【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第557話 迷宮都市 武術稽古&お礼の『キーマカレー』

公開日時: 2023年9月25日(月) 12:05
更新日時: 2024年1月17日(水) 00:56
文字数:2,965

 ガーグ老の工房へ到着すると、上空からポチが急降下し父の右肩に止まる。

 いつもよくそんな速さで飛び、ぶつからないなぁと思う。

 急停止が間に合わなかったら、かなりの衝撃を受けそう……。

 最初は2匹の見分けが付かなかったけど、右に止まるのはいつもポチで左に止まるのはタマだと気付いてからは、簡単にどちらか分かるようになった。

 

 あれ?

 ポチは昨日、王都にいたのに……。

 1日あれば迷宮都市へ飛んでこれるのかしら?

 そしていつも一緒にいるタマは、どこへいったんだろう。

 まだ王都にいるゼンさんのそばかな。


「こんにちは、今日もよろしくお願いします」


 工房の庭に整列しているガーグ老達へ挨拶をする。


「サラ……ちゃん、ようきたな。昨日は大変……良い天気であったの」


 突然天気の話をされ、そうだったかしらと思い出してみる。

 確かに雨は降っていなかった。


「ええっと、はいそうですね」


「それでも気温は低かったようだ。寒いで体調が悪くなったりはせんかの?」


「若いから大丈夫ですよ~」


 寒さで体調を崩しやすいのは、体温機能調節が出来ない子供とお年寄りだけだ。

 私の体は20歳なので問題ない。

 ガーグ老は高齢だから心配してくれたのね。

 でもこの体格の良いご老人に、関節痛があるとは全然思えないんだけど……。


「そうか……何事もなかったようで安心したわ。従魔の数が増えているが、また新しくテイムしたのかの」


「はい、大所帯おおじょたいになっちゃいました!」


 私は増えた従魔をガーグ老達へ紹介した。

 家具職人のお爺さん達は、うんうんとうなずいている様子だったけれど、息子さんとお嫁さん達はどこか精彩を欠いているように見える。

 大型の魔物が苦手なんだろうか……。


 ガーグ老は2匹のフォレストウサギを見ると、「騎獣にするには変わっておるな……」とつぶやいていた。

 そして全員がボブと源五郎げんごろうの名前を聞き、首をかしげている。

 この世界では、やはり聞きなれない名前なんだろう。


「サラ……ちゃん。従魔が増えるのは良いが帝国の件もあるで、いつも連れ歩くのを忘れんようにな」


 それは昨日、痛いほど実感したばかりだ。


「はい、シルバー達と一緒に行動しますね。ガーグ老も身辺には気を付けて下さい」


 危険なのはガーグ老も同じだから、注意してほしいと伝える。


「儂は、どんな相手がこようと問題ないわ!」


 そう言って、呵々かかと笑うご老人は確かに最強だ。


 その後、ガーグ老の一声で稽古が開始される。

 私はターンラカネリの槍を使用するために投擲とうてき術を教えてもらおうとしたけど、ガーグ老から槍を投げたら得物がなくなるので止めた方がいいと言われあきらめた。

 普通は投げた槍が自動に戻ってこないから、理由を言えずしょんぼりとなる。

 父のように魔物を華麗に仕留めたかった!


 2時間後。

 ガーグ老の合図で稽古が終わる。

 やたら下半身への突きを練習させられたのは、何故なぜだろう?

 魔物もソコ・・が急所なのかしら?

