『毒消しポーション』の販売を知り薬師ギルドに向かおうとした所、受付嬢がノックもせず息を切らして部屋に飛び込んできた。
何か問題が起こったのかと私は身構える。
この受付嬢はサラ様を担当している者だ。
年齢の割に目端が利くから重宝している。
それに人族には珍しく人物鑑定の魔法も持っていた。
受付嬢は一度大きく息を吸い込み呼吸を整えると、
「アマンダさんとサラさんのパーティーがマスターにお会いしたいそうです。既に会議室へお通ししています」
と告げた。
攻略始めの月曜日に、アマンダさんとサラ様のパーティーが会いにくるなんて嫌な予感しかしない。
「分かった、連絡ありがとう。直ぐにいく」
扉を押さえ立っている受付嬢の横を走り抜け、会議室へと急いだ。
部屋に入ると、皆の表情が思わしくない。
やはり、何かあったのか……。
「時間が惜しいから、挨拶は抜きだよ。サラちゃん、呪具をテーブルの上に出しておくれ」
私の顔を見た瞬間、アマンダさんが用件を話し出す。
そしてサラ様が取り出された丸い球状の物を見て顔色が変わった。
既に無色になっているのは、効果が切れた状態の呪具だ。
一体、なんでこんな物をサラ様が持っていらっしゃるのか……。
「見た通りの禁制品が、地下14階と地下13階のダンジョン内で発見された。色は赤紫・赤緑・黒だよ。この6個は、もう効果が切れている。今日地下1階から地下14階まで攻略中に、魔物の数が異様に多かった原因だろう。まだ他にもありそうだけど、ギルドマスターに伝えるために帰還してきた」
アマンダさんは、呪具がダンジョンで発見された事を知らせにきたようだ。
しかしその呪具の色を聞き、更に驚く事になる。
効果時間の違う3色の呪具をダンジョンに設置するとは、これはもしやアシュカナ帝国の仕業か?
禁制品の呪具は浄化の魔法でないと解除は出来ないし、購入するにもかなり高額になる。
一個人が持てる品ではない。
そういえば、あの国の諜報員が道端で亡くなっている話を耳にした。
この件に関してはサラ様の周囲に危険人物がいると判断した、『万象』達が処理していると思っていたが……。
何やらきな臭い話になってそうだ。
魔物の出現率を上げる呪具を、ダンジョンに設置するとは卑劣な真似をしてくれる。
それも王族がいる、この迷宮都市のダンジョンに!
私はアマンダさんに知らせてくれた礼を言い、冒険者の身を案じた。
彼女は既に呪具が設置されている事を、攻略中の冒険者達へ連絡する指示を出してくれたらしい。
ここからは時間との勝負になるな。
設置された呪具を発見し、解除を行う必要がある。
報告だけなら、何故サラ様のパーティーも一緒にこられたのか?
理由を確認すると、今日発売になった『毒消しポーション』で呪具の解除が可能か調べたいと仰る。
そもそも、その『毒消しポーション』の件で頭を悩ませていたんですよ……。
だが、これは案外試してみる価値があるかも知れないな。
現在、カルドサリ王国内にいるハーフエルフ達に浄化の魔法を使える者はいない。
光魔法のヒールを使用出来る者は多いが……。
浄化となると余程光の精霊に好かれなければ、願いを聞いてもらえないだろう。
治癒術師の御二方が浄化をして回るのは、能力がバレる観点から避けたい。
そうなると教会の司教に依頼する事になる。
あの腰の重い人物を、ダンジョンに連れていくとなれば教会が黙ってはいないだろう。
少なくとも護衛の人数は30人以上要求するだろうし、1回の浄化金額もダンジョン価格を請求されそうだ。
思い悩んでいる時間が惜しいので、私は薬師ギルドに行く事を告げた。
まぁ、あそこのギルドマスターは白狼族の出身だから話も早いだろう。
獣人はとにかく鼻が利く。
サラ様とお会いしたのなら、エルフだと気付いている筈だ。
秘匿情報も理解してくれるに違いない。
薬師ギルドに到着するなり、受付嬢へギルドマスターに会いにきた事を伝えた。
それほど待つ事なくゼリア様が現れる。
この方は、長命な白狼族でもかなり高齢だ。
ハイエルフの王族同様、平均寿命が1,000歳を超えると聞く。
父が冒険者ギルドマスターの代から、薬師ギルドマスターをしていたらしいから当然私よりも年上になられる。
薬師達は人前に姿を滅多に現さないから、知っている者は殆どいないが……。
私は目上の人に対して礼を失する事のないよう、言葉を選び『毒消しポーション』の効能を調べたい事を伝えた。
話を聞いたゼリア様が場所を移すことを提案される。
受付嬢のいる前で話す内容ではないと判断してもらえたのだろう。
応接室に入るなり、時間が惜しいとばかり話を切り出した。
ダンジョンに呪具が設置された事を知り、ゼリア様の表情が見る見るうちに険しくなっていく。
『毒消しポーション』が呪具の解除に使用出来ないか相談すると、アマンダさんの方をちらりと見てサラ様に信用出来る相手かどうか確認された。
彼女はこの迷宮都市がある、リザルト公爵令嬢だ。
自領内の大問題が解決されるのを、誰よりも願っているだろう。
それにまだダンジョン内には、彼女のクランメンバーも沢山残っている。
サラ様はゼリア様の問いに大丈夫だと答えを返された。
冒険者とは良好な関係を築いておられるらしい。
その後、ゼリア様は他言無用だとアマンダさんに念を押し、独り言を呟かれた。
「序にちょっと独り言を言わせてもらおうか。爺ども、話は聞いたね。手出し無用だよ。うちの族長に喧嘩を売るのは止めた方がいい。それと出遅れた息子達に言って、人手が足りない分は対処しておくれ。あんた達の大切な姫様は、少し抜けているから心配だろうがね」
えっ!?
サラ様の護衛に就いている影衆達に気付かれた?
姿が見えないのにどうやって!?
影衆の傍流出身である私でさえ、気配を感じる事は出来ないというのに……。
流石白狼族。
戦闘集団で名を馳せている種族だけの事はある。
もしや族長の一族出身で、変態可能な方なのか?
ゼリア様に見抜かれたと知り、一瞬だけ影衆達の気配が揺らいだのを感じた。
まさか血統魔法である『迷彩』を見破られるとは思わず動揺したのだろう。
けれどゼリア様。
突然室内にいない人間の話をされた皆が、口を大きく開けてポカーンとしていますよ?
治癒術師の御二方は存在をご存じないかもしれませんが、一緒にサラ様も驚いているのは何故ですか?
『存在を秘匿された御方』であるサラ様に、24時間体制で護衛が付いている事はご存じですよね?
それとも意外に演技派でいらっしゃる?
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