「なんだか2人が揃っていると親子みたいに見えるわね」
母は私と女性化した樹おじさんを交互に見て感想を言うと、ある部分が気になったのか手を伸ばし触りだす。
「あの、ちょっと……」
「あら、本物だわ」
今は女同士に見えるから問題ない行為だろうけど、親友の旦那さんの胸を揉むのはどうなのか……。
「妻にも散々触られたので、どうかそれ以上は止めてくれると助かります」
未だに胸をふにふにと揉んでいる母へ、恥ずかしそうにおじさんが懇願していた。
「でも父さんって確か、きょに……もご」
そんな2人を見た旭が何かを言おうとした所、口を塞がれている。
「お前は余計な事を言わなくていいから!」
あぁヒルダさんと間違えられる時、大抵胸の大きさを比べられていたわよね。
女性化した樹おじさんの胸は、私より少し小さくCカップぐらいだろうか?
瞳の色より、まず胸で判断する所は男性ならではかしら……。
兄は樹おじさんの姿に驚いた表情を浮かべて、何やら考え込んでいる様子。
それからおじさんと父をちらりと見た後、
「まさかな……」
呟いたきり黙り込んでしまった。
樹おじさんに花嫁の代役が可能なら、衣装を合わせる必要がある。
「おじさん。これからブライダルショップに行って、衣装合わせをしましょう」
「あぁ……また、花嫁衣裳を着るのか……」
げんなりした口調で漏らした言葉に、引っ掛かりを覚えた。
また? おじさんは、以前に花嫁衣裳を着た経験があるの?
可愛らしい顔をしているから、女装させられた事がありそうだけど……。
時間もないため、嫌がる素振りを見せるおじさんと強制的に店の前へ移転する。
数ある衣装の中から3着選んで渡すと、私と同じような動き易いシンプルな物に決めたようだ。
特に拘りもなかったようで、30分くらいで衣装決めは終わってしまう。
あっ!
50日間も女性の姿のままなら下着が必要よね。
ノーブラにブリーフという訳にもいかないだろう。
奥さんの下着を穿くのも嫌がりそうだし。
時間が余ったので女性下着の店へ連れて行き、上下お揃いの物を買う事にした。
店内に入ると少し照れていたけど、店員さんがいないから気にしなくても大丈夫ですよ?
シンプルな物を選ぶかと思ったら、とてもゴージャスなレースが付いているブラに目が釘付けだ。
まぁ、この辺は好みが出るよね~。
立場は逆だろうけど……。
結局、かなり真剣に選んだ高級下着を購入し満足そうに笑っていた。
女装趣味でもあるのかしら?
いや、今は完全に女性だから問題はないのか……。
花嫁衣裳と女性下着を購入し実家に戻り、兄達を連れ異世界へ。
奏屋で果物を卸した後、茜と雫ちゃんのお母さんを連れ薬師ギルドに向かった。
夫が女性になったからか雫ちゃんのお母さんは、がっかりした表情をしている。
道中もずっと溜息を吐いていた。
お預けとなった50日は長いですよね~。
薬師ギルドに入り、いつもの応接室で兄達がポーションへヒールと浄化を掛けているのを眺めていると、ゼリアさんが入ってきた。
初対面の茜が立ち上がり一礼した後、自己紹介を始める。
「茜と申します。姉達が、いつもお世話になっております」
「ギルドマスターのゼリアだよ。態々来てもらって悪いね。サラちゃんの妹さんを、この目で確かめたかったんじゃが……。かなり鍛えておられるようだわ。それに……、あぁ近くにいなさったか」
そう言って少し懐かしそうに妹を見遣る。
ええっと、会った事はないですよね?
