工房を出てから華蘭に寄り、サヨさんを連れホームへ戻る。
兄と旭は病院で勉強会。
雫ちゃんとお母さん、茜とセイさんにはゆっくりと休日を楽しんでもらおう。
私はサヨさんと母と一緒に、急な役柄の変更があった劇の衣装サイズを手直しする。
アマンダさんのサイズで作製した白雪姫の衣装は、私には大きすぎるのでかなり丈を短くする必要がありそうだ。
ケンさんがする予定だった魔女役はアマンダさんへ変更になったけど、この2人は身長にさほど差がない。
胸の部分だけ、少し余裕を持たせるだけで済みそうね。
リリーさんから変わった旭がする人魚姫は、そこまで変更する箇所はないか……。
胸の詰め物だけ考えればいい。
サヨさんと母へ私が白雪姫を演じる報告すると、それは見にいかなくちゃと手を叩き合い喜んでいた。
白雪姫のキスシーンがないから、死んだままだと2人が悲しむだろうな。
どうにかして生き返る算段を付けないと……。
衣装直しの次は、私の結婚式の衣装を決めよう。
樹おじさんが代役をする話になっているけど、女性化した姿を見ていないため本当に務められるか疑問だ。
「お母さん。女性化した樹おじさんが、もし代役が無理だった場合に備えて私の結婚式の衣装を買いにいきたいんだけど」
「あぁ、樹さんが魔法で女性化するのよね。彼は尚人君と一緒で可愛らしい顔をしてるけど、女性化した姿が想像出来ないわ。体だけ女性になるのかしら? しかも一度使用したら50日間、同じ姿のままなんでしょう? 結花さんが困りそうね」
母はそう言って片手を頬に付け、ほうっと息を零した。
「雫ちゃんのお母さんは3人目が欲しいと言ってたから、樹おじさんが女性化したら妊娠出来なくなっちゃうか……」
「それがね、どうも若くなった結花さんに遠慮して手を出さないみたいなのよ」
「えっ!? じゃあ、まだ一度も?」
樹おじさんが迷宮ウナギの蒲焼を食べなかったのは、それが理由か!
「えぇ、そうみたい。娘と同い年の妻を抱くのに抵抗があるのかしら? でも50年以上夫婦でいたのに今更よねぇ」
「あ~、別人になった姿だし、雫ちゃんのお母さんは初めてだから尻込みしてるのかもね」
「結花さんは、毎晩やきもきしているそうよ。雫ちゃんに雅人と遥斗がいたように、この子と同い年の子供が欲しいみたい」
母がまだ大きくなっていないお腹をそっと撫でる。
香織ちゃんも、一緒に育つ幼馴染が欲しいだろう。
もしかして樹おじさんが兄へ目配せしていたのは、妻に内緒で卵型のお世話になっていたからかしら?
奏伯父さんの娘になった雫ちゃんのお母さんは、乙女ゲームの主人公らしく非常に可愛い。
生前の、きりっとした美人な姿とは正反対の容姿だ。
20歳の妻相手に罪悪感があるんだろうか?
誰だって、初めてがあるのにね。
まぁ夫婦の問題は2人が解決するしかない。
その気にならない樹おじさんを攻略するのは、そう難しくないだろう。
42歳なら、まだ現役だ。
いずれ我慢が利かなくなって手を出すと思うよ?
母から意外な話を聞いて少し驚いたけど、心配しなくても雫ちゃんの妹か弟は生まれるに違いない。
私はサヨさんと母を連れ、ブライダルショップへ移動した。
結婚式当日は襲撃が予想されるので、レンタルより買い取りを選ぶ。
型落ちの衣装なら、20~30万円で購入可能だ。
3人でウエディングドレスをあ~でもないこ~でもないと言い合いながら、楽しく試着する。
結婚の予定もなかったから、実は花嫁衣裳を着られてちょっと嬉しい。
母に試着した姿を見せられたしね。
まぁ、相手はいないけど……。
いや、一応ガーグ老が夫になるのか?
