偽装結婚の話が出た事で、兄が不機嫌な表情になっている。
嘘と分かっていても、妹が知らない男性と結婚する事を快く思っていないようだ。
「……結婚してなければ、俺が相手になれたんだが……」
えっ?
いくらなんでも、それは無理じゃないかなぁ~。
まぁ容姿が全く似ていないので、兄妹と言っても血の繋がりはないと周囲は思っているだろうけど……。
籍が入っていなければ、連れ子同士で結婚出来るのかしら?
「流石に、お兄ちゃんと結婚は遠慮したいです……」
「出来ないのは分かってる。父さん、勘違いするような相手は止めてくれ。アシュカナ帝国の王がなりふり構わずという可能性もあるから、ある程度自分の身を守れる人物が望ましい。当てはあるのか?」
結婚していても、最悪夫を殺し奪おうとするかも知れない可能性がある。
相手には、そのリスクを背負ってもらう覚悟が必要だ。
「あぁ、問題ない」
きっぱりと言い切る父に、兄と私は首を傾げた。
この世界に知り合いは、そんなにいない筈なんだけど……。
それとも、これから相手を見極める心算だろうか?
「結婚している事を相手へ伝わるようにしないといけないよね? 明日アマンダさんに相談してみるよ」
なんと言っても、迷宮都市で彼女の顔は広い。
長年ここでクランリーダーを務めているだけある。
私も結構有名人だけど、人脈の多さでは彼女に負けるだろう。
偽装結婚の話で意識が逸れたのか、兄から報告が遅れた事に関してそれ以上言及されずに済んだ。
何か突っ込まれる前に、そろそろお開きにしよう。
「2人共、テントに送るよ。もう準備はいい?」
「あっ、ちょっと待って。トイレに行ってくる!」
父に相手役を却下され、しょんぼりしていた旭が慌ててトイレに向かう。
安全地帯の簡易トイレに入りたくないらしい。
「沙良、賢也達を何処に送るんだ?」
「安全地帯のテントだよ。いつもお兄ちゃんはフォレストと、旭はシルバーと一緒に寝てるの。従魔の傍にいてテイム魔法を習得したいみたい。そんな方法で覚えられるのか分からないけどね~」
私が笑いながらそう言うと、父が少し考え込む。
「じゃあ、俺も泰雅と一緒に寝てみよう」
それは止めて~!
夜は母と一緒に寝てくれないと困るよ!
「駄目! フォレストはお兄ちゃんに取られたから、泰雅とは私が一緒に寝る心算なの!」
「お前はもうテイム魔法を習得しているじゃないか。ここは親に譲りなさい」
むうっ!
父は泰雅の事がお気に入りのようだ。
そんなにテイム魔法が習得したいのか。
でも香織ちゃんのために譲る訳にはいかない。
2人で睨み合っていると、私の計画を知っている兄が救いの手を差し伸べてくれた。
「父さん。何も言わず家に帰らなかったら、母さんが心配する。異世界にきてまだ1週間だ。不安にさせるような事はしない方がいい」
「……そうだな。もう少し、この世界に慣れてからの方がいいか」
兄の言葉を聞き、一応納得してくれたみたいだ。
はぁ~、最後に冷や冷やさせられたよ。
その後、父を実家に送り兄達をテント内に移転させ私は自宅に戻ってきた。
泰雅・ボブ・アレク・源五郎は、マジックテント内で休んでいる。
私もお風呂に入って寝よう。
ダンジョン初日から、濃い1日だったなぁ……。
翌日火曜日。
ダンジョンに行く前に、昨日の話を雫ちゃんとお母さんに伝える。
母は父から話を聞いたのか、少し不安そうな顔をしていた。
全員を連れテントから出ると、攻略の準備をしているアマンダさんへ早速相談を持ち掛ける。
アシュカナ帝国の王から9番目の妻として狙われているので、対策に偽装結婚をするから結婚した事実を相手に分からせたいと話をすると、アマンダさんは目を釣り上げて怒りを露わにした。
「ダンク! 話は聞こえただろう? ダンジョンに呪具を設置した国の王がサラちゃんを狙っているらしい。その事をクラン内に周知徹底させておくれ。不審人物には近付かず、噂をバラまくんだよ!」
おおっ!
対応が早いなぁ。
迷宮都市の冒険者だけでも相当な人数がいる。
後は『肉うどん店』の母親達に協力してもらえば、結婚した事が都市中に広まるだろう。
アシュカナ帝国の王が既婚女性を妻にしたいと狙っている悪い噂が広まれば、体裁を気にして抑止力にはなりそうだ。
問題は、その相手だけなんだけど……。
危険を承知し、偽装結婚に頷いてくれる人は見付かるんだろうか?
「サラちゃん、心配は要らないよ。私らには恨みがあるからね。冒険者達は協力してくれるだろう。9番目の妻にしようとするなんて、何考えてるんだい! 絶対にそうはさせないから安心おし」
ダンジョンに禁制品の呪具を設置され、魔物の危険に晒された冒険者達はアシュカナ帝国を敵視している。
この世界の戦争は兵士じゃなく冒険者達がそのまま戦力になるから、前回の件は本当に実力を測るためにしたんだろう。
秘密裏に行った行為が、カルドサリ王国にはバレてるけどね。
呪具の解除に、『毒消しポーション』が役に立つ事も分かったし。
「ありがとうございます。私も不安なので助かります」
お礼を言い、結婚式は盛大に挙げる事を伝えておいた。
アマンダさんは「せいぜい派手に祝ってやるよ!」と不敵に笑う。
うん、頼もしい!
彼女は、公爵令嬢なのに凄く男前だ。
もう結婚相手は、アマンダさんでいいんじゃないかしら?
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