このままずっと抱き締められているわけにはいかない。
なんとか腕の中から抜け出し、席に着いて生ビールと枝豆を注文する。
隣に座る響は、ずっと俺の右手を握ったままだ。
雫がウィンドアローの付与魔石を使用したところを義父に見られ、焦った話をしながら魅惑魔法の効果を探る。
「響。俺に言えない話って何?」
「……言えない」
「え~、知りたいなぁ。教えてくれよ」
「話したら、秘密じゃなくなるだろう?」
笑顔で質問を躱され、追及は諦めた。
なかなか口を割らないな。
俺に対し好意を持っている状態なのは明らかなのに、まだ魅惑魔法のLvが足りないんだろうか?
1時間くらい話をして居酒屋を出ると、右手を繋がれたまま家まで歩き、もう一度抱き締められ額に軽くキスをされた。
「おやすみ」
なんだろう、この恥ずかしいシチュエーションは……。
「……あぁ、おやすみ」
親友相手に不毛な行為をしているような気がする。
響に偽りの感情を持たせた事へ罪悪感を抱きつつ、心の中で詫びた。
土曜日の午後。
沙良ちゃんがLv上げをすると言い、ホーム内の広いグラウンドで摩天楼ダンジョン31階に出現する魔物を出す。
妻のLvに合わせる必要があるから、俺はなるべく補佐に回ろう。
早くLv70にしておきたい。
娘は俺達がLv上げをしている間、4人に付き添われ飛翔魔法の練習をしていた。
5時間後、妻はLv45になったので俺も同じLvだと答えておく。
あと差は25Lvか……。
夕食は響の家へ呼ばれ、雫が嬉しそうにしている。
俺の前に鰻の蒲焼と肝焼きが置かれていたが、手を付けずにいたら息子が代わりに食べていた。
若い尚人は大丈夫なのか? 今は娘の家に泊まっているから心配だ。
賢也君が妹に手を出させないとは思うが……。
日曜日。
子供達の炊き出しを終え、ガーグ老の工房へ向かう。
「こんにちは~。今日も、よろしくお願いします。メンバーが1人増えたので紹介しますね。妹の茜です」
「サラちゃん、ようきたの。妹さんは美佐子殿の子供のようじゃな」
娘が茜ちゃんの紹介をすると、ガーグ老は響似の彼女を見て俺の子供じゃないと言いたいようだ。
「茜です。姉の結婚相手だと聞きました。少し、その腕を確認したい。ご老人、お相手願えるか?」
「ほうっ、では儂が相手になって進ぜよう」
ガーグ老の腕を見極めたい茜ちゃんが、仕合を申し込む。
彼女はLv200で一番Lvが高い。
Lv500のガーグ老と、どんな勝負をするのか……。
すると2人は槍を構え、一合交わしただけで得物を降ろしてしまう。
「姉をよろしく頼む」
茜ちゃんは深々と一礼し、そう一言ガーグ老へ伝え戻ってきた。
へぇ、結婚相手に不足はないと直ぐに判断を下したのか。
「儂はガーグだ。良い腕をしておるな。勧誘したいくらいだが……」
爺が、影衆に勧誘したいと思うくらい優れた技量があるらしい。
彼女は娘と一緒に転生した護衛だからなぁ、相当強いんだろう。
俺は勝てる気がしない。
その後、ガーグ老が家族を紹介すると茜ちゃんは娘に小さな声で呟いていた。
「姉さん、考え直した方がいい」
まぁ、あの5人兄弟と嫁役の2人を見たら、そう思うのも無理はない。
嫁役は口紅が大きくはみ出しているしな……。
「大丈夫よ。アシュカナ帝国の王が諦めれば、それでいいんだから」
娘は心配する茜ちゃんの背中をポンポンと叩き、彼女の言葉を一蹴する。
姉の気が変わらないと知り、茜ちゃんは短く嘆息し首を横に振っていた。
「茜殿は高位の従魔を持っておるな」
一緒に連れてきたダイアン達を見て、ガーグ老が感心した様子をみせる。
「私は、姉と違い種族の違う魔物はテイム出来ませんが……。ましてやあんな方法で……、いや凄いのは姉の方でしょう」
茜ちゃんはガーグ老に従魔を褒められ謙遜していた。
クインレパードとキングレパードを合わせ、7匹もテイムしている時点で強さは分かる。
普通のテイム方法なら魔物を瀕死の状態まで追い詰め、自分が上だと示さなきゃいけないからな。
名前を呼んだだけでテイムする娘と比べる方が間違っている。
そのガルム達は、1週間振りにあった主人へ懐きまくりだ。
武術稽古が始まり、娘の相手は茜ちゃんが増え3人になった。
1対3で勝てないと思った娘が従魔達を呼び出す。
それを見た茜ちゃんがダイアン達で牽制すると、負けず嫌いを発揮し10匹のガルム達も呼び稽古する場所が従魔達で溢れかえる。
「姉さん。大人しく槍の練習をした方がいい」
茜ちゃんから呆れた声で言われ、娘が渋々呼び出した従魔達を戻した。
「稽古相手は1人でいいよ。樹おじさんとセイさんは、2人で仕合でもして下さい」
「そんな! ただでさえ一緒の時間が少ないのに……」
娘に稽古相手を断られ、追い出されてしまった。
がっかりして肩を落とし、セイさんと一緒にその場を離れる。
彼と仕合をしたが、手加減されているのが丸分かりで更に落ち込んでしまう。
まぁ、娘に強い護衛がいるなら文句は言わない。
本人が護衛リーダーだと言っていたし、元竜族には負けても仕方ないよな。
華奢に見える体の、何処に大槍を振るう腕力があるのか不思議だった。
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