夢には、私の亡くなってしまった妹の香織ちゃんが出てきた。
産まれてくる事が出来なかったので、私は一度も香織ちゃんと会った事がない筈なのに、何故か夢の中であの子は香織ちゃんだと認識していた。
全ての場面を覚えてはいないけれど、彼女の気持ちが流れ込んできたのだ。
痛いよ・もう叩かないで・お腹が空いた・寒いと、まるで誰かに虐待されているかのような感情で溢れている。
最後には、お母さんに会いたいよ! お姉ちゃん助けて! と悲痛な叫び声が何度も続いた。
誰が貴方をそんなに酷い目に遭わせているの!?
待ってて、今直ぐにお姉ちゃんが助けに行くから頑張るんだよと夢の中の私は必死に声を掛ける。
妹の声は段々小さくなっていき、最後には聞こえなくなってしまった。
香織ちゃん、もしかして貴方はこの世界に転生しているの?
だとしたら一体どこに?
起きてから胸騒ぎが収まらなかった。
私が見たのは、果たして本当に只の夢だったんだろうか……。
寝すぎで少々頭痛がする。
リビングに向かうと、直ぐに兄が席を立って傍にきた。
手の指で私の首筋に触れ体温が下がったか確認している。
「大分熱は下がったみたいだな。食欲はあるか?」
「うん、ちょっと頭が痛いけどお腹空いたし、なべ焼きうどんを作って食べるよ」
「そうか、俺達の分は作らなくてもいい。さっき旭に弁当を買いに行かせたから、もうすぐ戻ってくるだろう」
今日1日。
兄達は何かあってもいいように自室へは帰らず、ずっと私の部屋にいてくれたみたいだ。
「迷惑かけちゃってごめんね。明日には体調も戻ると思う」
「最近休日に忙しくしていたから疲れが出たんだろう。明日も無理しないで休んでおけ」
「分かった。大事を取って休みます」
1人分の鍋焼きうどんを作り食べると、旭が購入してくれた缶詰の桃を開ける。
よく考えたらダンジョン産の桃がアイテムBOXに沢山入っていたけど、旭の気持ちが嬉しかったので缶詰の桃の方を食べておいた。
両親が子供の頃は、病気になった時しか食べさせてもらえなかったらしい桃の缶詰。
世代が同じだから旭の両親も、風邪を引いた時に子供に食べさせてあげていたんだろう。
うちも同じだったからよく分かる。
黄桃ではない、日本産の白桃は少し値段が高いのだ。
今の子供達は、病気になると何を食べさせてもらえるのかな?
ちょっとしたご馳走を、今の親もあげるんだろうか……。
シャワーを浴びてベッドに横になる。
今日は寝てばかりだったので、まだ眠くはならない。
熱も大分下がった事だし、暇なので『肉うどん店』の母親達のチョッキを編む事にしよう。
5人分あるから、時間がある今なら丁度良い。
翌日もダンジョン攻略を中止して、家で一日中のんびりとチョッキを編んだ。
これで子供達の冬支度と一緒に渡せる!
間に合って良かった~。
兄達は食事の支度はしなくてもいいと言って、外食に出掛けたみたいだ。
私はアイテムBOX内にある、お弁当を適当に食べる事にする。
ホーム内の補償で自室だけはアイテムが追加登録補充可能とあったので、去年現在登録されている物を全て×365にしておいて正解だった。
料理する時間がない時や、体調が悪い時にいつでもお弁当が食べられるので大変便利だ。
あとどれくらい追加出来るのか分からないので、なるべく高額商品を追加しようと思っている。
多分、この自室分に入るだけのアイテムが追加出来るんじゃないかと踏んでるんだけど……。
単純に数だったらどうしよう?
キリのいい数字で100個とか……。
どうせなら太っ腹に10,000個くらいが良いです。
『手紙の人』、お願いしますね!
木曜日。
すっかり体調も元通りになったので、今週は2日間だけになってしまったけどダンジョン攻略に行く。
地下14階の安全地帯に旭と到着すると、アマンダさんとダンクさんのパーティーが心配し直ぐにきてくれた。
「サラちゃん、もう大丈夫なのかい?」
「はい、ご心配をおかけしました。皆さんは変わりありませんか?」
「ああ、私達は問題ないよ。お兄ちゃん達がいない分、安全に狩りをしたからね」
うん?
いつもは治療してもらえる事を考えて、少し危険な攻略をしてるのかな?
それはどうなんだろう……。
「サラちゃん、元気になって良かったな! シルバーとフォレストに会えなくて寂しかったぞ」
それは私に会えなくても良かったって事ですかね?
女心が分かっていないダンクさんの、リリーさんはどこに惹かれたのやら……。
「あぁ、そういえばサラちゃん達がダンジョン攻略を中止した日、6人組の男性冒険者がキングビーに全員刺されていたっけねぇ。迷宮都市では見掛けない連中だったけど、地下14階には治療出来る治癒術師がいないから刺された場所は治らないだろう。それにしても6人全員が刺されるなんて、リーダーは何を考えてるんだか。ありゃ相当無茶な攻略をしたんだね。クインビーの蜜袋狙いだったのかも知れないけどさ、そんな事で冒険者が出来なくなるのは馬鹿らしいよ」
「完全に自業自得だろ。誰に聞いたか知らないが、サラちゃん達のパーティーがいないと知って顔面蒼白になってたからな」
「へえ~、そんな事があったんですか」
2人共、あの冒険者達には同情していないみたいだ。
リーダーとしての責任を怠った方が悪いから当然なんだけど……。
その後、2日間の攻略を無事終えた私達は冒険者ギルドで換金し自宅に戻った。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!