一旦話を終え、ガーグ老と工房から出る。
俺は最後に聞いた言葉が気になり、娘の傍へいき小声で尋ねてみた。
「沙良。お前、本当はLvが幾つあるんだ?」
俺の言葉を聞いた娘が、驚いたように目を瞬かせる。
これは……、ガーグ老の懸念が合っているようだな。
「あ~、お兄ちゃんには内緒だよ? 今はLv45になってる」
言い辛そうに口を開いた沙良が今のLvを答えた。
Lv30じゃなかったのか?
どうしてお前だけ、そんなにLvが離れてるんだ!
「それなら早く樹を召喚した方がいい。アシュカナ帝国の王は、お前を嫁にしたいみたいじゃないか。樹が聞いたらキレそうだ」
理由は後で確認するとして、Lv45なら今直ぐもう1人召喚出来る。
「えっと……、お兄ちゃんに不審に思われない方法を一緒に考えてくれないかな?」
うるうるした目をしながら上目遣いでお願いする沙良に、兄の説教を受けたくないんだと気付く。
「賢也へ秘密にするのは難しいだろうに……、よく今までバレなかったな。まぁ、一緒に考えてやろう」
娘の事だから、何か考えがあっての行動だろう。
もしかしたらアシュカナ帝国と戦争になると知り、どうにか出来ないかと内緒でLvを上げていたのかも知れん。
実際、娘が1人いるだけでカルドサリ王国の戦局は大きく変わる。
賢也は沙良が戦争に参加するのを許しそうにないが……。
父親である俺より兄の方が怖いのか……。
長男は子供の頃から、弟妹の面倒をよくみていたから分からないでもない。
沙良と2歳しか離れていないのに、かなり包容力のある子供だった。
妻は長男が子供達の世話をしてくれるから、助かると言っていたな。
俺は賢也に負けているのか?
いや沙良は小さい頃、「お父さんのお嫁さんになる」と言ってくれたから父親として勝っている筈……。
少し物悲しくなった所で、昼食の準備が出来たようだ。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『すき焼き』です。最後に『うどん』を入れるので、食べ過ぎないようにして下さいね。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
沙良の挨拶を皮切りに、影衆達が猛然と料理に取り掛かる。
娘は今日初めて会った妻役がいる夫婦の席へいき、『すき焼き』の作り方を教えているみたいだ。
その際、一口食べた影衆から漏れた言葉を聞き納得する。
「これをずっと食べられるのなら……嫁になるのも悪くない」
護衛に就いている影衆達は基本姿を現さない。
その方が敵が襲ってきた時、油断を誘えるからだろう。
稽古の後に、毎週沙良が日本の調味料を使用した料理を作るなら食べたいと思うに違いない。
きっと息子役や嫁役が増えた理由は、その辺りにありそうだ。
今も姿を隠し護衛している影衆達は、その座を虎視眈々と狙っているようだ。
それで兄弟の年齢や妻が、おかしな順番になっていたのか?
なんかもう、料理を食べるために必死だな……。
影衆達に演技力は望めないから、娘達が不審に思っていそうだ。
それにしても、このミノタウロスは美味い!
