緑茶を淹れきんつばを出すと、樹おじさんが一口飲んで満足そうな顔をする。
「沙良ちゃんの淹れたお茶は美味いなぁ~」
まぁ奥さんのお茶を毎日飲んでいたら、誰が淹れたお茶でも美味しく感じるんじゃないかな?
一緒に出したきんつばを半分に割って食べた後、残りのお茶を飲み干している。
再び緑茶を淹れ湯呑に注いだ。
甘い物を食べて疲れを癒した頃を見計らい、私は口を開く。
こういう事はタイミングが結構重要になる。
反対されないよう子供の件も伝えよう!
「樹おじさん。落ち着いて聞いて下さいね……。兄と息子さんが結婚しました!」
私の言葉を聞いた瞬間、おじさんはブハッと吹き出し手にした残りのきんつばを落とした。
「えっ!? 尚人と賢也君が結婚しただと!?」
かなり衝撃を受けたのか、大きな声を出し2人を凝視している。
「はい。2人の子供は私が産む予定なので、心配しなくても大丈夫ですよ!」
懸念事項を払拭するために考えた案を告げると、
「いや、それは絶対駄目だ! 沙良ちゃん、子供を産むのは大変なんだよ。2人のために身を犠牲にする必要はない。子供なら当てがあるから、うちの尚人に任せよう!」
父同様、樹おじさんは私が2人の子供を産むのに反対のようだ。
それにしても、子供に当てがあるとはどういう意味だろう?
養子を貰い旭に子育てさせる心算なのかな?
「いや~、全然気付かなかったなぁ。尚人、賢也君に大切にしてもらいなさい」
驚いていた割には、簡単に2人の仲を認めたから旭が唖然となっている。
もっと父親に反対されると思っていたんだろう。
そして、樹おじさん的には息子が大切にしてもらう方らしい……。
兄は大切にしてもらえないのか……。
それまで黙ったままだった父が、樹おじさんを手招きしてリビングの方へ連れていった。
暫く父親同士で話をしたのかダイニングへ戻ってくるなり、
「尚人。結婚おめでとう! 幸せにな!」
と祝福の言葉を贈る。
それを聞いて、どうやら2人の結婚は問題なさそうだとほっと安心した。
次は私の結婚式の話をしよう。
といっても、こちらは偽装結婚だけどね。
「樹おじさん。実は私も、近々結婚する予定なんです」
「……何だって? 相手は誰だ!」
兄達の結婚報告をした時より、大きな声を上げるので驚いてしまう。
「ええっと、元近衛騎士で引退後は家具職人をしている方ですけど……」
「近衛騎士を引退してるなら、かなり年上じゃないか!」
興奮状態で席を立ったおじさんを、父が両肩を押さえ座らせる。
「樹、落ち着け。アシュカナ帝国の王から沙良が9番目の妻に狙われているため、偽装結婚をするだけだ」
「娘を9番目の妻にだと? ふざけてるのか!」
何故か大激怒するおじさんは、目付きが鋭い物に変わる。
「使い道がないと思っていたが……。性別変化の能力があって良かった。俺が代わりに結婚しよう」
うん?
何を言ってるのか分からない。
「ええっと、おじさんが女性になっても私とは別人ですよね?」
「いや、俺は女性になれば沙良ちゃんの姿になれる……と思う」
いやいや、なれませんよ!
「そうか……その手が使えるな。沙良、結婚式には樹に出てもらおう」
樹おじさんの言葉に父が頷いている。
アシュカナ帝国の諜報員は私の姿を知っているから、騙せないと思うんだけど……。
「父さん。その方法は上手くいくと思えない」
兄も同じ意見なのか反対のようだ。
「樹が女性になれば分かってもらえるんだが……。まだ10日間しか続かないんだよな」
「沙良ちゃん、結婚式までにLvを70に上げられない?」
やけに具体的な数字だな……。
「無理だと思います。私達がLv40になったばかりなので……」
「じゃあ、女性になるのは結婚式当日にしよう。それまで、なるべくLvを上げるという事で決まりだ!」
私の結婚報告をしたら、樹おじさんが女性化して代わりに結婚式を上げる事になってしまった。
「結婚相手に挨拶しないとなぁ」
「明日、祖父と一緒に相手の工房へいく予定です。毎週、武術稽古を受けてるんですよ」
「おぉ、そうか! そりゃ楽しみだ。腕前を試してみないと」
ここにも武闘派がいる。
ガーグ老には、祖父と樹おじさんとの仕合が待っていそうだ。
最後に旭がぽつりと呟く。
「女性化するんだ……。見たくないかも……」
樹おじさんが、どんな女性姿に変わるか分からないけど父親が女性になるのは複雑だろう。
予想出来るのは、同じ顔のままで体が女性に変化する事だからね~。
結婚式当日に変化した姿を見て、無理だと思ったら予定通り私が出よう。
ガーグ老達や出席予定の冒険者達もいるから、下手な対応は出来ない。
奏伯父さんと祖父との関係は明日伝えよう。
召喚したばかりで、一気に情報を与えると混乱してしまうだろうから……。
ガーグ老に会わせるのが心配だなぁ。
話が済んだ後、樹おじさんは父が運転する〇ンツに乗り帰っていった。
ちなみに、旭の〇ルシェは返してもらったらしい。
今はマンションの駐車場に停めてある。
これから兄と一緒にドライブへいくと張り切って出掛けた。
久し振りの愛車を運転するのに、兄は付き合わされるみたいね。
結婚後も仲良しの2人を見て、和んだと同時に一抹の不安が過ぎる。
これで良かったのかしら?
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!