昼食を食べにホームへ戻ると、雫が沙良ちゃんに冒険者から襲われた件を話す。
「私を狙う冒険者が襲ってきたから、サンダーボルトで撃退したの!」
それを聞いた娘は、飲んでいたお茶を吹き出した。
ニコニコしながら話す内容に驚いたんだろう。
そして、サンダーボルトじゃなくてサンダーボールの魔法だが……。
犯人達は妖精達が簀巻きにし、妻のアイテムBOXに収納してあると伝える。
俺達が冒険者に襲われたと知り、娘は何かを考え込んでいる様子。
「奏伯父さん。午後から旭の代わりに、樹おじさん達と迷宮都市のダンジョンへ行ってくれませんか?」
「あぁ、勿論だ。娘と孫を危険な目に合わせるわけにはいかない。俺が付いていくから安心しろ」
「よろしくお願いします」
どうやらLvの高い義父を息子の代わりに組ませたいようだ。
午後からは義父と一緒に攻略をするのか……、妻は微妙な顔をしていた。
結花はアリサ・フィンレイとしての記憶がなく、前世を思い出してから直ぐ魔法学校に通ったので、この世界の家族と一緒に過ごした時間が少ない。
その後、政略結婚させられるのが嫌で家に帰らず冒険者となり雫と再会した。
今は息子と俺も一緒だから、義父に対して父親のように接するのが難しいんだろうな。
自分も親の気持ちがよく分かるから、無下に出来ず娘とし振る舞っているらしい。
午後から義父と一緒にパーティーを組み、迷宮都市ダンジョン地下15階の攻略を進める。
Lvの高い義父は魔物を倒さず、俺達の周囲を常に警戒していた。
現在ヒルダ付きの護衛に戻ったガーグ老達影衆10人が傍にいるから安全だとは言えず、冒険者の動向を観察しながら理由が分かるまで、義父は暫く行動を共にするそうだ。
Lv70ある俺は高いステータスがバレないよう、剣を使用し魔物を倒す。
Lv20の魔法は使わない方がいいよな?
そう思っていたら、雫がウィンドアローを付与した魔石を唱えてしまった!
飛んできた迷宮イーグルの首が切り離され、音を立て地面に落下する。
「お父さん! この魔法、ウィンドカッターみたいだね~」
最早、アロー系の魔法とは言えない効果を見て雫がはしゃいでいた。
目に見えない風魔法のイメージは、鎌鼬だから仕方ない。
それを見た義父が怪訝な表情をしている。
「樹君。今の魔法は、本当にウィンドアローを付与したものなのか?」
「はい。付与したのは摩天楼のダンジョンに出現する魔物の魔石ですから、少し威力が高くなったんでしょう」
「Lv1の魔法で、あれほど効果があるとは驚いた。付与魔石は高く売れそうだな。まぁ国に保護されるだろうから、内緒にしないと拙いが……」
「売りませんよ。付与魔石は魔法を習得出来ない雫専用です」
マジックバッグの作製能力も、魔法付与の能力も知られる訳にはいかない。
下手な事をして目を付けられちゃ困る。
「そうだな。孫は基礎値が低いから、持たせておけば安心だ」
義父はそれ以上、威力の高い魔法に触れず妻と雫が討伐する様子を観察していた。
それからガーグ老が警告を発する事もなく、2回の攻略を終える。
ダンジョンを出て冒険者ギルドに向かい換金した後は、新しくメンバーになった茜ちゃんを沙良ちゃんが3店舗の店に連れ紹介して回った。
『肉うどん店』の母親達の顔が赤いのは、響似の彼女がイケメン? に見えるからだろう。
背も高く男らしい茜ちゃんは、母親達にしてみればかなりの優良物件だ。
その目は既にロックオン状態で笑ってしまう。
母親の1人が、気になって仕方ないのか尋ねる。
「オーナー。そのっ……、妹さんは独身ですか?」
「残念だけど、既に結婚してるの。その内、旦那さんも紹介出来ると思うわ」
娘の返事に全員が落胆した表情をみせた。
響達が隣で苦笑している。
茜ちゃんは異世界でモテそうだな。
本人は平然としていたが、母親達の思惑に気付いてるんだろうか?
『製麺店』でも『お菓子の店』でも、娘は茜ちゃんの方が妹だと信じてもらえず凹んでいた。
見た目が逆に見えるから初対面の相手は大抵、娘の姉だと思うのも無理はない。
成長が遅いハイエルフだし、300歳を過ぎても背が低いままだからなぁ~。
夕食は全員で高級中華料理の店に行く。
出てきた料理の味を、美佐子さんのお腹にいる赤ちゃんへ丁寧に話す娘の姿が微笑ましい。
「この子が食べられるようになるのは、まだまだ先よ? 本当に、気の早いお姉ちゃんで困るわね~」
同じように響が俺の妊娠中、お腹に手を当て色々と話していたのを思い出し、つい自分のお腹を触ってしまう。
あれは不思議な体験だった。
返事がなくても、なんとなく赤ちゃんと意識が通じている気がしたのだ。
あの感覚は妊娠した女性じゃないと分からないだろう。
食事を終えたあと、響と2軒目に行くと伝え歩いて居酒屋へ向かう。
何故か魅惑魔法のLvが3に上がっていた事を不思議に思いつつ、Lvを上げるため響へ掛けた。
すると隣にいた響が俺の肩を抱き寄せる。
今日は恋人繋ぎではなく密着したいらしい。
誰もいない店内へ入ると、席に座らず壁際に追い詰められた。
これが噂の壁ドンか? 自分がされる立場になると、親友相手じゃ笑えない。
そう呑気に考えている間に響の顔が近付いてきた。
「ここじゃ、ちょっと……」
キスするのは嫌だと、しおらしく伝える。
紳士な彼は強引に唇を重ねたりせず、小さな溜息を吐いて抱き締めるだけに留まった。
この魅惑魔法の効果、俺が思っているのと何か違うんだよな~。
こんなんで、アシュカナ帝国の王から情報を聞き出せるんだろうか?
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