【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第554話 父と2人で王都へ 1 ドワーフの鍛冶職人&誘拐されたようです!

公開日時: 2023年9月22日(金) 12:05
更新日時: 2024年1月13日(土) 22:49
文字数:3,730

 ガーグ老が結婚相手に決まりしばら呆然ぼうぜんとしていたけど、考えたら私の夫になる人は命の危険が伴うのだ。

 ちゃんとお礼を言わないと。


「ええっと危険なお役目ですが、引き受けて下さりありがとうございます。どうかこれから、よろしくお願いします」


「なに、儂は死なんから大丈夫だわ。サラ……ちゃんを、絶対に未亡人にはせんで安心するがよい」


 それには激しく同意する。

 王族を護衛する近衛をしていたご老人だ。

 今でも現役で通じるんじゃないかと思うくらい強い。


 たとえアシュカナ帝国の暗殺者がやってきたとしても、返り討ちにするだけの技量は充分あるだろう。

 兄は結婚相手がガーグ老と知ったら安心するかしら?

 用件を済ませた私達は、ガーグ老の工房を後にした。

 まだ先程の衝撃が強く残っており、私はヨロヨロと道を歩く。


「沙良。ガーグ老から聞いたんだが、王都にドワーフの鍛冶職人がいる店があるらしい。槍術を身に付けたら、もっといい武器が欲しくないか?」


 そんな私を見兼ね、父がドワーフの鍛冶職人がいると教えてくれた。

 

「えっ? この国にドワーフの鍛冶職人がいるの?」


 カルドサリ王国は他種族と交易をしていないから、人間以外の種族を見掛ける事はほとんどない。


 私が知っているのはハーフエルフのオリビアさんと、ハーフ獣人のウォーリーさんだけだ。

 何故なぜしずくちゃんを探しにいったガウトの町とウトバリの町には、ハーフエルフの人達がいたけど……。


「ああ、場所も教えてくれたから王都までいけば案内出来るぞ」


「いきたい! 私ドワーフは会った事がないの。一度見てみたかったんだよね~。やっぱり背が低くて、ひげもじゃな種族なのかな? いつもお酒を飲んで、赤ら顔をしているのかしら?」


 物語の中でしか知らないドワーフ!

 私はそんな想像上の種族に会えると分かり、落ち込んでいたのをすっかり忘れテンションMAXになる。

 うわぁ~、どんな姿をしているんだろう?

 楽しみだなぁ~。


 雫ちゃんを探しに王都へいった事があるので、カマラさんがくれた地図を見ながら迷わず辿たどり着く。

 父は王都にくるのは初めてだけど、ガーグ老から詳しい店の場所を聞いたのか迷いなく進んでいく。


 私は方向音痴だから、土地勘のない場所では方角すらも分からない。

 父は車の運転が好きで、よく色々な場所に連れていってくれた。

 知らない町でも、店の場所が分かるなんてすごい!

 15分後、『バールの店』と書かれた武器屋に到着。

 いよいよドワーフに会えると、私はうきうきしながら店内に入った。


 店内には、身長が2mくらいある非常に体格の良い男性が店番をしている。

 武器を購入するのは冒険者だから、店番の男性も盗難防止のために強い人を雇っているのかな?

 ドワーフはどこかしら?

 店内をキョロキョロしながら探していると、父から彼がドワーフだと耳打ちされる。

 私は想像とあまりにも違うドワーフの姿に驚き、ってしまった。


「予想外過ぎる……」


 もう普通の人間にしか見えないよ!

 もっとこう、ファンタジー感あふれる姿をしてほしかった。

 折角せっかく異世界にいるのに……。

 これはもう、最後の獣人に期待するしかない!

 耳と尻尾付きの可愛い子供達が見たいなぁ~。

 そんな風に考えていると、店主から不思議な事を言われる。


「お嬢ちゃん、今日は何を注文するんだ? おや、少し背が低くなったのか? それに胸が……」


 まるで以前会った事でもあるかのような口振りだ。

 うん?

 私に似ているなら、リーシャのお母さんかしら?

 香織ちゃんの夢では病弱なイメージが強かったから、外出なんて無理そうだけど……。


 私が持っている槍は、ガーグ老との稽古用に購入したミスリル製で金貨1枚(100万円)の短槍。

 槍術がステータス表記されたら魔物相手にLv上げをする心算つもりなので、もっと良い物が欲しい。

 ドワーフの鍛冶職人は頑固なイメージがあるけど、この人は違うみたいで普通に注文を受けてくれそうね。


 ほら、「俺の武器を扱う技量があるか見せてみろっ!」て言い出しそうじゃない?

 私の勝手な憶測おくそくだけど、そういったテンプレシーンが小説にはよく登場するでしょ?

 その場合、主人公があっさり技術を披露ひろうしてドワーフの鍛冶師を驚愕きょうがくさせるんだけど……。

 私じゃ違う意味で驚かれそうだわ。   

 

「あの、槍を注文出来ますか? 魔法の性能が付いた物は必要ないので……」


「今日は剣ではなく槍か? 今使っている物を見せてくれ」


 今日・・はと言われたのを疑問に感じつつ、持っている槍を手渡す。


「ふむ、これ以上の鉱物で作ってやろう」


 店主は槍を手に取り何やら確認をした後、注文を受けてくれた。

 ミスリルより性能が高いのは、オリハルコンだろうか?


