兄の愛車との競争に勝った2匹を、思いっきり褒めてあげると尻尾をブンブン振って喜んでいた。
あぁ、もう可愛過ぎる!
これで今日の昼食は兄の奢りだ!
お金も戻った事だろうし、少し高い物を食べようかな~。
お蕎麦屋さんに入り、電子メニューから旭に《お好みで》を選択される前に私が注文する。
大きな海老の天麩羅が2本付いた、ざる蕎麦のセットを3つ。
画面をタップすると、直ぐにテーブルの上に料理が置かれた。
サヨさんと食べた時の海老は、もう少し小振りで1本だけだったんだよね。
私が揚げ立ての海老を頬張っていると、兄からマンションをホームに設定出来たお礼は何がいいか聞かれた。
あれ?
私、異世界に新築を建てた話はしていなかった?
商業ギルドのカマラさんに注文したのは、リッチのマントを旭と一緒に卸しに行った時だから、兄にも話が伝わってると思っていたんだけど……。
旭は私が家を購入しようとしていた事を、兄には話していなかったのかな?
「異世界で家を建てました!」
「うん? 家を購入したんじゃなくて建てたのか?」
「子供達とのクリスマス会、外でするには寒いでしょ? それに、そろそろ異世界に家がないと不便だし。いつまでも教会の庭を借りるのも悪いと思って……」
「そうか、まぁ別にお前が欲しい物なら何でもいいんだが。じゃあ後で、明日の会場を見にいくとしよう」
「とっても大きい家なんだよ~! フォレストとシルバーが、庭で遊べるように敷地面積も広くしたしね」
「あの時注文した家、もう完成してたんだ。じゃあ、そろそろリッチのマントを卸しに行ってもいいかな?」
旭は私の家より、アイテムBOXに大量にあるリッチのマントを換金出来る事の方が重要らしい。
兄は異世界のお金には全く興味がないので、家の値段を聞こうともしなかった。
食事を済ませたら、兄が銀行に寄りたいと言う。
父に資産運用を任せていた預金残高が、8年の間にどれだけ増えているか確認したいみたい。
父が勤めていた銀行の支店窓口に電子メニューがあった。
そこにキャッシュカードを入れて残額を確かめる兄の後ろから、興味本位で金額を覗いてみると……。
有り得ない数字が並んでいたよ!
預金金額を尋ねるのは、兄妹でも躊躇われたので今まで一度も聞いた事がなかった。
億はあるかも知れないと思っていたけど……。
6億とは、驚き過ぎて声も出ない。
「おっ、結構増えたな。ジムの会員証の引き落とし口座に金があるなら、自動で引き落とされた筈だから俺の会員証は有効かもしれん」
えっ!?
気になるのは、ジムの会員証が有効だって事だけなの?
うゔっ、金銭感覚が違い過ぎるよ。
隣で見ていた旭も平然としているし……。
残高に驚いているのは、どうやら私だけらしい。
「じゃ、新築を見にいくか」
「はい……」
新しい家にはシルバーとフォレストの登録も必要だろう。
2匹も一緒に異世界の自宅の庭へ移転した。
「……沙良、この家の塀は少し高すぎないか?」
庭から外の景色が全く見えない状態なので、兄が呆然としている。
「沙良ちゃん、……要塞みたいな家だね」
「カマラさんが、この地区は富裕層が多く住んでいるから子供達の騒音防止に必要だと付けてくれたのよ」
「それにしても、外から家が全く見えないのはやり過ぎだと思うが……」
「ホームから異世界に転移する時、人がいないか気にしなくて済むから私は助かっているけどね。門の魔石に登録しないと中に入れないようになっているから、2人とも2匹を連れて登録してきて!」
私の言葉に兄達が揃って血液を登録した。
次にシルバーとフォレストの登録もする。
血液を採取した後、速攻でヒールを掛けている2人に笑ってしまった。
その状態で私が魔石に触れると、現在登録されている名前が脳裏に浮かび上がる。
2人に権限を付け、登録と解除が出来るようにしておいた。
これでセキュリティー対策はバッチリ!
これから家のお披露目だ!
家の中央にある玄関から入ると、仕切りのない1階が見渡せる。
壁際に設置した靴箱から、スリッパに履き替えて室内を案内してみせた。
「1階は、子供達全員が入れるように1部屋にしたんだな。天井が高いから随分広く感じる」
「うん、150坪あるからね~」
「150坪!? 沙良ちゃん、また大きい家を建てたんだ」
「庭も併せて敷地は300坪だよ」
「日本じゃ難しいだろうな」
「そうだね。トレント資材を提供して、それでも安く建ててもらった方だと思う。全部で金貨254枚(2億5千6百万円)だったし」
兄達は金額を言っても、驚いたりしない。
あのマンション、最上階の部屋は幾らだったか怖くて聞けないわ。
絶対、億ションだよね?
その後、2階の部屋に案内する。
広い廊下を挟んで左右に3部屋ずつの6部屋だ。
全て同じ広さの間取りなので、1部屋見せたら特に他を見る必要はないんだけど……。
私は自分の部屋に設置した、ガーグ老渾身の作品を見てもらう事にする。
天蓋付きベッドの天井に描かれている綺麗な男性の事を、兄達が知っていないか気になったのだ。
扉の魔石に血液を登録後、2人に早速天蓋付きベッドを見てほしいとお願いした。
「これは……。かなり手の込んだベッドだな。4つの柱に描かれている女神達は今にも動き出しそうな程、繊細な仕事がされているじゃないか」
「女神じゃないよ、各属性の精霊王だからね!」
あれ?
以前見た時、私も女神だと思ったのに……。
どうして口から精霊王だと言葉が出るの?
「精霊王? こういうのは、女神が定番だろう」
「えっと多分、精霊王だと思う。それでね、天井に描かれている男性を見てほしいの。旭と一緒にベッドに上がって横になってみてくれる?」
「天井にも何か描かれているのか?」
「うん、とっても綺麗な男性の人だよ」
私に促された兄と旭がベッドに横になり、視線を天井に向けその姿を確認したのだろう。
兄は訝し気に目を細め、何やら思案している様子。
旭は目を見開いて、中央に描かれた男性を凝視している。
そして唐突に2人が瞼を閉じ、そのまま寝てしまった!
何このベッド……。
横になると眠る呪いでも掛けられているのかしら?
2人を揺さぶってみても起きる気配はなく、そのまま私は待機するしかなかった。
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