日曜日。
今日は、先週引き取ったカーバンクルの宝石の加工をする予定だ。
スマホで撮った写真を見ながら、どの色の宝石を使用するか悩む。
ルビー色の赤、サファイヤ色の青、エメラルド色の緑、シトリン色の黄色、無色はカットの仕方でダイヤモンドみたいになるだろうか?
カーバンクルの宝石は直径10cmの球体だ。
どれも内包物が無い。
一体何の素材で出来ているのか……謎だ。
これは鉱物なんだろうか?
異世界に成分分析が出来るような化学技術は無いだろうから、鑑定の魔法を使用して判別しているんだろうな。
本来ならこのままの状態の方が価値があるのかも知れないが、装飾品として使うにはサイズが大きすぎる。
水晶占いに使用するサイズの宝石を、首から下げるのは無理だ。
画像を見るとカットの種類も沢山あった。
どれも非常に細かい作業を必要としているようだ。
初心者の俺に雫型とかハート型は難しいだろう。
今日は緑色の物をカットしてみるか。
色も同じだし、エメラルドカットに挑戦だ。
まずは10cmもある丸い宝石を、ライトボールを電子メスのように細く出して練習用に幾つかに分けてカットしていく。
上手く出来なければ、また腹を壊した事にして解体場でカーバンクルの宝石を引き取れば良い。
残り銀貨50枚で、5個は引き取る事が出来るからな。
沙良が20歳になるまで後2年半。
それまでには、納得のいくペンダントトップが出来上がるだろう。
1カラットの細工が加工出来るようになるまで、魔力操作も兼ねて練習あるのみだ。
1つの宝石を30個に分けて、画像を見ながら細かい作業を黙々と続ける。
エメラルドカットは上から見ると単純そうに見えるが、ファセットの数は50と意外と多い。
これは50回カットする意味を示している。
俺は難しい手術を熟すように意識を指先に集中させる。
失敗しても命に危険が及ぶ事はないので気が楽だ。
これは案外、外科医としての技量を保つために有効な作業かも知れない。
出来れば手術用ルーペを掛けて作業したい所だ。
若い分視力に問題はないが、これだけ細かい作業を要求されると肉眼では少し難しい。
本職の人は俺と違って電子メスでカットしている訳じゃないから、指先の感覚頼りなんだろう。
宝石のカットは、やってみると俺には向いていたようだ。
あまり趣味のない俺にとっての、新な趣味になりそうだ。
将来的に是非、ダイヤモンドのラウンドブリリアントカットが出来るようにしたい。
色付の宝石も良いが、沙良がいつか結婚したいと思う時が来るかも知れないからな。
婚約指輪は、やはりダイヤモンドを付けさせてあげたい。
その時は俺が父親の代わりにバージンロードを歩いてやろう。
まぁ、まだ妹はこの世界では17歳だ。
結婚するのは当分先の話になるだろう。
相手も居ないのに気が早いか……。
美少女になってしまった妹には相手が選び放題だ。
変な男に引っかからないよう、注意してやらないと。
旭が居れば背中を後押ししてやるんだが……。
あいつは性格も穏やかだし、女性には優しかった。
童顔だったので一緒に居ても同い年に見られた事がない。
2歳差はあまり感じないだろう。
そもそも子供の頃から一緒に育ってきた幼馴染だからな。
恋人と長く続かなかったのは、沙良の存在があった所為だろう。
何よりよく知っている人間として推薦出来たのに……。
なんで亡くなってしまったんだ……。
沙良の結婚相手に思いを馳せながら、少ししんみりとする。
俺は再び指先に意識を向け、エメラルドカットを施していく。
初日の今日は5個作業しただけで、随分と集中力が持っていかれた。
作業開始から2時間は過ぎている。
画像のような綺麗なカットには当然なっていない。
まだ始めたばかりだしな。
沙良が俺の部屋に来る事はあまりないが、一応目に見えない場所に隠しておこう。
カーバンクルの宝石一式を袋に入れクローゼットの奥にしまった。
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