【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第477話 迷宮都市 夢に出て来た妹 7&残酷な真実

公開日時: 2023年7月7日(金) 12:05
更新日時: 2023年8月31日(木) 23:45
文字数:2,386

 眠りに就いた後で、今日もまた香織ちゃんの夢をみていた。


 いつもとは違い音声のみではなく、ぼんやりと景色のようなものが見える。


 住んでいる家に既視感を覚えた。

 貴族が住むような屋敷に部屋の中?


 私が予想していた通り、香織ちゃんは貴族に転生していたようだ。


 部屋の中に誰かが2人入ってきた。

 輪郭りんかくからすると、大人と子供らしい。


「この部屋は娘が使うから、貴方は出て行きなさい!」


 そう言って、女性が香織ちゃんの手をつかみ引きずり出した。


 この様子をみると、女性と娘は香織ちゃんと血がつながっていないのかも知れない。

 本当の母親なら、娘の部屋を取り上げたりはしないだろう。


 ならば、この女性は父親の再婚相手?

 実の母親は亡くなってしまったのだろうか?


 場面が変わり、今度は香織ちゃんが女性に虐待を受けている。

 正座をした状態で、何度も彼女が手にした棒で背中を叩かれていた。


 夢だと分かっているけど、その場に行きかばってあげられない事が悔しくてならない。

 もし同じ場所にいたら、茜から習った技でこの女性をり飛ばしてやるのに!


 香織ちゃんは、何度もごめんなさいと泣きながら謝り続けていた。

 小さな子供が叩かれる程、悪い事をしたとは思えない。


 虐待している女性は、理由もなく自分のストレス発散のためにしているんじゃないか……。

 そんな風に感じる程、執拗しつように棒で叩いていたのだ。


 止めて!

 私の妹に、何て事をするの!


 これ程までひどい仕打ちを受けていたのかと、私は怒りで胸が一杯になる。


 その後――。

 香織ちゃんは別の場所に移動させられ、どこかに閉じ込められた。

 逃げられないよう、かんぬきがされている。


 家具ひとつない場所には、地面に直接布団が敷かれているだけだった。

 その薄っぺらい布団を体に巻き付け、香織ちゃんは震えている。


「ううっ……寒い。ひっぐっ……痛いよ……。もう嫌っ、何で私はリーシャなの?」


 えっ!?

 今、……リーシャって聞こえた?


 そんなっ、……まさか香織ちゃんはリーシャだったの?


「ゲーム通りなら、私は明日亡くなるんだよね。やっと、解放されるんだ……。もう我慢しなくて済むなら、それでいい。だけど、2人の事は許せない。沙良お姉ちゃん、ごめんなさい。どうか私の代わりに復讐してほしい……」


 それだけ言うと、香織ちゃんは目を閉じ地面に倒れ込んでしまった。

 徐々に呼吸が少なくなっていく。


 真っ暗な室内で、香織ちゃんの弱々しい息遣いだけが聞こえる。

 だけどそれもわずかなものになった頃。


「召喚! 椎名 沙良」


 香織ちゃんが最後に呟いた。

 

 一瞬、体全体が光を帯びしばらくして治まると、代わりに私が現れる。


 あぁ、そんなっ!

 嘘でしょう?


 私を異世界に召喚したのは、香織ちゃんだったの?

 そして、もう香織ちゃんは亡くなってしまっていた!


 唐突に目が覚める。

 私は、今みた夢が信じられなくて呆然ぼうぜんとなった。


 次に助けられなかった事実を悲しんだ。

 目から涙が次々とあふれ枕を濡らしていく……。


 また妹を亡くしてしまった。

 今回は生きていると知りどうにか助けようと思っていたのに、それは既に叶わない。


 怒りと悲しみで気持がぐちゃぐちゃになり、自分だけではこの事実を受け止められそうになかった。


 兄やお母さんに、こんな事は言えない。

 

 香織ちゃんが転生して虐待され亡くなった話をすれば、産んであげられなかったお母さんはどんなに胸を痛めるだろう。


 香織ちゃんのために、弁護士を目指していた兄も同様だ。

 何より兄がリーシャに転生していた事を知れば、公爵邸に乗り込みどうするか分からない。


 私でさえ、父親の公爵に対し怒りを抑えきれないのだから……。

 妹は実の父親に見殺しにされたのだ。


 父親が育児放棄をしなければ、私の妹は生きていたはずなのに!

 ここが乙女ゲームの世界だろうと、そんな事は関係ない。


 私は人生で初めて、これ程まで人を憎めるのかと思った。

 出来れば同じ目にわせてやりたいくらいだ。


 幾度にも及ぶ虐待の末、空腹と寒さが原因で非業の死を遂げた妹が哀れでならない。


 私は真実を誰にも話さない事を決めた。

 これは私だけが知っていればいい。


 だけど、今日だけは独りでいたくなかった。

 私は兄の部屋に移転し、兄に抱き着き泣いてすがった。


「……沙良? どうした? 怖い夢でも見たのか?」


 寝ていた兄を起こしてしまったけど、私が泣いている事を知り心配そうに言葉を掛けてくれる。 


「お兄ちゃん。夢でみた香織ちゃんがね、病気が原因で亡くなってしまったの。それがとても悲しくて……」


 事実を言えない私は、香織ちゃんが病気で亡くなったと話をした。


 転生している事を伝えてしまった以上、生きていない事を内緒にする訳にはいかない。

 知らなければ、兄は香織ちゃんを探そうとするだろうから……。


 再会出来ると思っていたのに、私から亡くなった事を聞き兄は一瞬体を強張らせた。

 そして、何かを飲み込むように小さく息を吐く。


 受け止めるには残酷な真実を言葉にする事はせず、慰めを口にする。


「そうだったのか……。つらいな……」


 そう言うと兄は私を優しく抱き締め、何度も背中をでてくれた。


 そうされると徐々に怒りたかぶっていた気持ちが落ち着いてくる。

 私が泣き止み眠りに就くまで、兄はずっと手を休める事はなかった……。



『あ~テステス、お姉ちゃん? 驚かせてごめんなさい。実は私、また生まれ変わる事が出来るの。だから早く両親を召喚した後で、仲良く・・・してもらってね! お父さんが、迷宮ウナギを沢山食べれば大丈夫だよ。それまで、私はお姉ちゃんの体の中にいるから。あと旭さんは、お……幸せに……』


 再びみた夢では、香織ちゃんからなんとも気の抜けた事を言われてしまう。


 そうか、香織ちゃんは私の中にいるんだね。


 だから、冒険者活動をしている事を知っていたのか……。

 最後の言葉は、また途切れてしまっているけど、「お兄ちゃんと幸せになってほしい」かな?


 私は香織ちゃんが生まれ変われると分かり、その後は安心して眠る事が出来たのだった。

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