翌週月曜日から金曜日までダンジョンを攻略し、地上に帰還する。
今週は人魚姫姿の噂を聞いた冒険者達が、息子目当てで治療に来るから雫が牽制していた。
これじゃ兄妹の立場が逆だな……。
明日は花嫁衣裳の試着をするので風呂に入った後、女性化の魔法を使用した。
鏡に映った自分を見て、懐かしい気分になる。
そこには生前と変わらぬヒルダの姿があった。
また女性に戻るとは、なんとも言えない気分だが娘のためだし我慢しよう。
パジャマを着て寝室に向かう。
結花へ女性化すると話したから、どんな姿か色々想像しながら待っていそうだ。
寝室の扉を開けると、俺の姿を一目見た妻が驚き固まっている。
「あ~女性化したんだけど……」
「ビックリしたわ。沙良ちゃんにそっくりじゃない! 顔は同じじゃないのね~」
そう言って妻は近付き、まじまじと見つめたかと思うと下半身に手を伸ばす。
「あら残念……本当にない」
次に胸のボタンを外し確認すると、遠慮なく触り出した。
「感触も本物みたいね!」
分かったら、そろそろ揉むのを止めてくれ。
あんまり長く触られると変な気分になって困る。
あっでも、これはチャンスか?
俺も妻の胸を触ろうとした瞬間、寝室の扉が開き雫が顔を覗かせた。
「お父さん。もう女性に……」
言い掛けた言葉が途中で止まる。
ああぁぁ~。
妻に胸を揉まれている姿を娘に見られるとは最悪だ。
「なったみたいだね。ええっと、お邪魔しました」
雫は顔を真っ赤にし、扉を閉め立ち去った。
部屋に気まずい沈黙が下りる。
女性同士なら痛い思いをさせずに済むと思っていたが、またの機会にしよう……。
翌朝。
昨夜は、しっかり俺の姿を見ていなかった雫から「沙良お姉ちゃんみたい!」と言われた。
花嫁の代役だからなと言い訳し響の家に行く。
玄関で出迎えてくれた娘が、ぽかんとした顔をしている。
「沙良ちゃん、おはよう。この姿なら、ちゃんと代役が出来るだろう?」
「……もしかして樹おじさん?」
「あぁ、女性化の魔法は自分の思った通りの姿になれるらしい」
次に息子がやってきた。
俺の姿を見て言葉も出ないのか、口が開きっぱなしになっている。
まぁ、父親が沙良ちゃんと似た姿になっていれば驚くだろう。
俺は苦笑して家の中に入った。
リビングで女性化した俺を待っていた全員が立ち上がる。
その顔には、信じられないといった表情が浮かんでいた。
響からは懐かしそうな視線を感じる。
しかし、ここで真っ先に義祖父が声を上げた。
「ヒルダちゃんではないか! 儂に、お礼をしに来てくれたのかの?」
「いえ、……樹です」
ヒルダの姿を知る、シュウゲンさんに気付かれただろうか?
「嘘だろ!? 完全に別人じゃないか!」
「あぁ、沙良の代役が務まるな」
義父が絶叫し、響が冷静に言葉を続ける。
「なんだか2人が揃っていると親子みたいに見えるわね」
美佐子さんが近付き、徐に俺の胸を触り出した。
「あの、ちょっと……」
「あら、本物だわ」
「妻にも散々触られたので、どうかそれ以上は止めてくれると助かります」
皆の前で胸を揉まれるのは恥ずかしい。
「でも父さんって確か、きょに……もご」
思った通りの姿になれると言ったから、息子が俺の性癖を暴露しそうになる寸前口を塞いだ。
「お前は余計な事を言わなくていいから!」
だが少し遅かったようで、娘から生暖かい視線を送られる。
何も言わずにいた賢也君が俺と響を見て、
「まさかな……」
呟いた言葉にドキリとした。
勘の良い彼でも、俺達の過去は分からないよな?
「おじさん。これからブライダルショップに行って、衣装合わせをしましょう」
「あぁ……また、花嫁衣裳を着るのか……」
代役をするため仕方ないとはいえ、げんなりする。
娘に連れていかれたブライダルショップでは、大した時間も掛けずシンプルな衣装に決めた。
女性用の下着も必要だろうと言われ購入しに向かう。
70日間、ノーブラなのは拙いか……。
初めて女性下着専門店に入り、気恥ずかしい思いをしながら下着を選ぶ。
ついつい、自分が着ると忘れ妻用の物を真剣に選んでしまった。
しかし女性下着は結構高いな、上下合わせて1万円以上するのか……。
再び響の家に戻り、結婚式の打ち合わせを始める。
襲撃が予想されるため雫と美佐子さんはホームで待機。
怪我人が出た場合の治療は、妻と息子と賢也君に任せよう。
影衆と『万象』50人がいれば、まず負ける事はない。
式に参加する冒険者も全員武装した状態だしな。
沙良ちゃん達が戻り、ガーグ老から会いに来てほしいと言われたのを聞く。
ヒルダの姿を確認したいんだろう。
響も一緒に行くと言いガーグ老の工房へ向かった。
門を開けると、エルフの正装を着たガーグ老達が整列している。
あぁ、女官長達もいるな。
俺の姿を確認した瞬間、全員が王族に対する礼をして焦った。
「あの……樹ですけど、立ち上がって下さい!」
演技は、どこにいったんだ!? 娘に不審がられるじゃないか!
言葉を聞いたガーグ老達が一斉に顔を上げた。
その目には涙が浮かんでいる。
ヒルダの姿を見て感激するのは理解出来るが、大袈裟すぎるよ。
女官長と目が会うと、彼女は立ち上がり俺の方にゆっくり近付いてきた。
「姫様……。お会いしとう御座いました」
涙を流しながら、亡くなったと思っていた俺を見つめる。
再び会えて嬉しい気持ちが胸に込み上げてきたが、今は娘がいるから耐えないと。
「にょ……、女人殿。俺は今、樹だと伝えましたが……」
「ええ、そうでしょうとも。失礼致しました。ガーグ老が私へ内緒にしていたのです。遅くなってしまい申し訳ありません。それと傍にいる御方は……?」
「初めまして、沙良の父親の響です」
「あぁ、そういう事でしたか……。無事に見付けられたのですね」
姿が変わっている国王にも気付いたようだ。
俺達は離婚した訳じゃないから、まだ夫婦なんだよなぁ。
それぞれ、別に妻がいると伝えたら女官長が卒倒しそう……。
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