薬味を追加するぐらい問題ないと思うぞ?
日本で同じ事をしたら、流石に顰蹙を買うので止めるけど。
俺は沙良の行動には何も言わず、楽しみにしていた鰻重を口一杯に頬張る。
この店は備長炭を使用し丁寧にじっくり焼き上げているので、皮はパリパリしており身はふっくらと柔らかい。
そしてこの長年繰り返し鰻を浸けたタレがまた旨い!
お米もちょうどよい固さで上手く炊けている。
俺は丼ぶりじゃなく、重箱で食べる方が好きだ。
その方がなんだか鰻を食べている気がするからだ。
沙良は焼き海苔を1枚ちぎり終わると、タッパーを取り出し薬味を合わせる前に食べられない分を詰めだした。
リーシャの体になってから、食事の量が少し減ったように感じる。
元々ひつまぶしは量が多いから、全部食べられなくて残すのが嫌だったんだろうな。
そして漸く、ひつまぶしを薬味たっぷりで食べだした。
「久し振りに食べたけど、ここの鰻の味は変わらないね~。日本ではお昼時や夕食時に行くと行列が出来て待たされる事が多かったけど、ホーム内の飲食店は待ち時間なしで食べられるから嬉しい」
「そうだな、ホーム内はかなり日本の世界を忠実に再現しているようだから、俺達の知らない仕様がまだあるんじゃないか? スーパーや飲食店は24時間営業しているし、店内が無人だからどれだけ見ていても店員が寄ってくる事もない。逆に日本より居心地が良いくらいだ」
「うん。『手紙の人』に感謝だね。Lvが足りなくてまだ行きたいお店とか温泉とかあるけど、近所のスーパーは広告の商品まで安くなってるし在庫不足も無いんだよ。お1人様1品までとか広告には書いてあるんだけど、ホーム内のスーパーでは関係ないみたい。ただ半額シールが貼られないのは残念」
「それはシールを貼る人間が、ホーム内に居ないから仕方無い。そもそも24時間営業で、期限間近の商品が置いてないじゃないか。どうせ半額商品を買って時間停止のアイテムBOXに入れておけば、賞味期限も問題ないとか思っていたんだろう?」
「えへへ~。だってそのための時間停止じゃん。節約するにはぴったりの能力だよね」
いや節約するために、アイテムBOXを使用するやつはそういないと思うが……。
「こんなに美味しいのに、雅人も遥斗も食べられないなんて損してる」
「それは茜が子供の頃、蛇を捕まえて振り回して遊んでいたのが双子達の顔に当たったのが原因だ。可哀想に、お陰で穴子も鱧も食べられなくなったじゃないか」
「茜は、お転婆だったからね~。あの子は女の子としての自覚が無かったみたい」
そう言って沙良は笑っているが、原因は何度も目の前で誘拐されたお前の所為だぞ?
近所の空手道場に通って、師範の免許まで取ったんだからな。
同じ時期に旭も通っていたが、茜に勝てないと嘆いていたし。
警察学校では組手の最中、指導にあたる男性の教師に怪我をさせたそうだ。
上から目線の指導の仕方にムカついたと言っていたが、かなり故意犯でやったと俺は思っている。
ちょっと強くなりすぎたんじゃないだろうか……。
警察なんて完全な縦割り社会なのに、茜は大丈夫か?
もしも異世界に召喚したら、魔法なんて使わずに拳ひとつで無双しそうな感じだ。
与えられる能力も身体強化系かも知れない。
鰻を2人で美味しく食べ、SUVに乗って家まで帰る。
鰻の肝焼きと日本酒が飲みたかったなぁ~。
沙良に運転させたら2人で天国に直行しそうなので、外食時に酒が飲めないのが辛い。
沙良以外、家族全員が運転免許を持っていると言うのに……。
次に召喚する人間は、是非とも運転免許を持っている事を期待したい。
その後、召喚されたのは旭だった。
一緒に飲みに行くため、運転免許を持っていても全く意味がなかった!
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