「よろしくお願いします」

 

 返却された槍を受け取り、にっこり笑ってお礼を言う。

 それで相手が気持ちよく仕事をしてくれるなら、どこぞのファーストフード店のように笑顔は無料だからいくらでもしますよ!

 私の分は注文したから、店まで案内してくれた父にも聞いてみる。


「お父さんはいいの?」


「あぁ、俺の分は……」


「お主、その腰の剣は俺の親父が鍛えた物だな。それを何処どこで手に入れた?」


 父の言葉をさえぎるように、店主が父の剣を見て父親が鍛えた物だと言い出した。

 その剣は、ガーグ老の大切な姫様の形見の品だけど……。


「この剣は知り合いから譲り受けた物だ」


 父がそう答えると、店主が何かを考え込むような表情をして口を開く。


「その剣のさやには古いドワーフ語で【可愛いヒルダちゃんへ 親友への剣は『飛翔ひしょう』と命名した またいつでも注文を待っておる シュウゲンより】と書いてある。親父が、注文した本人以外に剣を鍛える事は滅多にないんだが……。それがどうしてお主の手に渡ったか謎だな。親父の鍛えた剣だ、大切に使ってくれ」


「それは知らなかった。大切に扱うと約束しよう」


「そうしてくれ。ここ数百年、親父は剣を打ってない。そこに書かれたヒルダちゃんとやらを、待っているのかもな……」


 姫様の名前はヒルダというらしい。

 もう亡くなっているとは言えず、私は黙ったままでいた。

 だけど、数百年という単語が気になる。

 カルドサリ王国の王女様は人間だから、亡くなったのはそんなに昔の話じゃない気がするんだけど……。

 ガーグ老が姫様はお転婆だったと言っていたから、お忍びでLv上げをし長生きしたのかしら?


 店を出ると、近付いてきた男の子に声を掛けられた。

 以前も王都へきた時、客引きをしている子供に声を掛けられたなぁ。

 そろそろ戻らないと兄が心配するだろう。

 案内は不要だと断ろうとした所、その子供に手を引かれた。


 てのひらにチクリと何かが刺さったような痛みが走った瞬間、眩暈めまいがし足元が覚束おぼつかなくなる。

 咄嗟とっさに父へ助けを求める声を上げようとしたけど、意識が急速になくなりそのまま途絶えた。


 次に目が覚めた時、見えたのは知らない天井だった。

 そして直ぐに自分の状況を確認する。

 突然意識を失い別の場所で目覚めるのは2回目だ。

 あの時と違い、今回は理由がはっきりしているので動揺は少ない。


 多分、声を掛けてきた男の子が原因か……。

 目が覚めたのなら、てのひらに刺されたのは毒じゃなさそう。

 体を動かそうとし、両手が後ろ手にしばられていると気付く。

 うん、これはもう確実に誘拐だね!


 どうやら床ではなく、ベッドの上に寝かされた状態であるらしい。

 顔を左右に動かし室内を見渡すと、壁一面にひどく損傷した状態の肖像画が掛けられていた。

 悪趣味だなと思い、描かれている女性の顔を見てぎょっとする。


 え?

 この顔、私にそっくりなんですけど!?

 違うのは瞳の色が紫である事だけだ。

 ゾッとして身を強張こわばらせた時、部屋の入口から10代後半の少年が姿を現した。

 この少年が犯人なの?


 さっさと逃げ出そうとしていたけど、この肖像画を見たら理由を聞かない訳にはいかない。

 前回、報告が遅いと兄から怒られたばかりなので、今回は直ぐに連絡を取ろう。

 幸い、ガーグ老から渡された念話が出来る通信の魔道具を兄が持っている。

 もう一つは、ガーグ老の息子さんにつながる物だから助けは呼べない。

 今は迷宮都市にいるから、王都にくるまで時間が掛かり過ぎる。


 私はアイテムBOXから通信の魔道具を取り出し、後ろ手に縛られた状態で握り締めた。

 2人の朝食を作った時、テーブルの上へ父と果物を卸しにいくとメモ書きを残しておいたから、心配性の兄は通信の魔道具を肌身離さず持ち歩いているだろう。


『お兄ちゃん、聞こえる~?』


『あぁ、ちゃんと聞こえてる。これは携帯みたいで便利だな』


 やはり兄は何があってもいいように、通信の魔道具を持ち歩いていた!


『私、王都でストーカーに誘拐されたみたい』


『……。直ぐに帰ってこい!』


『いつでも逃げ出せるんだけど、犯人が私の肖像画を壁に沢山掛けているのが気になるの。もう少しだけ様子をみたいから、一緒に対策を考えてくれないかな?』


『肖像画? 王都にほとんどいった事のない、お前の姿が描かれているのか?』


『うん、おかしいと思って。危険を感じたら、直ぐホームに戻るから心配しなくていいよ』


『じゃあ、犯人の様子を声に出さないよう注意して教えるんだ。それより、一緒にいた父さんはどうした』


『客引きの子供を使った犯行だったから、お互い油断したみたい』


『ちっ、使えないな……』


 兄はそう舌打ちすると、父親に対し辛辣しんらつな評価を下したのだった。

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