動き易いシンプルなデザインを選んで購入し、店を出る頃には夕方になっていた。
知らない間に随分と時間が経っていたらしく、慌ててサヨさんを華蘭に送りガーグ老の工房へ向かい父達を迎えにいく。
ガーグ老へお礼のショートブレッドを渡し、工房からホームに戻った。
念話の魔道具で兄に帰ってくるよう伝え、夕食の準備を始める。
茜から味噌カツのリクエストがあったので、アイテムBOXへ収納した揚げたてのカツに味噌ソース・千切りキャベツ・ナポリタンを添えよう。
豆腐とワカメの味噌汁を作り兄達の帰りを待つ。
全員揃ったら5人で夕食。
「旭。人魚姫の衣装直しをしたから、後で試着してね!」
「うっ……うん」
まだ人魚姫役に抵抗があるのか、旭は微妙な表情になった。
「金髪の鬘も用意したのよ~。衣装と一緒に付けてみて」
「沙良ちゃん、楽しそうだね。白雪姫の方は大丈夫なの?」
「衣装のサイズ直しはバッチリよ! 内容に付いては……、何とも言えないわ」
「だよね~。当日、どうなるか本当に分からないから心配なんだけど……。ちゃんと覚えた台詞を言えるのかなぁ」
冒険者達が暴走するのを知らない茜は、私達の会話を不思議そうに聞いていた。
きっと、とんでもない内容になると思うよ。
食後。
手渡した衣装と鬘を手に持ち、旭が着替えてくると言い兄と一緒に部屋へ入る。
10分くらいして、兄にお姫様抱っこされた人魚姫が頬を染め出てきた。
あら、可愛い。
だけど、妙に胸の部分が大きいような?
私が付けた詰め物よりサイズが変わっているんだけど……。
足の部分は魚になっているから歩けないため、兄が運んできたようだ。
金髪のカツラも付けて、人魚姫らしくなっている。
胸の部分以外は肌色の生地にしてあるから、遠目からは裸の状態に見えるだろう。
異世界人には刺激が強い衣装かもね。
「あの……、俺で本当に大丈夫かな?」
男性が人魚姫役をするのが心配なのか、旭が私達に対しおずおずと意見を聞く。
「うん! 似合ってるから大丈夫だよ! 可愛い人魚姫の誕生だね~」
そう親指を立てて問題ないと笑顔で伝えると、旭の顔が見る間にがっかりした表情になる。
「俺、似合ってるんだ……。可愛いと言われても嬉しくない」
まぁ、贅沢な悩みね。
「それより、胸の詰め物を増やした?」
「あぁ、それは……」
何故か旭と兄が口籠り、そっぽを向いてしまう。
明らかに大きくなった胸をじっと見つめると、観念したのか兄が口を開いた。
「少し足りないようだったから、調整したんだ」
旭が嫌がると思い控えめにしておいたのに……。
どうやら2人は小さいと感じたようだ。
胸の大きさに拘りでもあるのかしら?
旭の人魚姫姿を見た茜が揶揄うかと思っていたけど、一瞬目を瞠った後で兄に抱かれたままの旭の頭をポンと叩き、
「良く似合ってる」
と言い褒めていた。
それを聞いた旭が恥ずかしそうに、兄の胸へ顔を埋める。
兄は、おやっ? とした顔をし再び部屋に戻っていった。
2人の仲は、少し改善されたのだろうか……。
意地悪を言わない茜に兄も感じる所があったようだ。
私達の遣り取りを見ていたセイさんは、何だか微笑ましいものでも見ているかのよう。
何も言わず穏やかに笑っていた。
竜の卵に魔力を与えたら1日は終わり。
今週日曜日には劇の発表、来週日曜日はついに結婚式が待っている。
忙しくなりそうだなと思い、茜に運ばれベッドへ降ろされると意識を失った。
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