 でも睾丸こうがんが高く売れる魔物がいた気がするから、魔物相手には首筋か眉間を狙おう。


 旭はしごかれたのか地面に倒れている。

 食事が出来る頃には復活しているだろう……。

 ダンジョンでLvが上がった旭のお母さんと母は、先週より元気そうだった。

 しずくちゃんは、ニコニコしているので父と一緒の稽古が楽しかったらしい。

 兄は満足そうにしていたから、充実した稽古だったようだ。


 今日のお昼は『キーマカレー』。

 ご飯がないのは残念だけど、『ナン』と食べても『カレー』は美味しいから大丈夫。

 お店では出せない料理も、ガーグ老達は元日本人の姫様から色々聞いているようだから問題なし。

 きっと『カレー』も知っているに違いない。


 この世界で挽肉ひきにくを作るのは大変なため、百貨店の料理道具売り場でステンレス製のミンサーを購入した。

 自宅のアイテムBOXに登録し×365をしたから、『肉うどん店』の母親達へ渡さないとね。

 これで『ミートパスタ』を作るのが楽になるだろう。


 作業台と魔道調理器に業務用寸胴鍋を出し、母と2人で玉ねぎをみじん切りにする。

 『ナン』は、お代わり出来るよう兄と旭に沢山焼くようお願いした。

 ミンサーを取り出し、ミノタウロスのかたまり肉を入れハンドルを回すとミンチ状になった物が出てくる。

 おぉ流石さすが、文明の利器!

 包丁を2本使って叩くより断然早い!


 それを見ていたしずくちゃんが私もやりたいと言うから、お手伝いをお願いする。

 彼女は入院生活が長かったので、料理を作る機会も少なかったはずだ。

 多分、中学校の調理実習が最後なのだろう。

 これから少しずつ教えてあげようかな?

 母親から習うのは、止めた方がいい気がするし……。


 母がみじん切りにした大量の玉ねぎを炒めた所へ、挽肉を投入し水と『カレールー』を加える。

 すると辺りに、『カレー』独特の匂いがただよった。

 隣近所で『カレー』を作っている家があると、直ぐに分かるよね~。

 匂いをぐと食べたくなるから不思議だ。

 ご老人達も、初めての匂いにソワソワしている様子。

 一瞬、庭に植えられていた木の枝が風もないのに揺れた気がする。


「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『キーマカレー』です。『ナン』に付け食べて下さいね。お好みでチーズを掛けても美味しいですよ。それでは頂きましょう」


「頂きます!」


 ガーグ老が『キーマカレー』を見た感想を口にする。


「白いスープと茶色のスープに続いて、今度は黄色のスープか? これが姫様が食べたいと言っておられた『カレー』かの……。そういえば匂いがたまらんとおっしゃっていなさった」


 やはり、『カレー』を知っていたみたい。

 まぁ日本人は『カレー』が好きだよね。

 一口食べたガーグ老が、そのまま無言でスプーンを進める。


 この世界の人には少し辛いかも知れないと思い、『カレールー』は甘口を使用した。

 香辛料系のスパイスは露店で見掛けないから、小豆あずきのように薬草扱いかも?

 ご老人達はエールを片手に、バクバク食べている。

 私達は、まだお昼なので冷たいミネラルウォーターにした。


「この少し辛さを感じるスープが旨いのぉ~。どれ、チーズも掛けてみるとしよう!」


 刻んだチーズが入った小皿を手に取り、ガーグ老が上からたっぷりと掛ける。

 熱で少し溶けたチーズを、ちぎった『ナン』にすくい口へ入れた。


「あぁ、今日は長男が王都で不在なのが残念だわ」


 息子さんに食べさせてあげたかったとは、優しいですね~。

 ガーグ老の言葉に呼応するように、今度は庭の木が大きく揺れ動く。

 なんか木の枝がバサバサいってる……。


 大量に作った『キーマカレー』と『ナン』は、残らず綺麗になくなった。

 お嫁さん2人の大きくはみ出した口紅が、『カレー』の色と混ざりすごい状態になっていたけど……。

 ここは見ないフリをしておこう。


 昨日薬師ギルドに兄達を連れていけなかったから、将棋のお相手に父だけを残す。

 私達は工房を後にしホームへ一度戻ってきた。

 女性陣3人は父から日本円に換えてもらった軍資金を持ち、百貨店へ買い物にいくそうだ。

 散財しそうだなぁ~。


 運転免許は母と旭のお母さんも持っているからホーム内の車を出すと、選んだのは兄のマンションの住人さんが乗っていた〇ンツだった。

 ファミリーカーじゃないのかよ!

 どうやら高級車に乗ってみたかったらしい。

 〇ンツって外車じゃなかったっけ?

 左ハンドルの車を運転出来るのかしら?

 一抹の不安を覚えつつ、私は兄達と再び異世界に戻り薬師ギルドへ向かった。

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