火竜から鍛冶魔法を授けてもらい神殿を後にした儂達は、王都にある鍛冶師ギルドへ向かった。
この国最大の鍛冶師ギルドには、多くの名匠と呼ばれる者が在籍している。
儂は、鍛冶魔法の使い方を師匠について学ぼうと考えておった。
鍛冶師ギルドの受付で用件を伝えると、ギルドカードを確認され別室に連れていかれる。
バールと席に座って待つ事数分、筋骨隆々とした顔に深い皺のある老人が入ってきた。
「お主がシュウゲンか……話は聞いた。俺はガンツ、S級の資格を持っている」
「ガンツ殿が、儂の師匠となってくれるのか?」
「あぁ既にA級なら、それ以上の等級の者が担当に就くしかあるまい。それにしても、本当にまだ幼い子供なのだな……。話し方が随分年寄りくさいが、儂と言うのはどうかと思うぞ?」
「それは気にせんでくれ。隣にいるのは、相棒のバールだ。契約精霊の代わりに火魔法を使う」
これから師匠になる者に対して少々失礼かも知れんと思ったが、今更口調は変えられぬ。
多少、言動がおかしな子供にみられたところで構わない。
「そうか……。まぁ、独り立ちするまで私のもとでよく学べ。今日は顔見せだけだから、宿でゆっくり休むといい。明日は遠出をするから、その心算でいるように。鍛冶師ギルド前で9時に集合だ。遅れるなよ」
「これから、よろしく頼む」
儂はガンツ師匠に一礼し、席を立って部屋を出る老人を見送り、バールと宿屋を探しに王都内を歩き回った。
ここにも大型ダンジョンがあるおかげか、冒険者相手の宿屋が多く建ち並んでいる。
その中で1泊朝食付き銀貨3枚の少々お高い宿に決めた。
冒険者をしている間かなり稼いだので、日本円にして3万円くらいなら出せない事もないが……。
問題は、どの宿で出される朝食も硬いパンと塩味のスープだけという味気ないものだ。
それに、ゆで卵が付いていればいいほうじゃな。
夕食は外食するより自分で作ったほうがましだと思い、食材を探しに店を覗く。
何軒か顔を出し野菜と卵を調達している途中、乾物屋で胡椒を発見した。
1壺銀貨20枚で売られているそれを迷わず購入する。
これで、ステーキ肉が旨くなるな! しかし20万円もするとは高いのぅ。
乾物屋に隣接した酒屋へ視線を向けると、ついつい惹かれるが13歳では飲むわけにはいかん。
ドワーフ国は、酒を飲むのに年齢制限はないようじゃが20歳になるまで待ったほうがいいだろう。
シュウゲンの体では酒を飲んだ事がない所為か、それほど飲みたいと思わんしな。
品質も日本のものと比べるまでもなく、劣っていそうだし……。
宿に帰り、室内で玉子焼きと塩・胡椒したミノタウロスの肉を焼き食べた。
ミノタウロスは牛肉に近い味がして口に合う。
オークは豚肉、コカトリスは鶏肉と、魔物肉は思ったより美味しく不満はない。
しかし調味料がなく、豚の生姜焼き・唐揚げ・すき焼き等が食べられんのは残念だ。
王都に来て胡椒が手に入っただけでも充分とするか。
うむ、やはり胡椒が利いた肉は一味違うの。
儂が満足しながら食べている間、バールは窓側のベッドに腰かけ外を見ていた。
行動を共にして半年、彼は必要な時以外口を開かず大人しい。
今でも何の種族か分からぬが、時折妙に懐かしい気配を感じる事がある。
13歳の子供にしては、おかしな点がいくつもあろう儂の態度も特に驚いた様子をみせない。
もしかして、同じように前世の記憶を持っておるのか?
そう尋ねようとして結局、聞き出せぬままだった。
いつか、自分から話してくれるのを待とう。
明日に備え、この日は早目に就寝した。
翌日。
待ち合わせの場所へ約束の10分前に向かうと、9時ちょうどにガンツ師匠が現れた。
「シュウゲン、昨日はよく眠れたか? 時間前に来るとはいい心がけだ。目的地には時間が掛かるから、先に騎獣屋へ行くぞ」
「ガンツ師匠。何処へ向かうのか?」
昨日は遠出をするとしか聞いておらず、何をしに行くのか分からない。
「鉱山で鉱物の採掘作業をしようと思う」
なんとっ! 武器の材料となる鉱物を採掘するところから始めるのか?
単純に鍛冶魔法を教えてもらえると思っていた儂は、呆気に取られた。
鉱山で採掘とは、またロマンを感じるの。
金脈を掘り当てたら一攫千金を狙えるかも知れん。
これからの予定を聞いて俄然やる気になった。
「早く騎獣屋へ向かおう!」
笑みを浮かべた儂を見て苦笑する師匠を急かし、騎獣屋でスレイプニルを調達する。
引き渡されたスレイプニルが、儂の顔を見るなり手綱を口に咥え嫌々と首を振った。
うん? 王都まで乗った騎獣と同じ個体なのか?
「どうしたのだ店主。スレイプニルが嫌がっているように見えるが……」
普段は人の言う事を聞くよう調教されている魔物が後退りを始めるので、師匠が不思議そうに言うと、
「おかしいですね……。この子は人を乗せるのが好きなのに……」
騎獣屋の店主が困ったように逃げ出そうとするスレイプニルを引き留めながら、代替え案を口にする。
「少し値が張りますが、竜馬なら1頭お貸しできます」
「竜馬か……仕方ない。代わりに連れて来てくれ」
店主がスレイプニルを厩舎へ入れ、真っ黒な竜馬を出してきた。
良い毛並みをした堂々とした体躯に見惚れる。
馬系魔物では最速を誇ると聞くが、どれくらい速く駆けるのか楽しみだわ。
そんな竜馬が儂たちの前に来るとピキーンと固まり、徐に前足を地面に突き頭を下げ、まるで恭順を示す仕草をした。
これには全員が驚き、一瞬声も出なかった。
「あの……どなたかテイム魔法をお持ちですか?」
魔物の行動に思い当たった店主が口を開き尋ねてきたが、儂らに該当する魔法を持つ者はいない。
テイム魔法を持つ鍛冶師などおらんじゃろうし、バールは火属性の種族だと言っていたから火魔法に長けている。
何かひとつの魔法に秀でている者は、他の魔法と相性が悪い。
「いや、テイム魔法は持ってない」
師匠の言葉に便乗し、儂とバールも頷いた。
「初対面の方に、騎獣がこのような行動をするのは初めて見ました。珍しい事もあるものですね」
スレイプニルのように、逃げ出さないなら大丈夫だろう。
そのまま微動だにしない竜馬を金貨1枚で借り、3人が背に跨ると竜馬はゆっくり起き上がり進み始めた。
体長8mもある竜馬に3人だけで乗るとは、なんとも贅沢じゃな。
身長の関係で一番前を陣取った儂は気分良く、よろしく頼むと首筋を撫でた。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!