昼食後。
地下15階の安全地帯に戻り、午後から兄も一緒に摩天楼のダンジョンへ向かう。
「沙良、摩天楼のダンジョンへは初めていくから地図を見せてくれ」
兄に言われ、カマラさんから貰った地図を渡す。
あぁヤバい!
何も考えず、いつものように一度で移転する所だった……。
Lv50の恩恵で、マッピングの移動距離が飛躍的に延びたから地図を見る必要がなくなったんだよね。
「迷宮都市からは少し距離があるな。馬車で1ヶ月か……。奏伯父さんに、摩天楼の都市へ案内をお願いしよう。沙良に移転する方向を教えてくれますか?」
兄が地図を渡すと、それを見た奏伯父さんが一瞬で真剣な表情に変わる。
道案内は、そこまで正確じゃなくても大丈夫ですよ?
「……この詳細な地図は、どこで手に入れたんだ?」
「お世話になっている商業ギルドの方から貰った物です」
「何で商業ギルドが……。この地図は軍事機密に相当する。日本では普通かも知れないが、この世界で地図はかなり重要な物になるんだ。沙良ちゃん、地図はパーティー以外へ絶対見せないように」
「……分かりました」
そう言えば、父へ最初に地図を見せた時も同じ反応をした。
異世界の景色を見て、直ぐに文明レベルに気付いたのかな?
貴族である奏伯父さんが懸念するのは分かるけど、父は何故かしら?
本当に日本での仕事は銀行マンだったの?
以前にも感じた疑問が頭をよぎる。
何だか怪しい!
奏伯父さんに地図は不要だと返され、私はアイテムBOXへ収納した。
その後、指示された方角へ移動距離に注意しながら移転を繰り返す。
お互い場所を知っているから10分程で到着。
「お兄ちゃん。どの階層から攻略するの?」
「今日は1階から20階まで移動しよう」
「了解!」
私達は入場料を払わず、ダンジョンの1階へ移動し従魔に騎乗したまま階段へと駆け抜ける。
道中に出現した魔物は、時短のためアイテムBOXに生きたまま収納。
兄も早く30階の攻略をしたいのか何も言わなかった。
3時間後、10階の安全地帯にテントを設置し迷宮都市の地下15階へ戻る。
旭が兄から摩天楼のダンジョンの話を聞いていた。
一緒に攻略出来ず、寂しいのかな?
ホームで休憩してから、再び摩天楼のダンジョン10階へ。
20階の安全地帯へ到着すると、ポチが飛んできて父の右肩へ止まった。
「ガーグ老の従魔が、どうして摩天楼のダンジョンにいるんだ?」
兄の尤もな疑問に何と答えてよいか分からず、驚いた表情をみせる。
「ポチどうしたの!? お父さんに会いに、こんな場所まできたのかな?」
賢いポチは私の言葉を聞き「ホー、ホー」と鳴いた後、首を上下に振った。
「お兄ちゃん。ポチはお父さんに会いたかったみたい」
「迷宮都市から、かなり距離があるぞ? どうやって父さんの場所を把握してるんだ?」
「え~っと、ガーグ老から聞いた話では個人の魔力を感知しているらしいよ?」
「従魔の生態が謎過ぎる……。主人の傍にいなくていいのか?」
「迷宮都市にいるガーグ老とは、念話で会話が出来ると思うから大丈夫じゃない?」
私の答えに首を捻りつつ、兄は問題ないと判断したようだ。
初日から心臓に悪い。
今日はこれ以上、階層を上がらず迷宮都市へ戻った。
兄にバレないよう気を使って攻略するのは、非常に疲れる。
この先、大丈夫だろうか?
21階からは雪が降る階層になっている。
兄のシルバーウルフのマントは父に貸してしまった。
旭の分は奏伯父さんへ渡したから、マントが足りない!
「奏伯父さん。21階は、どんな階層なの?」
知っているけど、ここは知らない振りをして尋ねる。
「森のダンジョンから、雪が降る階層に変わる」
「雪が降ってるんだ。じゃあ寒いから、暖かいマントが必要だね!」
「あぁ、そうだな……。魔術書を取りにいった時、冒険者時代に使用していたマントを持ってきたんだ」
「私達はシルバーウルフのマントを着ればいいかな? 伯父さんは、何の魔物のマントなの?」
「雪ウサギの毛皮だ。真っ白で綺麗だぞ」
そう言いながら、マジックバッグから取り出し広げてみせる。
旭の物では小さかったのだろう。
伯父さんが準備してくれて良かった。
「わぁ~、素敵だね! 私も欲しいなぁ」
アイテムBOXに大量の雪ウサギが収納されているけどね。
結局、セイさんへ購入した店を聞くのを忘れ注文していなかった。
急な出立となったから、宝箱の中身もアイテムBOXにある。
摩天楼のダンジョンを攻略出来ないB級冒険者では、換金出来ないだろう。
「雪ウサギは30階にいるから、狩るといい。マントにしてくれる店を教えてやろう」
「本当? ありがとう伯父さん」
私に話を合わせてくれ助かった。
「21階には雪が降るのか……。旭の分を着るから、父さんに俺のマントを渡せばいいな」
兄がそう言った事で、マントの件は解決。
そろそろ夕食の準備を始めよう。
今日のメニューは、『チーズオムレツ』・焼肉を挟んだ『ナン』・『シチュー』。
ダンクさんとアマンダさんのパーティーは『バーベキュー』をするみたいで、『焼肉のタレ』を追加購入してもらった。
皆で楽しく会話をしながら食事を済ませ、デザートの桃を出す。
料理担当の2人が桃を切る間に、私も自分達の分をカットする。
ダンジョン産の果物を毎日食べられて雫ちゃんは嬉しそうだ。
王都では値段が高く、沢山購入するのは無理だったのかな?
「サラちゃん。新しいお店を出したんだって? もう『ショートブレッド』が人気になってるよ。私はドライフルーツが入った物が気に入ったね」
アマンダさんが、食べた感想を伝えてくれた。
「俺は木の実が入っている方が好きだな。クランの連中が、毎日買いにいくらしい」
地下1階の配送担当の冒険者が、購入しているのか……。
『お菓子の店』は、冒険者向けの単価に設定したので人気があるのは嬉しい。
「ありがとうございます。子供達が頑張っているから、そう言ってもらえると安心します」
「従業員に子供を雇っているのは感心だね。冒険者以外の安全な仕事は少ないから良かったよ」
支援している子供達を、アマンダさんは心配していたのだろう。
隣でダンクさんも頷いていた。
「アリサも父親と住む事になって喜んでいるだろうね」
「はい。護衛に雇ったリュートさんが父親だったなんて驚きました」
アマンダさんには、アリサちゃんの事を話したので父親が見付かったと知っている。
「父親と一緒なら安心だ」
笑顔のアマンダさんを見て、私は少し複雑な心境だ。
リュートさんは、何も言わない心算なのかな……。
そっと奏伯父さんの様子を窺う。
表情に変化はなく、まだ気付いているのか分からなかった。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!