風竜へ変態したポチとタマに乗り順調に距離を稼ぎ、カルドサリ王国へ戻ってきた。
どうせだから、この機会にヒルダの冒険者登録をしておこう。
70日間は元に戻れないし、この姿でいる時は迷宮都市のダンジョンを攻略出来ないからな。
摩天楼の冒険者ギルドへ向かい、受付嬢に冒険者登録とスキップ申請をすると別室へ案内された。
ここのギルドマスターは、ハーフエルフだから事情を汲んでくれるだろう。
部屋に入ってきたギルドマスターは、俺の顔を見た瞬間に膝を突き首を垂れる。
「あ~、普通に対応してくれると助かるわ」
この場にいるのは響とセイと隠形した影衆達だが、王族として振る舞うのは落ち着かない。
「はっ! ヒルダ様にお会い出来光栄です」
彼はそう言ってから、響がいるのに気付き焦りの表情を浮かべる。
「あぁ、大丈夫よ。夫の事は気にしなくていいわ」
「えぇ……はい」
「今日は、冒険者登録とスキップ申請に来たの。手続きをお願いね」
「畏まりました。では登録用紙の記入と冒険者カードに、血液の登録をして頂けますか?」
俺は渡された用紙にヒルダの名前を書き、用意されていた針で親指を突き刺し血液をカードに垂らした。
すかさず、セイが無言で治癒魔法を発動させる。
いや、これくらいなら治す必要もないんだけどな。
契約者の母親に気を使っているんだろう。
「後はスキップ申請ですが、SS級冒険者御二方の承認があればA級冒険者になれます」
「討伐の様子を見てもらう必要はないの?」
「ヒルダ様には不要なものかと……」
そう言い2枚の用紙を響とセイに渡している。
A級冒険者になるためのスキップ制度の内容はよく知らないけど、SS級冒険者2人の許可があればいいらしい。
あれ? でも響は今C級冒険者じゃなかったか?
そう思い、響が記入している用紙を覗き込むと名前が違っていた。
ロッセールって、国王時代のロッセルの名前をもじっただけじゃ……。
よくお忍びで冒険者をしているとバレなかったな。
冒険者等級はSS級だった。
「あの、年齢が……」
俺達が記入した3枚の用紙にギルドマスターが困惑している。
実年齢ではなく3人共、今の姿に合わせた年齢を記入したから驚いたのかも知れない。
「それで、お願いします」
にっこり笑って、それ以上の追及を阻んだ。
「……加護は大丈夫でしょうか……」
彼はそうぽつりと呟き、小さく息を吐いて手続きを済ませた。
最初に受け取ったカードはA級に変更され戻ってくる。
鉄ではなくミスリル製のカードだった。
等級によってカードの素材が変わるのか。
娘と一緒に攻略する時は入場料を払わず移転するから、冒険者カードを見られる事はないだろう。
用件を済ませ、冒険者ギルドを後にする。
娘達はダンジョン攻略をしている筈だから、金曜日の夕方に家へ行けば問題ない。
それまで摩天楼のダンジョンを攻略しよう。
「ガーグ老。これから摩天楼のダンジョンに入るわ。セイが攻略していた50階層へ行きましょう」
「姫様。帰ってきたばかりだというに、少しも大人しくする心算はないのかの」
「娘と一緒の時は、Lv上げ出来ないじゃない。私も上げたいのよ!」
「御子にLvを抜かれたのが悔しいようだの。仕方ない、姫様の希望を叶えるとしよう」
ガーグ老の許可をもらい、俺達は冒険者カードを見せ入場料を銀貨3枚(3万円)支払う。
銀貨1枚(1万円)だった迷宮都市ダンジョンの3倍かぁ。
大型ダンジョンは儲かるんだろうな。
一度潜り始めたら半年以上帰還しないので、宿代を考えるとお得かも?
影衆達のガルムにそれぞれ騎乗し、姿を消したままダンジョンを移動する。
隠形しているから、冒険者の視線を気にせず次々と階層を上がれるのは便利だ。
ガーグ老達は、摩天楼のダンジョンをよく知っているので階段への最短距離を進む。
1時間後、11階の安全地帯に到着し昼食を食べる事にした。
食事は毎回、セイが料理してくれるから困らない。
娘がいないくても日本の食材を使用した美味しい料理が食べられるし、結花が作るより旨かった……。
その日は30階まで移動して、安全地帯にマジックテントを張り就寝。
翌日50階に到着したところで漸く攻略を始める。
セイに出現する魔物の種類を聞き、注意する特性を教えてもらいながら倒していく。
両肩に乗ったポチとタマと連携し効率よく狩った。
倒した魔物は全て腕輪に収納し、金曜日に換金しよう。
2日後。
Lv75になった俺は、ほくほく顔で冒険者ギルドの解体場へ向かう。
自分で魔物を換金するのは初めてだ。
解体場にいる男性から指定された場所へ、大量の魔物を出す。
魔物の数に驚かれたが問題なく換金出来た。
後で響へ渡し、日本円にしてもらおう。
再び風竜に変態した2匹で移動し、迷宮都市の家で娘達が帰ってくるのを待つ。
勝手にいなくなったから、随分心配しているだろうな。
一応、妻へ置き手紙を残しておいたが怒られるのは覚悟した方がよさそうだ。
響も美佐子さんへ手紙を書いたと言っていた。
ドキドキしながら待っていると門が開き、娘達かと思い視線を向ける。
「姫様。お話があります」
そこにいたのは、女官達を引き連れた女官長だった。
ガーグ老が連絡をしたのか!?
「えっ? 私に話はありませんけど……」
逃げ出そうとして、姿を現したガーグ老に捕まる。
「姫様。女官長と、よく話した方がいいですぞ?」
いやいや、絶対怒られるパターンだよな!
俺は涙目になりながら、女官長の下へ引きずられドナドナされた。
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