時間も7時を過ぎる事なく換金出来たので、ホームの自宅に兄と2匹を迎えに行き教会の炊き出しの準備を母親達と始めた。
母親達は体長3mもある魔物を初めて見ると少し怖がっていたけど、私と兄が2匹を撫でても大人しくしている様子を見て安心したようだ。
今日は子供達にシルバーとフォレストを紹介してあげよう。
皆テイムされた魔物を見るのは初めてだから喜ぶだろうなぁ。
8時45分。
子供達が炊き出しの列に並び出す。
そこに大きな2匹の魔物がいるのを見て目を輝かせた。
テイムされているため、2匹に狂暴性や獰猛性は全くない。
近付いてもシルバーやフォレストは吠えたりしないので、子供達にも安心して見せてあげられる。
「お姉ちゃん。この魔物は誰がテイムしたの? 大きくてかっこいいね!」
「こっちはシルバーで、兄の隣にいるのがフォレストよ。2匹とも私がテイムしたの!」
「2匹もテイムしたなんて凄いね~。僕、少しだけ触っても大丈夫?」
「優しく撫でてあげれば大丈夫よ。ビックリしないように、そっとしてあげてね」
「うん、分かった!」
そう言って子供達が2匹の周りを取り囲む。
今日ばかりは炊き出しのスープより2匹が人気のようだった。
子供達は怖がる事なく、シルバーとフォレストを撫でている。
スープが出来上がり配る時間になると、名残り惜しそうに離れて食べ出した。
食べながら、2匹の方をじっと見つめているのが分かり苦笑してしまう。
小さな子供はどうしても気になってしまうのか、スプーンを口に入れずに零してしまっている。
それを見た年長者の子供が、慌てて口の周りを拭いてあげていた。
血は繋がっていないけれど、兄妹のように親身に世話を焼いている姿が微笑ましく映る。
子供達に親はいない。
代わりに、同じ家に住んでいる事で沢山の家族が出来ようだ。
パンとスープを食べ終わっても帰ろうとしないので、私はシルバーとフォレストにお願いし、背中に子供達を乗せてゆっくり走ってもらう事にした。
2匹がそれぞれ子供を5人乗せて走り出す。
子供達は背中に乗って楽しそうにはしゃいでいる。
こんな子供らしい姿を見る事が出来て嬉しい。
我慢してばかりの子供達は我儘ひとつ言わないのだ。
全員が騎乗を終えると、兄が大きなみかんを手渡して手を振る子供達を見送った。
少し待ち合わせの時間に遅れてしまったけど、サヨさんはそんな子供達の様子を見ながら教会で待っていてくれたようだ。
「遅くなってしまいすみません」
「いいのよ。この子達が、サラさんがテイムした魔物なのね?」
「はい、大人しくて2匹とも良い子ですよ」
「ちゃんと言う事を聞くのね。私もテイムされた魔物を見るのは人生で初めてですよ。少し撫でさせてもらっても良いかしら?」
「はいどうぞ。噛んだりしないので大丈夫です」
サヨさんは動物好きらしく2匹に近付くと、躊躇いもせず撫でていた。
その後、全員でホームの自宅に移転する。
私とサヨさんは用事があるので、兄達には外食してもらう事にしよう。
サヨさんに2人の仲を気付かれないよう注意しないと。
あの2人は、普段からとても良い雰囲気を醸し出しているからね!
旭なんて、もう兄にべったり依存している感じだし。
バレたらサヨさんが驚き過ぎ、昇天してしまうかも知れない。
「サヨさん。お願いしたい事があるんですが……。今度子供達のために演劇をする事になりまして、その衣装をミシンで一緒に作ってもらえませんか?」
「まぁ、何のお話をするの?」
「浦島太郎です。ただ、本当にその内容になるかは怪しい所ではあるんですけどね。最悪、亀が主人公になりそうな感じの話です」
「はい? 浦島太郎のお話で、何故亀が主人公になるのかしら?」
「何故なんでしょうかね? 私にも理由がさっぱり分からないんですけど……。この世界の冒険者は、最後にお爺さんになる主人公をやりたがらないみたいで」
「どんなお話になるか、逆に興味が湧きます。演劇用の衣装を用意してあげたいのね。ミシンがあれば、手縫いよりかなり早く仕上がるでしょう。問題ありませんよ、協力するわ」
「ありがとうございます。人数は……」
それからサヨさんとデザインを打ち合わせ、細かい日程を決めていった。
男性達の演舞は和装に近いデザインの衣装になった。
勿論、上腕二頭筋が良く見えるようにノースリーブの上着だ!
私は上半身が裸の方が良かったんだけどね~。
小さな子供達がいるからと、兄が全面的にNGにしてしまった事が悔やまれる。
子供達に見せても問題ないと思う。
邪な目で見るのは大人の女性達&一部の男性だけだろう。
そうそう拝むチャンスは無いというのに非常に残念だ。
仕方ないから韓国ドラマで、俳優さんのモロハダシーンを見て我慢してるのよ。
あれは絶対女性向けのサービスカットに違いない。
やたらシャワーシーンが多いんだもの。
個人的には、シャワー後バスタオルを腰に巻いただけの状態がお気に入りです。
リリーさんと私の扇舞の衣装は、乙姫様に相応しいひらひらとしたデザインだ。
異世界で、このデザインはかなり斬新に見えるだろうなぁ。
女性冒険者から華蘭に注文が殺到しそうだよ。
サヨさんは店の売上も考えてデザインしたのかしら?
余り時間もないので、午後から型紙を起こして裁断作業に入る。
サヨさんが型紙を作成している間に私は昼食の準備だ。
懐かしいだろうと思い、朝から煮込んでいたおでんに再び火を付ける。
大根・コンニャク・卵・餅巾着には、味がしっかりと染みている頃だろう。
おでんが温まったら、サヨさんに作業を中断してもらい一緒に昼食を食べる事にする。
各種のおでん種を一通り深皿に盛り、辛子と柚子こしょうを用意した。
おでんには隠し味として、コクが出るように黒砂糖が入っている。
これは母のレシピだけど、きっとサヨさんから教わったものだろうな。
「頂きます」
サヨさんは、おでんをとても美味しそうに食べてくれたのでほっとした。
母から教わった料理の味は、サヨさんにとっても懐かしいものであったに違いない。
私も味の染みた大根を口にする。
やっぱり、おでんに入っている大根は外せない。
餅巾着も卵も朝から煮込んでいたので良い味になっている。
兄達の夕食は、おでんを食べてもらう事にしよう。
私はサヨさんと一緒に、お礼として外食する予定だ。
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