【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第596話 迷宮都市 犯人の動向 1

公開日時: 2023年11月6日(月) 12:05
更新日時: 2024年6月26日(水) 15:17
文字数:1,919

 【ヘインズ司教】


 数ヶ月前、アシュカナ帝国より内密の使者があった。

 迷宮都市のダンジョン内に複数の呪具を設置するから、その解呪を冒険者ギルドより依頼されるだろうと言う。

 そう話をされても、儂は顔色ひとつ変えずうなずいただけであった。

 禁制品の呪具をダンジョン内に設置するという使者へ、いきどおりを感じる事もない。

 魔物がダンジョンから出てこないと分かっていれば、大した問題にならないからの。


 精々せいぜいあわてた冒険者ギルドマスターからの浄化依頼を、勿体もったいぶり聞いてやるだけだ。

 その際、護衛として人数を多く要求し浄化代を吹っかける予定でいた。

 所が教えられた予定日を過ぎても一向に浄化依頼の気配がなく、これはおかしいと思い状況を探らせると、呪具の解呪は終了済みだと報告がくる。

 はて、教会の司教以外に誰が・・呪具の浄化をしたのだ?

 光魔法を使用出来るだけの司祭では、浄化は出来ぬ。

 同様に治療院の治癒術師も、呪具の解呪は不可能である。

 しかも、今回の仕業しわざがアシュカナ帝国のものだとバレておった。

 これは少々、厄介やっかいな事態になりそうだわ。


 人族最大の組織といわれている教会は、お布施を受け取り治療や呪具の浄化を行っている。

 が……、それは大した金にならない。

 主な収入源は、貴族が魔法を使用出来るよう儀式を行う事と魔術書の販売だ。

 他言無用の儀式と魔術書が一緒でなければ、魔法習得は出来ないようになっている。

 他にも孤児院の運営を行っているが、引き取る子供達は最初から光魔法を習得する素養がある者だけに限られた。


 ある方法を使用し選別された子供達は、外界と一切接触せず育てられる。

 自分達は選ばれた人間だと優越感を与え育てれば、教会に従順で盲目的な司祭が誕生する仕組みとなっていた。

 その上の司教には、孤児院出身ではなれない。

 こちらは教会派閥の跡を継げない貴族出身者達が、魔術書を購入し浄化の魔法を習得して地位に就く。

 教会での炊き出しや孤児たちの世話係のシスターは、庶民から採用するため教会の実態を知らないだろう。

 何とも上手く出来ておるわ。


 しかし今回の件、アシュカナ帝国はどう対処する心算つもりであろうな。

 大方、数年後に控えた西大陸への侵略の一環だとは思うが……。

 南大陸の国を次々と併呑へいどんしている噂は儂の耳にも届いておる。

 戦力を測る目的でダンジョン内に呪具の設置をしたのだとしたら、目的は達成せず終わったはず


 呪具を教会に依頼せず、解呪されては敵わん。

 それではアシュカナ帝国と密約を結んでいる、儂ら上層部の人間の得にならんではないか。

 カルドサリ王国と戦争後も、教会が存続するなら強い方に付いた方が良いからの。

 この国は教会と敵対する薬師ギルドの存在があり、どうにも目障めざわりだ。

 薬師ギルドは長命な白狼族の一族がポーションの販売を行い、司祭の仕事を奪っておる。

 もしや呪具の解呪にも、関わっておるのではないかと疑ったが……。

 エリクサーでも浄化は出来まい。


 ふむ、教会が知らない浄化可能な冒険者がおりそうじゃ。

 最近よく噂される、少女だろうか?

 迷宮都市にきたばかりで教会の炊き出しへ参加し、孤児達に家を与えたと聞く。

 一緒にパーティーを組んでいるメンバー2人は、ダンジョン内で治療を行っているようだしな。

 『肉うどん店』と『製麺店』を経営しているらしいが、儂は庶民が食べる物に興味はない。

 迷宮都市の名物になっておるのは、物珍しさと価格の安さからくるのだろう。

 冒険者としてかなり有名な少女のパーティーと接触するのは、慎重になった方がいい。

 優秀な治癒術師を囲い込むには、心証を悪くしない事も必要じゃ。

 

 どう動こうか迷っていると、再びアシュカナ帝国の使者が訪ねてきた。

 少女に目を付けた王が妻にと望んでおるらしい。

 やれやれ、これは手を出さん方が良いな。

 儂は動きを静観する事にした。

 その後、何故なぜかアシュカナ帝国の諜報員が道端で死亡する事件が相次いだ。

 狙われた少女は、何事もなくダンジョンを攻略中だという。

 少女には護衛でも付いておるのか?

 詳しく調べると、迷宮都市では珍しい従魔を連れているらしい。

 ならば、その従魔が主人である少女を守ったのだろう。

 

 しかし、これ程まで失敗を繰り返すアシュカナ帝国へ教会が付いて大丈夫なのか……。

 数年先の戦争にしても、既に国は情報を得て対策をする時間も充分ある。

 西大陸には大小様々な国があり、大陸中央にあるカルドサリ王国を侵略する頃には兵が疲弊ひへいして役に立たんのではないか?

 それゆえ、戦力差を補うため呪具を使用した戦略を考えたのだろう。

 しかし様子見であった呪具の設置は、翌日には解呪され事なきを得た。

 それがどうにも不可解であったため、少し探りを入れようと儂は子飼いの者を呼び出し指示を与える。

 少女がどう動くか見てみるとしよう。

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