「その姿は予想外だったがの、まぁ相手に合わせているのだろうて……。アカネ殿、サラちゃんを守ってあげなされ。アシュカナ帝国の王は簡単に諦めまい」
「はい、肝に銘じます」
どこか不思議な遣り取りをした2人は、互いの紹介が終わり席に着いた。
ゼリアさんがテーブルの上からポーション瓶を回収したら、薬草を出していく。
今日も、3つのマジックバッグが一杯になった。
それぞれ代金を受け取り、薬師ギルドを出る。
「姉さん。ゼリアさんは人間なのか?」
そう言えば、種族を伝えていなかったわね。
「薬師ギルドマスターは、白狼族という獣人だそうよ。リースナーの冒険者ギルドマスターが弟さんなの」
「獣人か……。あの人は、かなり強いな。久し振りに血が騒いだよ」
武闘派の茜はそう言いながら不敵に笑っていた。
しかしLv200の妹が強いというのなら、ゼリアさんはガーグ老と匹敵するほど強いのかしら?
少し呆けているけど、体の方はまだ現役らしい。
今日も雫ちゃんのお母さんに対し、恭しい態度で接していたからなぁ。
薬師ギルドを出ると、上空から白梟が飛んできた。
今は父が一緒にいないので、私へ会いに来たんだろう。
タマが左肩へ止まりホーホーと鳴き、しきりに足を動かしていた。
気付いた兄が、タマの足に括り付けられている丸筒を発見する。
何かの伝言を伝えに来てくれたようだ。
兄が丸筒から小さな羊皮紙を取り出し、内容を確認していた。
「沙良。ガーグ老が女性化した樹おじさんを、出来るだけ早く連れて来てほしいそうだぞ」
私の代役が務まるか心配なんだろう。
見たらびっくりするかもね~。
「分かった。じゃあ、これから呼びに行こうか」
タマへ直ぐ会いに行くと言えば、従魔と念話が通じるガーグ老へは伝わるだろう。
異世界の家からホームへ戻り、実家にいた樹おじさんへガーグ老が会いたがっていると伝え、一緒に行くと言う父も連れガーグ老の工房へ移動する。
工房の門を開けると、全員が初めて見る正装した姿で整列し待っていた。
あれ?
王宮で話した宮廷魔術師の女性達の姿も見える。
ガーグ老へ会いに行くと言っていたけど……。
馬車ではなく馬に騎乗してきたのかな?
そんな事をぼんやり思っていると、その場にいた全員がザっと音を立て片膝を突き首を垂れた。
まだ何も言ってないから、ヒルダさんにそっくりな樹おじさんを姫様と勘違いしているようね。
「あの……樹ですけど、立ち上がって下さい!」
騎士の礼をされたおじさんが、慌てて人違いされているのを訂正した。
言葉を聞いた全員が一斉に顔を上げる。
皆の目には涙が浮かんでいた。
その中の1人、宮廷魔術師のリーダーだった女性が、ゆっくり立ち上がり樹おじさんへ近付いていく。
「姫様……。お会いしとう御座いました」
大粒の涙を零しながら万感の想いが込められた言葉に、おじさんは目を彷徨わせ空を仰ぐ。
「にょ……、女人殿。俺は今、樹だと伝えましたが……」
何故、また女人呼び?
「ええ、そうでしょうとも。失礼致しました。ガーグ老が私へ内緒にしていたのです。遅くなってしまい申し訳ありません。それと傍にいる御方は……?」
ここで父が一歩前に出て挨拶をする。
「初めまして、沙良の父親の響です」
「あぁ、そういう事でしたか……。無事に見付けられたのですね」
女性と会話している間も、全員が微動だにせず礼を取ったままでいた。
足が痛くなりそうだと思った私はガーグ老の下へ行き、その手を取って立ち上がらせる。
すると漸く全員が礼を解き、直立不動の姿勢になった。
おや? ガーグ老の両頬が赤く腫れているような?
よく見ると、手形がはっきり残っている。
事情は分からないけど、女性の伝言した内容から察するに手形を付けたのは彼女だろう。
かなり痛そうな痕を、ポーションで治療するのも許してもらえないみたいだった。
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