【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第521話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイの災難 6 マケイラ家の当主ガリア様の到着

公開日時: 2023年8月20日(日) 12:05
文字数:2,529

 30分程12人へ平等に鞭を打ち、その内1人の猿轡さるぐつわを外し聞いてみる。


「何か話す気になったか?」


 男は無言だった。

 これは想定内なので、がっかりはしない。


 どれだけ痛みを与えても、この者達は口を割らない訓練を受けているか魔法的な制約が掛かっているのだろう。

 どうせ最後は殺される事を知っているので、最後まで耐え抜くしかない。


 私は監禁部屋を出てから、まとめ役に指示を出す。


「ポーションを掛けておけ。排泄物を片付け、部屋は清潔な状態に保つ事。マケイラ家のご当主が、こちらにこられるそうだ。それまで生かさず殺さず注意して見張るように」


「了解しました」


 やれやれ、折角せっかく影衆の思惑おもわく通りにしたが成果はなしか……。

 犯人が目の前にいるというのに歯痒はがゆい限りだ。


 屋敷を出て、私は再び冒険者ギルドに戻る事にした。

 今日は徹夜になりそうだな。


 ギルド内に入ると、足止めされた冒険者達であふれかえっていた。

 皆がダンジョンの状況を聞き殺気立っている。


 このまま、ここで夜を明かす心算つもりか?

 知り合いの冒険者の安否も分からないんじゃ無理もないか。


 私は受付嬢に声をかけ戻ってきた事を伝えると自室で待機する。

 待っている間に、解除済みの呪具が数回に渡り届けられた。


 そして最後の1個に、呪具は全てダンジョンから撤去済みだとアマンダさんのメモ書きが添えてある。

 羊皮紙には各階に設置された呪具の数・色が記載されていた。


 それによると、今回設置されたのは地下1階~地下14階のダンジョン内で地下15階以降にはなかったらしい。

 各階に設置された呪具の数は地下1階~10階が9個で、地下11階~14階が3個。

 地下11階からは、森のダンジョンとなり魔物が強くなるから数を減らしたのだろうか?


 発見当時黒い色をした呪具はなく、設置後に数時間経過していた可能性がある。

 この辺りを先程の者達に聞いておきたかったんだが……。


 呪具の数は全部で102個だった。

 これは様子見にしてはいささか多い気がする。


 本気で迷宮都市のダンジョンに、スタンピードを起こす気だったのかも知れない。

 狙いは何だ?


 戦力を削ぐ心算つもりならB級冒険者が多い迷宮都市ではなく、A級やS級の冒険者がそろっている摩天楼のダンジョンの方が効率的なのに……。

 

 何故なぜ、迷宮都市のダンジョンを最初に選んだ?

 理由はサラ様がいるからなのか?


 行きついた結果に、冷や汗が出る。

 ゼリア様は、アシュカナ帝国の王がサラ様を狙うだろうと言っておられた。


 もしや『存在を秘匿された御方』である事を知られている?

 

 その後、今回の件で冒険者の死亡者数が0だった報告を受けても私のうれいは晴れなかった。

 本来ならば呪具の解除に成功し、数時間の間にスタンピードを押さえた快挙であるにもかかわらず……。

 

 翌日の早朝。

 ダンジョン内に設置された呪具の撤去が済んだ事を、残っていた冒険者達に告げると皆一様にほっとした表情を見せた。


 ダンジョンへの入場規制も解禁になった事を伝えると、これから攻略へ向かう猛者もさもいる。

 冒険者は1日で大きく収入が変わるから、少しでも損失を減らしたいんだろう。


 寝不足のまま攻略に行くのはお薦めしないが、そもそも自己責任の稼業である。

 無茶だけはしないでほしいが、言った所で聞きはしまい。


 私も、一度屋敷へ寝に帰ろう。

 寝不足の状態では上手く頭が働かない。


 屋敷に戻るなり、執事長に5時間は起さないよう指示を出し泥のように眠った。

 目が覚めてカーテンを開けると、もう日が高く昇っている。


 昨日から何も食べていなかったと気付き、軽食でも口にいれようとダイニングへ向かう。

 部屋に入ろうとして、執事長に止められた。


「何だ? 私は、お腹が空いているんだが……」


「オリビア様。マケイラ家のガリア様がお越しです」


「はっ!? 連絡したのは昨日の事だぞ? そんなに早くこられる訳がないだろう」


「そうは言われましても……。実際お見えになり、応接室でくつろがれておりますが?」


 一体、どんなスピードを出してこられた!

 私はあわてて身形を整えると、ガリア様のいる応接室へ足を向けた。


 部屋に入ると、確かにガリア様ご本人が席に座り紅茶を飲んでいらした。

 数十年振りにお会いするその姿は、前回会った時と何も変わっていない。


 男性なのに綺麗という言葉が非常に似合う人だ。

 入ってきた私に気付き、ガリア様が顔をほころばせる。


「久し振りだね、オリビア。元気でいたかい?」


 父とは犬猿の仲なのに、娘の私には会うたび優しい言葉をかけてくれる。


「お待たせしてすみません、ガリア様。ご無沙汰ぶさたしております。私の方はつつがなく過ごしておりました」


 本当はサラ様の所為せいで毎日胃に穴が開きそうな日々を送っていたが、それはここでは言わなくてもよいだろう。

 王族に対し不敬な事は思っていても口に出してはいけない。


「冒険者ギルドマスター会議での収支報告に、息子が驚いていたよ。頑張っているようだ」


 ええ、サラ様のパーティーが毎週大量に素材を換金されますからね。

 そのお陰で支出も増えているんですよ!


「ありがとうございます。全て優秀な冒険者達の成果です」


「おや、謙遜けんそんする事はない。王都でのオークションは盛況せいきょうだったそうじゃないか」


 どうやらガリア様は、シルバーウルフの毛皮をオークションに掛けた事をご存じらしい。

 数をしぼり出したので、確かにあれはかなり高額で売れた。


 きっと次回の迷宮タイガーは、もっと高値で競り落とされるだろう。

 そうじゃなきゃ困る。


「世間話はこれくらいにして、本題に入ろうか。今から私が尋問を行おう。まだ情報は引き出せてないんだろう?」


「お手数かけて申し訳ありません。昨日は一言も話しませんでした」


「いいよ、私が聞いてみるから。そのために、一番早いグリフォンで飛んできたんだ。早速、犯人達のいる場所へ誰かに案内をお願いしてもいいかな?」


「それなら私がお連れします」


「いや、君はこない方がいい。私の魅惑みわくは効き過ぎるからね」


 そう言うとガリア様は私に悪戯いたずらっぽい視線を送り、そばにいた執事長に案内役を頼んだ。


 やはり魅惑の魔法を使用されるのか……。

 掛かった事がないため、どんな状態になるのか少し興味が湧いたけど知らない方がいいかも知れない。


 アシュカナ帝国人に効果はあるんだろうか?

 私は尋問が終わるまで、取りえず腹に何か入れておこうと席を立った。

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