俺は国王時代に、こんな美味しい物は食べられなかった。
料理の味にケチを付ける以前の問題だ。
毒見役が食べた後に出された料理は、すべて冷えた状態だったからな。
それを思うと娘達が羨ましい……。
食事を終えた後は、ガーグ老達が将棋盤を取り出していた。
沙良は雫ちゃん、結花さん、妻と一緒にホームへ帰るようだ。
午後からは、リーシャの父親である公爵へ話をしにいくらしい。
少しだけ話を聞いたが、ティーナの体をしていたリーシャは後妻に虐待され亡くなったみたいだ。
その後、沙良がリーシャの体に転移し父親へ虐待の告白をして、後妻と連れ子は家を追い出されたそうだ。
実の父親でもない公爵の家でリーシャのフリをして生きるのは無理だと思い、娘は家を出奔し冒険者になったんだとか。
俺はその話を聞いた時、娘が虐待されていると気付かない親がいるとは信じられなかった。
別々に暮らしているならまだしも、一緒の家に住み1年間も見過ごすなんて有り得ない。
一体、どういう親なんだと腹が立った。
育児放棄もいいところだ。
挙句の果てに娘を死なせるとは、救いようがない。
そんな父親である公爵に、1人で会いにいくと聞き心配になった。
何かあれば移転で逃げると言っていたが……。
沙良達が稽古のお礼を言い工房から出る姿を見送った後で、俺は再びガーグ老と相談を始めた。
警護態勢が不充分である点は、通信の魔道具で対応。
沙良に2組持たせ、1組は『万象』を率いるガーグ老の長男へ、もう一組は俺が持つ。
更に、沙良には内緒で俺がガーグ老と連絡を取れるよう1組持つ事にした。
このエルフ国の通信の魔道具は禁制品にあたる。
持っているのがバレると少々拙いため、取り扱いには要注意だ。
次にアシュカナ帝国が沙良を嫁にしたいと狙っている件について2人で頭を悩ませた結果、偽装結婚させようと決まった。
王にも国として守るべき評判がある。
既婚女性を望むのは、かなり体裁が悪い。
それを押してまで望まないだろうとの判断だ。
が相手は好色な王だから、夫を殺して未亡人になった沙良を再び狙う可能性が高い。
だから夫役は、アシュカナ帝国が送ってくる刺客と渡り合えるだけの技量が必要となる。
俺はその相手を、影衆の誰かに任せてもよいか確認した。
ガーグ老は胸を叩き、一番強い人物に任せると言ったので安心する。
順当に考えれば、現当主の長男が最有力候補だろう。
年も一番若いし……。
来週までに決定すると言われ、この件を沙良にどう伝えるか考え込んだ。
娘はアシュカナ帝国の王対策の偽装結婚に、納得してくれるだろうか?
俺の子供達は、偽装結婚してばかりだな……。
一時的なものとはいえ、ガーグ老と親戚になるのか?
あの息子達と嫁達も一緒に付いてくるのかと思うと、少し考えないでもないが条件に合う人物がいないから仕方ない。
諦めてお義父さんと呼ばれよう。
まぁ長男は見た目も悪くない、いい男だ。
筋肉フェチな娘も気に入るだろう……多分。
その後、久し振りにガーグ老達と将棋の対局をした。
あれから日本で48年、腕を磨いた俺には誰1人勝てず唸っている。
ハンデを付け5面打ちをしている所に、沙良が顔を出した。
その目元に泣いた跡が残っている。
公爵と会った時、何かあったんだろうか……?
賢也が直ぐに気付き、俺に向かって首を横に振る。
これは今、聞かない方がよいという合図だな。
事情を詳しく知っている息子に沙良は任せよう。
娘を好きな尚人君が、心配そうな顔をしている。
あぁ、この問題も厄介なんだよ。
樹が上手く説明してくれるといいんだが……。
まさか、お前達は血の繋がりがあるから駄目だとは言えない。
「3人を迎えにきました。まだ、掛かりそうですか?」
沙良がガーグ老に尋ねた。
「いや、儂らでは相手にならん。直ぐに終わるだろうて」
「じゃあ、ここで待ってます」
「サラ……ちゃん。これは通信の魔道具だ。カルドサリ王国の物ではないが、魔力を使用し念話のように話せる優れものだ。但しMP消費が非常に多いのが難点だがな。これを渡しておくで、活用するがよい。対になった相手に繋がるようになっておる。一つは儂の息子に渡してある。もう一対の片方は父親殿に持ってもらえば安心するだろう」
ガーグ老から渡された3個の丸い玉を、沙良は不思議そうに見ていたのだった。
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