土曜日は、午後からホーム内で娘が出した魔物を倒しLv上げを行う。
妻と同じLv50になったと報告したら恩恵を聞かれた。
転移した人間は、Lv50になると新しい魔法が増えるらしい。
当然Lv70ある俺に恩恵はなく、何も覚えられなかったと伝えたが……。
Lv100になったら、俺にも新しい魔法が増えるんだろうか?
日曜日。
子供達の炊き出しを終え、ガーグ老の工房へ。
ポチとタマが飛んでくるなり両肩に止まる。
娘は、駆け寄ってきた10匹のガルム達の頭を1匹ずつ撫でていた。
「おはようございます。皆さん、今日もよろしくお願いしますね」
「サラ……ちゃん、よう来たな。どれ、今日は久し振りに儂が相手をしようかの」
ガーグ老が稽古相手を務めるようだ。
俺は、少し離れた場所で剣の型稽古をしながら2人の様子を窺った。
最初は普通に槍を繰り出していた娘が、何度もガーグ老に躱され不満なのか槍を投げつけ始める。
おいおい、どれだけ槍を持っているんだ?
100本を超え地面が槍だらけになっている。
「サラ……ちゃんは、負けず嫌いだのぉ。姫様とそっくりだわ」
「あの、聞いて良いか分かりませんが……。護衛していた姫様は生きてらっしゃるんですか?」
そんな娘の行動を、俺にそっくりだとガーグ老が言う。
しかし娘に確信をついた質問をされ、視線を彷徨わせた爺がちらりとこちらを向いた。
「姫様は……、生きておられる。今も元気に剣の練習をしていなさるよ」
そんな事を言ったらバレるじゃないか!
演技は期待してないが、もっと上手く誤魔化してくれ!
ドキドキして娘の反応を見ると、何も言わずに黙ったままだった。
よく分からないが、背を向けているガーグ老は娘が納得するような仕草でもしたんだろうか?
稽古が終了し、響とガーグ老の3人で工房内に入る。
先程の件を聞こうと思ったら、ガーグ老の方から話を切り出された。
「姫様。御子のLvが随分上がっているようですぞ。内緒で階層を移動されてはおらんかの?」
なんだって?
「摩天楼のダンジョン31階から移動はしてないと思うが……」
響が怪訝そうに言う。
今は安全地帯のテントから出ず、魔物を倒している筈じゃ?
あぁ待てよ、一緒にいるのは茜ちゃんか……。
彼女はLv上げに貪欲だから、娘が内緒で階層を移動するのに賛成しそうだな。
「ええっと、どれくらい上がったように感じるのかしら?」
「儂の体感では倍くらいかの」
倍って何!? 娘のLvは55じゃなかったか?
一体どんな魔物を倒したら、そんな急にLvが上がるんだ!
「後で沙良に確認しておこう。テント内で大人しくすると思ってたが、以前も内緒でLv上げをしていたからな。また一番上の階層から攻略している可能性がある」
魔物がいる一番上の階層なら99階だ。
いくらなんでも『万象』達が追いつけないだろう。
護衛がいない状態なのは拙い。
「困った子ね。移転の能力は便利だけど、本当に厄介だわ」
「お前に似たんだろう」
そう言いながら、響が俺を見て大きな溜息を吐く。
俺は否定するように顔をぶんぶん横に振ったが、隣でガーグ老は何度も頷いていた。
娘のLvが上がった件を聞き、すっかり先程の話を聞くのを忘れてしまう。
工房から出ると、今日も三男役が料理を配膳していた。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『サーモンのムニエル』・『シチュー』・『ロールパン』です。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
沙良ちゃんの合図で皆が一斉に箸を付ける。
「おぉ! 揚げた物もいいが、これも中々旨いの~」
食べたガーグ老が感想を言い、満足そうに笑っていた。
妻は妖精のお供え用にホットケーキを作っていたから、木から落ちる心配はしなくてもいいな。
「そろそろ結婚式の準備を始めた方がいいと思うが、サラ……ちゃんの衣装は決まっておるのか?」
「ガーグ老、実は……」
結婚式の衣装を聞かれた娘が、言い辛そうに代役を立てる話をする。
まぁ、その代役は女性化した俺なんだが。
「なんと! 相手はサラ……ちゃんではないのか!? それなら、儂も正装せねばなるまい。イツキ殿の着飾った姿を見られるとは……。長生きはするもんだわ」
ヒルダの姿に戻り、偽花嫁になると知ったガーグ老が張り切り出す。
俺は3度目の結婚式の相手が爺だと思うと憂鬱な気分になった。
衣装は、なるべくシンプルな物にしよう。
いかにも花嫁衣裳だというフリフリのドレスは着たくない。
娘達が工房を出てから響に話を聞くと、やはり99階の魔物を倒していたみたいだ。
しかもベヒモスって……、普通は2人で倒そうとする魔物じゃないよな?
俺だって、そんな無謀な真似はしない。
娘のLvは105になっていたらしい。
俺より上じゃないか!
基礎値が高い分まだステータス値は勝っているが、その内逆転されそうだ。
俺もLv上げの方法を考えておこう。
2週間後の結婚式には間に合わないだろうが、今後を考えると100までは上げておきたい。
恩恵も何があるか楽しみだ。
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