お茶を飲んでいたお姉ちゃんが、はっとして現在の姿を確認していない事に漸く気付いたらしい。
普通は真っ先に確認するものだと思うんだけどなぁ~。
よっぽどお腹が空いていたのかしら?
寝室にある姿見でリーシャの容姿や状態を確認し、がっかりしている事が伝わり少し悲しくなってしまった。
私だって後妻が家に入り込む前までは、公爵令嬢らしく綺麗な服を着て健康的だったんだよ。
お姉ちゃんは、48歳時の身長と同じだから服は着れるけどブラジャーは全滅だと嘆く。
12歳だから、まだ成長途中だよ!
胸だってきっと大きくなるもん!
それからシャワーを浴びるために全裸になった体を見て、継母とお父様に大激怒していた。
私のために怒っている事を知り、泣きたくなる程嬉しかった。
もうあの屋敷には、私の味方がメイドのナターシャだけだったから……。
そのナターシャも、継母から監視されていたから私に対する虐待を止める事は出来なかった。
私の体には至る所に後妻から棒で叩かれた痣が残っている。
服で隠れない顔や手足には絶対しなかった。
碌な食事が取れない所為で、あばらが浮いた痩せぎすの体。
栄養不足から髪は艶を失いパサパサの状態だった。
何より体を洗わせてもらえなかったため、かなり不衛生な状態だ。
お父様に代わり継母が屋敷の采配をし出すと、私を育ててくれた乳母(メイド長)が宝石を盗んだ事にされ首になった。
両親の愛情を受けられない私の父親代わりだったお爺ちゃん執事も、継母の体を触ったと言って首にされた。
他にも私に親切なメイドが何人か、働きが悪いと言い辞めさせられてしまったのだ。
継母の言葉を鵜呑みにするお父様を見て、もうこの人には何も期待しないでおこうと思った。
状況把握も出来ない坊ちゃん貴族が当主で、このハンフリー領は大丈夫かなと心配になっただけだ。
夢の中で何度も入りたいと思っていたお風呂にシャワー!
お姉ちゃんは、汚れ切った私の体を何度も洗っていたよ。
その度にボロボロと垢が沢山出る事が恥ずかしい。
味覚も匂いも触感も感じ取る事が出来ないので、お風呂の気持ち良さや品質の高いシャンプーやリンスにボディーソープの香りは分からず仕舞いだ。
生まれ変わったら、沢山お風呂に入ろう!
お姉ちゃんは毎日日替わりで入浴剤を変えていたから、これも楽しみな事のひとつだ。
リーシャの屋敷には、日本製と比べるまでも無く品質の悪い石鹸しかなかった。
入浴という行為はせず、メイドが石鹸で髪を洗って体をお湯で絞った手拭いで拭くのが基本。
洗った髪はドライヤーで乾かすのではなく、丁寧に手拭いで水分をふき取るだけだ。
タオルも無かったなぁ~。
見るからに、ふわふわな生地で出来ている布地を試してみたくて仕方ない。
お姉ちゃんの目を通して見ている状態の今は、夢で見るよりあらゆる事を身近に感じるられるのでお預けをされている気分だよ。
翌日――。
お姉ちゃんが起きて真っ先にした事は、姿見で自分を確認する事だった。
うん、ごめんなさい。夢じゃなくて……。
それからまた納屋にホームで移転し戻ってきた。
納屋内の寒さに閉口したのか、洋服の下に厚手の下着を2枚重ね着している。
いいなぁ~。
私は、布団に包まっても寒くて震えながら過ごしていたんだよね。
上着ぐらい寄越せっていうのよ!
昨日の封筒をアイテムBOXから取り出し、お姉ちゃんは自分の能力について確認し出した。
それは大事な事です。
召喚の能力を使って是非とも両親を呼んでほしい!
現在はオプションで1人呼べる状態になっているから、最短で考えるとLv10になれば2人呼べる事になる。
どうかお姉ちゃん、最初の召喚は両親にして下さい。
どれだけ願っても私の声は届かないと知っているけれど、そう思わずにはいられなかった……。
その後、不自然に綺麗になっている髪を地面の土で汚して人が来るのを待ち続ける。
幸いそれ程待つ事もなく、継母付きのメイドが現れた。
このメイドは乳母だったメイド長の代わりに、継母が実家から呼び寄せた人だ。
20歳くらいで、かなり底意地が悪い。
今日も固いパン2つを地面に投げ捨てて去っていった。
お姉ちゃんが挨拶やお父様の帰還を尋ねても睨みつけるだけで無視だ。
相手が公爵令嬢と言う事をまるで気にした素振りも見せない。
継母から手酷い暴力を受けた私が、密告するなんて考えもしないんだろう。
継母の権力を使って、やりたい放題だった。
お姉ちゃんは、メイドに向かって怒鳴りそうになるのを必死に耐えていた。
12歳のリーシャの体では勝ち目が無いし、普段と違う態度を見せて不審に思われる事を避けたのかな?
1日に与えられた食事はパン6個。
水も野菜も肉も無い、炭水化物だけの栄養が全くない物だった。
これが公爵令嬢の食事内容かと思うと笑えてくる。
お姉ちゃんはアイテムBOXにパンを収納して、普通にお弁当とお茶を飲んで食事をしていた。
ホームの能力とアイテムBOXが非常に役に立っている。
納屋内に監禁されても、食事の心配をしなくて済むのは良かった。
私が日本から召喚してしまった所為で、固いパン2つを食べさせる訳にはいかない。
温かいお弁当とお茶を平然と食べている姿を見ると、とても安心出来た。
お姉ちゃんは理不尽な事をされて黙っているような性格をしていないから、きっとこれから継母は追い詰められる事になるだろう。
毎日棒で叩かれた12歳の私は、恐怖から継母に太刀打ち出来なかった。
納屋に監禁は継母の分かり易い虐待だ。
こういう目に遭いたくなければ、大人しくしているようにと無言の圧力がかかる。
私は納屋に監禁されるのが大嫌いだった。
夜になると真っ暗で何も見えなくなるし、時々パンを持ってくるメイドに理由も無く打たれたりするから。
待ってなさいよ!
私のお姉ちゃんが、絶対に倍返しするんだから!
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