翌日から鍛冶師ギルドに行く必要がなくなったので、平日は鍛冶魔法の練習をする事にする。
鍛冶Lvが30に上がるには時間が掛かりそうだし、魔力操作を習得する方法は不明だ。
しかし魔力欠乏で昏倒すると、一晩時間が無駄になるから注意せねばならん。
ステータスを開いて、魔力値を確認しながら作業した方がいいだろう。
師匠に言われた通り、剣ではなく解体ナイフを作ってみるか……。
昨日の失敗は儂のイメージが正確ではなかったからだと思い、解体ナイフを目の前に置きコピーを作るような感じで試してみる。
完成したのは、またもや刃のないガラクタだ。
そもそも鍛冶という名が付いておる魔法なのに、鍛冶の技術が不要なのはおかしいじゃろ。
刃がないのは形を真似ただけでは駄目だという事か?
実際に剣を鍛える工程も付加した方が良いかも知れん。
鉄は熱いうちに打てというから、バールに作製した解体ナイフが融けぬ温度まで熱を加えてほしいと頼み、赤くなってきたところで上から叩くイメージを付加する。
すると魔力値がガンガン減り始め、慌てて昏倒寸前に止めた。
考え方は間違ってないと思うが、根本的に魔力が足りておらん気がするな。
魔力操作を覚えれば、消費魔力を抑えられる可能性がありそうじゃが……。
ハイエーテルを飲み干し、普段あまり考えない頭をフル回転させた。
魔力操作を習得していない現状では、イメージに使用する魔力が多すぎる。
実際に鍛冶をした経験があれば、また違う結果だったろうに……。
うん? 経験がないなら、やってみればいいではないか!
まずは道具を揃えねばならん。
硬い台が必要なので、採掘したオリハルコン鉱石をバールに融かしてもらい四角に成型した瞬間、魔力が尽きた……。
鉄より融点の高いオリハルコンを成型するのは、単純な形でも魔力消費量が高いらしい。
これ以上、ハイエーテルを飲むのは控えよう。
一晩寝て魔力が回復したのを確認し、オリハルコン製のハンマーを作る。
こちらは四角の台より形が複雑な所為か、1本作るだけで魔力欠乏寸前までになった。
更に翌日。熱した解体ナイフを台に載せ、ハンマーで叩こうとして掴むものがないと気付く。
いくら火の精霊王の加護があるとはいえ、流石に800度以上ある解体ナイフを素手で触れば火傷するだろう。
仕方ない、今日はペンチを作って終了し研石を購入しておこう。
鍛冶魔法の練習開始から4日後。
難易度の高いオリハルコン鉱石を材料にしたおかげか、鍛冶Lvが5になっていた。
さて、道具も揃った事だし実際に叩いてみるかの。
熱せられた解体ナイフをペンチで挟み、台の上に載せハンマーで叩き始める。
儂が何をしているのかバールは興味津々のようじゃ。
真剣な表情で見ておるが、解体ナイフの温度が下がらぬよう気を付けてくれ。
叩くという作業をイメージしやすいよう体に馴染ませ、何度も繰り返した。
土日はS級ダンジョンへ向かい、鉱物の採掘をしながらせっせと魔物を倒しLv上げを同時に行う。
鍛冶をするには魔力が必要なので、多いに越した事はないだろう。
翌週も叩く作業に没頭し、力加減を覚えていく。
2週間後、儂の予想が合っているか検証してみた。
完成した解体ナイフに刃はないが明らかに見た目が変わり、成型後に叩くイメージを加えた事で魔力操作を習得する。
これなら研ぎの練習をすれば刃が出来そうだ。
その前に焼き入れと焼き戻しがあるが……、本職に習わんと意味がないであろうな。
刃のない解体ナイフに粗目の砥石を当て、包丁を研ぐよう上下に滑らせる。
これは非常に根気のいる作業で機械がないと難しく、砥石だけで刃を作ろうとするのは素人じゃ難しい。
なんとか形になった頃には、日が暮れておった。
それでも店売り品のような切れ味はないが……。
2週間研ぎの練習を重ね、鍛冶魔法で全ての工程をイメージした解体ナイフが完成する。
今回は刃もありナイフと呼べるようじゃな。
持っていた解体ナイフと切れ味を比べてみても遜色がない。
ただ、魔力操作のLvが低く消費魔力が多いのが難点だ。
それからは、鍛冶魔法と魔力操作のLvを上げるために何回も解体ナイフを作製する。
解体ナイフばかりあっても仕方ないので、作った物をバールに融かしてもらい材料にした。
半年後――。
鍛冶魔法と魔力操作のLvが30に上がり消費魔力も10分の1に減ったので、昨日作製した解体ナイフを持ち、久し振りに鍛冶師ギルドへ行き師匠を訪ねた。
「待っておったぞ、シュウゲン。どれ、解体ナイフを見せてみよ」
儂は無言で師匠に持ってきた解体ナイフを渡して評価を待つ。
師匠は手にした解体ナイフをじっくり眺め、試し切り用に準備した肉の塊へ突き刺した。
抵抗もなくナイフが刺さる様子に、一瞬だけ爺の表情が変わる。
解体ナイフを正確にイメージしたのではなく、鍛造工程をイメージし作製した物とは性能が違っておろう。
「うっんん? ……良い出来だ。次は剣に移ってもいいだろう。鍛冶Lvが50になったら来るがいい」
「分かった」
可の評価を受け、鍛冶師ギルドを後にした。
ドワーフの古語を覚えるより、鍛冶魔法の練習をしていた方が何倍も儂の性に合うわ。
Lvは上がる程、次に上がるのに時間が掛かる。
Lv50になるのは半年以上必要だろう。
王都に来てから、勉強と練習ばかりで休暇を取らんかったし……。
少しくらい骨休めしても良いかと、バールを連れ綺麗所がいる店へ足を向けた。
若い女性がちやほやしてくれる店内へ入ると、バールが詰るような視線で儂を見てくる。
「シュウゲン様、バレたら大変です! 直ぐに店を出ましょう!」
小夜の事は知らんのに、誰にバレたら大変だと言うのだ?
ここは単に楽しく酒を飲みながら会話するだけの場所だぞ?
酒さえ飲まなければ問題ないではないか!
儂だってもう16歳になる、羽目を外したい年頃なのじゃ!
ええいっ、引っ張るでない!
嫌がる腕を掴まれ、バールにずるずると店の外へ引きずり出されてしまった。
「何をする! せっかく楽しもうと思っていたのに!」
「駄目です。ご……ご両親が悲しまれます」
そう言われては何も返せんではないか……。
成人が行くような店へ足を運んだと知れば、母親に怒られそうだ。
もう80歳を過ぎておるが20歳になるまで我慢するか。
バールのやつは機転が利かんなぁ。
そんなところまで、馬鹿正直に側仕えの役目を果たさんでもいいだろうに……。
儂はすごすごと家まで戻り、ふて寝した。
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