今日は色々ありすぎた。
妻の料理を避けるため、夕食は焼肉を食べに行こうと提案する。
冒険者活動で稼ぎが増えたから、結花も外食には反対せず了解してくれた。
体が若くなったので、久し振りにカルビを食べよう。
雫は嬉しそうに牛タンを沢山注文していた。
夕食を済ませ、待ち合わせ場所の居酒屋へ向かう。
先に着いたようで響の姿がまだない。
生ビールと枝豆を注文し、片方の生ビールにポーションを入れておく。
魅惑魔法を掛けるのは、響が飲み干してからにすれば大丈夫だろう。
10分程待つと彼が店に入ってきた。
正面に座った響へ、ポーション入りの生ビールを差し出す。
盗んできた肖像画を見たいと言い、腕輪から出してもらった。
これは、いつ描かれたものなんだろう?
俺が王宮にいたのは数ヶ月しかない。
妊娠発覚後すぐ事件が起き、響は強制的にLv上げをさせられたので俺は森の家に籠ったのだ。
「肖像画を描かれた記憶がない」
「それは多分、音楽を聴いている時だろう。椅子に座り、じっとしているからな」
あぁ、胎教にいいと宮廷楽師を呼び何度も演奏をさせていたな。
俺の知らない間に、絵師が描いていたのか……。
本国では動きやすいズボンを穿いていたが、第二王妃になってからはドレスを着る機会が増えた。
肖像画の俺は、女官達が舐められないようにと着飾った姿で微笑んでいる。
こうして見るとヒルダは綺麗だなぁ。
記念に俺が貰っておこう。
それから俺達は、女官長達が生きていた話や第二王妃が住んでいた森へ行った時の事を喋りながら時間を過ごす。
響は気付かず生ビールを飲んでくれたので、そろそろ頃合いかと魅惑魔法を掛けた。
ポーションの効果か、席を移動しないまま両手を握られる。
大人路線から子供路線へ戻ったようでほっとした。
「ヒルダ。ティーナと一緒に家族写真をいつか撮ろう」
あぁ、やっぱり俺の姿はヒルダに見えているのか……。
「娘に全て打ち明けた後、3人の家族写真を撮れたらいいな」
その時、俺は女性化してヒルダになる必要がありそうだ。
「響。何を聞いても驚かないから、秘密を話してほしい」
「……お前に話す事は一生ない」
なにそれ!? 墓場まで持っていく心算か?
逆に、もの凄く内容が気になるんですけど!
それから何度お願いしても響は口を開かず、魅惑魔法Lv5の効果はなかった。
ずっと両手を握られ、恥ずかしい思いをしただけで終わる。
こうなったら、絶対に聞き出してやろう。
恋人繋ぎのまま家に送られ、響は俺の頬へキスをし帰っていった。
日曜日。
子供達に披露する2つの劇の主役を娘と息子がするから、かなり楽しみにしていた。
最初は白雪姫。
幕が上がり、お妃役のアマンダ嬢が鏡に世界で一番美しいのは誰かと質問する。
しかし、その後に続く台詞がおかしい。
自分より美しく育った白雪姫に嫉妬する話じゃなかったか?
話の続きが全く予想出来ず、舞台に立っている娘が心配になる。
理由は違うが、森で過ごす事になった白雪姫は男装し妖精の家へ向かう。
それから魔女に変装した妃が毒リンゴを食べさせるシーンでは、食べないよう魔女自身が叩き落とした。
そして警戒心のない白雪姫に、こんこんとお説教している。
俺は話を聞きながら思わず頷いてしまった。
ただ王族という言葉に、少しだけ引っ掛かりを覚える。
これはアマンダ嬢自身の身分なのか、娘が何者であるか知っているのか……。
最終的に王子は登場せず、妃に勝負で勝った妖精の1人と白雪姫は結婚した。
もう、原作の跡形もない話だな。
ここまでアドリブが入った劇を雫がしなくて良かった。
娘は今頃、涙目になってるかもしれん。
一応、子供達の教訓になるから童話として成り立っているのが救いか。
次に披露される人魚姫が怖くなってきた。
休憩を挟み人魚姫の幕が上がる。
人魚姫の衣装を着た息子の登場だ。
異世界では裸に近い恰好をしているため、冒険者達がどよめく。
やはり、こちらも雫じゃなくて良かった。
親としては視線が気になるからな。
海に落ちた王子を助けるシーンでは、溺れていない王子と普通に会話をしていた。
これ以上、人目に触れさせるのは拙いと判断したダンクさんが上着を息子に着せ掛ける。
その瞬間、男性冒険者の悲鳴が上がった。
気持ちは分かるが、そりゃ俺の息子だ。
あまり変な目で見ないでくれ。
しかし一番重要な本当に助けたのは、人魚姫だと分かる切ないシーンが台無しだな。
人間になった人魚姫を王子が助け、話せないと知ると筆談を持ちかけている。
文字を覚えた人魚姫と意志の疎通が出来たら駄目だろうに……。
王子が他の女性と結婚する話をし、人魚姫は魔女とした約束を果たせなくなった。
姉達から受け取ったナイフで王子を刺せば命は助かると聞き、王子の部屋に忍び込む。
最後は誤解されたまま、涙を零し自らの命を絶つ人魚姫。
なんだか原作より悲劇で終わったな。
見ていた子供達が泣いていた。
着替えを済ませた尚人が、俺達の席に戻ってくる。
「お兄ちゃんの人魚姫、凄く良かったよ~。熱演だったね!」
「あっ、ありがとう」
息子は雫から褒められ、照れたのか頬を染めていた。
涙を流したのは、違う意味だろうけどな。
子供達が主役の劇はアドリブだらけで、こっちがハラハラさせられた。
劇当日に、あそこまで内容を変えるリーダー2人が恐ろしい。
臨機応変に対応するかメンバーを見極めているのか?
なんにせよ、無事に終わりほっとした。
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