日曜日、朝7時。
朝食後に兄へ受け取った槍を渡すと、それを見た旭が羨ましそうな顔をする。
兄はロマン武器が手に入り嬉しのか、穂先を見つめニヤニヤしていた。
アダマンタイトはキラキラしているから、見た目も綺麗な鉱物だし切れ味も鋭い。
旭にとって血の繋がりはないけど、シュウゲンさんは祖父になるのでお願いすればいいと思うよ?
実家に泊まったシュウゲンさんは、ガーグ老と再戦すると言い武術稽古に付いてくるそうで、隣の奏伯父さんもやる気をみせている。
異世界の家へ移転し母親達と一緒に炊き出しの準備を始めた。
槍のLv上げで沢山狩ったハイオーク2匹分の肉を引き取り、お肉屋さんに解体してもらったから、子供達の好きな串焼きも作ってあげよう。
バーベキュー台を出し、串に刺したハイオーク肉を焼き始めると父とシュウゲンさんが代わってくれる。
8時に子供達が集まる頃は、串焼きの匂いが庭に充満していた。
スープだけじゃなく、今日は串焼きもあると知った子供達が笑顔になる。
塩味ではない『焼肉のタレ』の香ばしい匂いに、食べた事のある味を思い出したのだろう。
従魔達と遊びながらも、バーベキュー台に目が釘付けだ。
どうせなら熱々の状態で食べてほしいから、焼きあがった串焼きはアイテムBOXへ収納しておこう。
具沢山スープと大きくカットした串焼きを1本ずつ渡し、兄達がパンを配ると一番に串焼きを頬張る子供達の姿が微笑ましい。
子供達に支援をしていると知ったシュウゲンさんが、「優しい孫じゃな」と言い頭を撫でるので、祖父との記憶が殆どない私は少し恥ずかしい思いをする。
食べ終わった子供達へバナナを渡し見送った後、従魔に乗りガーグ老の工房へ向かう際、シュウゲンさんには旭と一緒に山吹へ乗ってもらった。
父や奏伯父さんは体格が良いので、一番背が低い旭の従魔なら負担も少ないだろう。
ガーグ老の工房へ着いた途端、ポチとタマが飛んできて樹おじさんの両肩に止まり、ご機嫌な様子で体を揺らしていた。
「サラ……ちゃん、ようきたの。シュウゲン、お主までまたくるとは……」
ガーグ老がシュウゲンさんを見て、苦虫を噛み潰したような顔になる。
シュウゲンさんは初対面みたいだったけど、2人の間には何かあったんだろうか?
姫様であるヒルダさんの武器をシュウゲンさんが鍛えたなら、護衛していたガーグ老と面識があってもおかしくない。
けど、そのヒルダさんって数百年前に亡くなったのよね?
あれ? じゃあ、ガーグ老達は人間じゃないのかしら?
獣人も種族によって、かなり長命だと聞く。
耳や尻尾が付いていれば見た目で分かるんだけどなぁ。
この世界の獣人は、人間と変わらない姿をしているから判断出来ない。
種族を聞いても良いものだろうか? ステータス同様、聞くのはタブーかも知れず質問するのは躊躇われた。
後で、こっそりドワーフのシュウゲンさんに聞いてみよう。
「先週の決着がまだ付いておらんじゃろう。今日こそ、お主に勝ってやる!」
「ガーグ老。どうか私とも、本気で手合わせをお願いします!」
シュウゲンさんと奏伯父さんがガーグ老を相手に得物を構え、やる気満々で言い募る。
「ふん。儂に勝とうなぞ500年早いわ!」
500年って……普通は、もう亡くなってますけど?
言葉の綾にしては具体的な数字だなぁ。
やはり獣人なのかしら?
「あ~、カナデさん。儂が本気で相手をするのは、少し問題が……。既に、充分な腕を持っておりますぞ!」
何故か奏伯父さんに対して、ガーグ老は消極的な態度をみせる。
伯父は貴族なので何か問題があるのだろうか?
「ガーグ老! そこを何とか!」
武闘派の伯父は、手加減されたのが悔しいのか更にお願いしている。
ガーグ老は困ったように笑い、長男のゼンさんに勝てたらと了解したようだ。
という訳で稽古開始からガーグ老とシュウゲンさん、ゼンさんと奏伯父さんの手合わせが始まり、私は樹おじさんから教えてもらう事になった。
現在の槍術Lvを聞かれLv7だと答えると、「Lv10まで頑張ろうな~」とにこにこ笑いながら励まされる。
なんだろう? 実年齢を知っているのに、子供に対するような態度だ。
20歳の見た目に引きずられているのかしら?
結局、稽古中にガーグ老とシュウゲンさんの決着は付かなかったらしく、奏伯父さんはゼンさんに負けショックを受けていた。
昼食の準備をしようとした所で上空から「ピー」という音がし、顔を上げ空を見上げると複数の魔物が空を飛んでいる姿が目に映る。
えっ? 異世界では、人間の生活圏内に魔物が侵入する事はないのに……。
従魔達の様子を窺うと特に警戒態勢を取っていないから、危険はないのかな?
そのまま見続けていると、こちらへ向かっているように感じた。
「おおっ、やっと騎獣が届いた!」
ガーグ老が空を飛ぶ魔物を見て叫び、どんどん近付いてくる魔物の姿がついに真上まできた。
騎獣ならテイムされた魔物なんだろう。
私は警戒を解き、ガーグ老の庭へ降りてくる騎獣をよく見ようと目を凝らす。
羽もないのに空を飛べる、真っ赤な色をした犬系の魔物だろうか?
その内の1匹に人が乗っている。
人が乗っている騎獣が先頭になり次々に庭へ降り立った。
体長は3mくらいでシルバーウルフと変わらない大型魔物が10匹。
騎乗していた人がガーグ老へと一礼し、手にした笛を渡している。
「翁、大変お待たせ致しました。ご依頼の騎獣を、先ずは10匹納めさせて頂きます。残りの騎獣は調教が済み次第運びますので、もう暫くお待ち下さい」
「騎獣を待っておったのだ、本当に助かるわい。無理を言ってすまんの、遠くまでご苦労だった。今夜は家に泊まるがよい。帰りは、こちらで手配する」
「はっ! ありがとうございます」
騎獣を運んできた人がガーグ老へ挨拶を終えるのを見ていたら、その人が振り返り目が合ってしまう。
とても美しい男性で、どことなく摩天楼の冒険者ギルドマスターに雰囲気がよく似ていた。
その彼が、私を見るなりとても驚いた表情になる。
「……ヒルダ様? いやあの方は……、それに幼い姿でいらっしゃる……」
そう呟いた後、周囲を見渡し樹おじさんの両肩に止まっている白梟へ目を止めた。
「姫様!?」
あ~また勘違いが発生したみたいで、樹おじさんはぎょっとし父の背中に隠れてしまった。
それには意に介さず男性は回り込み、おじさんの前までくると膝を突き騎士の礼をし、声を掛けられるのを待っている。
「その~何だ……、俺は姫様じゃない。魔力が似ているそうだけど、理由はガーグ老から聞いてくれ」
樹おじさんは人違いを訂正して彼を立たせ、困ったように視線を彷徨わせていた。
「何か……あるのですね。分かりました」
男性は私に再び視線を向け一礼した後、ガーグ老の下へと戻っていった。
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