そうして沙良が一瞬にして、ホームの自宅まで俺達を連れて帰ってくる。
旭が沙良の自宅に着いて開口一番に言った事は、「取り敢えず、シャワーを浴びさせて欲しい!」だった。
余程、日本の生活用品を使いたかったんだろう。
異世界じゃボディーソープもシャンプーもリンスも無い。
いや、もしかして沙良の自宅の風呂に入りたかったのか?
そんな変態的な理由じゃないよな?
告白する事は許したが、妹を余り変な目で見るなよ。
旭がシャワーを浴びている間、沙良がこれからどうしたいか聞いてきたので親友と久し振りに酒を飲みたかった俺は居酒屋に行く事を希望した。
シャワーを浴びてさっぱりした旭が沙良の用意した服を着て出てくるのを待ち、3人で近所の居酒屋に歩いていく。
旭にとっては実に11年振りとなる食事と酒だ。
居酒屋に入ると、電子メニューで早速飲み放題コースを2名分注文する。
沙良は酒が飲めないので、グレープフルーツジュースを注文していた。
それぞれの食べたい物を聞きながら料理を選んで注文。
テーブルの上に一瞬にして枝豆・手羽先・だし巻き・ホッケ焼き・揚げ出し豆腐・串カツ盛り合わせ・焼き鳥盛り合わせが置かれた事に、旭が驚きながらも感動していた。
夢にまで見た日本料理だからな。
「まずは、乾杯~!」
「「乾杯~!」」
「あ~ビールが美味しい~!!」
旭がビールを一気飲みする。
あぁ今日は、大いに飲んで腹が一杯になるまで食べろ。
俺も旭に釣られてついつい酒が進んだ。
2人してハイペースで飲んでいた所為か、気が付けばテーブルの上に2万円が置かれ沙良の姿が消えていた。
久し振りに再会した親友との時間に遠慮した訳じゃなさそうだ。
きっと酔っぱらい相手に面倒になったんだろう。
そして何故俺達は、泣きながら抱き合っているんだ?
記憶が無い……。
どうせ抱き合うなら違う相手がいい。
少し酔いが覚めた俺は、抱き着いている旭を強引に引き剥がして席を立った。
トイレから帰ってくると、旭はへべれけの状態だ。
こりゃ酔いが覚めるまで時間が掛かりそうだな。
テーブル上の2万円を財布にしまい、俺はゆっくりとしたペースで酒と料理を食べ始める。
旭が酔っぱらい特有の支離滅裂な事を言っているが、どうせ明日は何を言ったか覚えていないだろうと適当に相槌を打っておいた。
そんな時間を2人で過ごせた事だけでも俺は嬉しかったんだ。
そうこうする内に、酔いが回ったのか旭はそのまま眠ってしまう。
気持ちよさそうに寝ている姿を見て、俺は起こさないようにそっと旭を抱きしめた。
酔いが覚めた状態で、親友が生きて目の前にいる事を夢じゃないともう一度だけ確認したかった。
酒が入った所為か体温が僅かに高い。
あぁ、本当に生きてくれている。
頸動脈に指を触れると心拍も強く正常な状態だ。
胸が上下しているから呼吸もしっかりとしている。
俺が少しの間、感傷に浸っていると旭が小さく呟いた。
「沙良ちゃん、会いたかったよ……。賢也、愛してる……」
寝言か……。
お前言う相手が逆になってるぞ?
夢の中でも、残念な親友に苦笑する。
「あぁ、俺も家族のようにお前を愛してるよ旭」
この時言った言葉を後日うんざりする程後悔させられるんだが、その時の俺は知らず幸せそうな旭の寝顔を長い間見ていた。
意識の無い男1人を背負って帰るのは素面の状態でもキツイので、旭が起きるまで待って一緒に帰ろうと思っていたがどうやら俺も寝てしまったらしい。
少々、酒が過ぎたみたいだ。
昨夜は深夜から飲み始めた事もあって、目が覚めたのは翌日の昼過ぎだった。
2日酔いのだるさを引きずりながら自宅に戻ると、沙良が明日の朝5時いつものように地下1階の女性冒険者の治療をしてほしいと言う。
昨日はダンンジョンから出ずに直接ホームの自宅に帰ってきたから、辻褄を合わせたいんだろう。
2日酔いの薬をありがたく受け取って、俺達は部屋に帰った。
薬を飲みシャワーを浴びて頭をすっきりさせると、旭がトイレから出てきた。
「賢也。トイレがあるって素晴らしい! そして俺、凄く良い事があったんだ!」
いかにも聞いてくれと言わんばかりだったので質問してやる。
「何があったんだ?」
「起きたら息子が勃ってた!!」
そりゃ男の生理現象だ。
若返って多少勢い良くなったかも知れないがと考えて、俺も初日の朝に感動した事を思い出した。
「そうか、若いっていいだろ?」
「うん。なんだろう、やっとこう自分が男だって実感出来たよ!」
話が少し噛み合わない気がするが、もともとこういう相手だ。
大した事じゃないだろう。
だが、後で話を聞いて同情した。
不老になってから全く勃たなくなったそうだ。
それは男のアイデンティティを失くしたも同然だ。
45歳では早すぎる。
沙良の前では話し辛かったらしい。
当り前だ!
妹に変な話を聞かせるんじゃない!
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