【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第313話 迷宮都市 貴族との接触 1

公開日時: 2023年3月29日(水) 12:05
更新日時: 2023年8月16日(水) 22:46
文字数:1,986

 日曜日。

 朝7時に教会へ行き、母親達と炊き出しの準備を始める。

 いつもの具沢山スープに今日はコンソメを入れた。


 兄達は子供達がくるまでやる事がないため、シルバーとフォレストに芸を教えている。


 お手とお座りだ。


 2匹は2人の言う事が分からないので、首をかしげ私を見てくる。

 やはりテイムした人間の言う言葉しか理解出来ないらしい。

 

 兄がフォレストと果物採取に行く前に、私が兄を守ってねとお願いをしているから一緒に行動してくれているのかな?


 旭がてのひらを見せ、シルバーがお手をしてくれるよう必死に頼んでいる。

 兄は言葉が理解出来ないと気付いているのか、フォレストの前足を自分で持ちてのひらに乗せる事を繰り返しているようだ。


 犬じゃない迷宮タイガーに、その動作は意味が不明すぎて分からないんじゃないかしら?

 猫って芸を覚えるんだっけ……。


 シルバーなんて旭の手を甘噛みしてるしね~。


 私とよくフリスビー投げをして遊んでいるのは、遊び方をちゃんと教えたからなのよ。

 言葉が通じない時点で、シルバーがお手とお座りが出来るようになるとは思えないんだけど……。


 手を噛まれた姿を見た母親達がぎょっとしたのか、私の方に心配そうな視線を送ってくる。


「じゃれて遊んでいるだけだから大丈夫よ」


 私の声にほっとし、再び2人が2匹とたわむれている姿を見守っていた。


 彼女達から見れば5歳以上も年下の男性2人が、テイムされた従魔と遊んでいる様子が微笑ましく映るのだろうか?


 あっ、昨日恋人だってバラしちゃったから、違う意味で微笑ましく見ているのかも知れない。


 もう従業員公認の仲だから、早く結婚式の準備をしないと。

 昨日、この世界の結婚式の仕方を聞くの忘れていたわ!


 教会があるから、式は教会で挙げるのかしら? 


 8時。

 いつもは8時45分頃に集まってくる子供達だけど、今日はやけに早くから集合してきた。


 先週シルバーとフォレストをお披露目ひろめしたので、スープが出来上がるまで一緒に遊びたいんだろう。

 体長3mもある大型魔物は子供達にとって興味一杯の対象だ。


 2匹に怪我をさせないよう背中に乗せてねと頼むと、兄と旭が小さい子供を1人ずつ抱き上げそれぞれの背中に乗せ走らせてあげていた。


 見ているだけで心がなごむ。


 そう言えば『肉うどん店』の子供達には、シルバーとフォレストに会わせていなかったな。


 次回の懇親会に連れていこう。

 『製麺店』の皆にも紹介しておかなくちゃ。


 いつもの時間にスープとパンを配り、子供達の食べている様子を見守る。

 先週小さい子供達がスープをこぼしていた事を覚えているその家の年長者が、隣に座って食事の補助をしてあげているようだ。


 他事に気を取られると小さな子供は食事に集中出来ないからね。

 シルバーとフォレストは、子供達が見える位置へ横になり寝そべっていた。


 今日もまた、小さな子供達の視線は2匹に釘付けだ。

 スープを口からこぼしてしまわないよう、見ているとハラハラするよ。

 

 母親達が2匹に近付き、恐る恐る毛をでている。

 慣れるまでもう少し時間がかかりそう。


 そんな穏やかないつもの時間が、ある貴族が訪れた事で一変する。

 若い20代前半に見える男性が、3人の護衛と共にこちらへくるなり言ったのだ。


「おい! その2匹の従魔を俺が買い取ってやるから寄越よこせ!」


 着ている服装で直ぐに貴族だと分かった。

 威圧的な態度も、私達が庶民だとあなどっているからだろう。


 自分の意見が通るのが当たり前の生活に慣れているのか、護衛達も主人の言う事に異を唱えない。


 いきなり教会の炊き出し中に無遠慮ぶえんりょに入り込んできた貴族の若者に、私はブチギレ寸前だ。


 母親達の方を見ると顔面蒼白そうはくになっている。

 厳格な身分社会に生きている人達なので、貴族には逆らえないと思っているんだろう。


 姿から相手が貴族だと分かると、小さな子供は怖がり近くにいた兄や姉の後ろに隠れてしまった。


 迷宮都市で、初めてテイムされた従魔の事をどこからか聞いてきたのだろう。

 いつか貴族と相対する事があるかも知れないと思ってはいたけど、子供達がいる場所でとは予定外だった。


 日本人の私からしてみれば、貴族なんて身分はそれがどうしたの? という程度。

 そんなものの、どこが偉いのかさっぱり分からない。


 ただ貴族の家に生まれたからって、横暴な態度を取る人間に礼を尽くす必要はないだろう。

 しかも今回は私の従魔2匹を、いきなり買い取ると言ってきた。


 テイムした人間が私なのに、買い取ってどうする心算つもりなのかしらね?

 シルバーとフォレストは、私の言う事しか聞かないわよ?

 どうやらテイム魔法の事をよく知らないらしい。


 きっと物珍しさから、欲しがっているだけなんだろう。

 連れて歩いたらはくが付くとでも思っているのか……。


 これは喧嘩を売られたと思っても良いわよね!

 兄も私が喧嘩を買っても、今回は怒らないだろうし……。


 いっちょカマしますか!


 私は馬鹿な貴族のボンボンに近付こうと、1歩足を踏み出した。

 

 瞬間――。

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