ハルクが許嫁となってから、更に100年が過ぎた。
ティーナは300歳、私は200歳になる。
私の姿は、ちっとも大きくならずティーナに抱っこされてしまう程小さなまま。
ハルクは気にしている事を知ってか、大きくなれと言わなくなった。
それはそれで少し寂しくもあるんだけど……。
魔力量だけは、規格外に増えていっているらしい。
傍にいるのが、ティーナやセキちゃんやセイちゃんだから自分の魔力量が多いとは感じなかった。
ルードお兄ちゃんは、精霊の森にくる度に何故か魔力量が増えていくと言って不思議そうにしていたけどね。
それは多分、ティーナが無意識に魔力を与えてしまった結果だと思う。
巫女姫と言われる所以は、ひとつにこの能力の所為だろう。
通常、持って生まれた魔力量の限界は個体によって差がある。
勿論Lvが上がれば増えるようになっているけど、それでも限度があるのだ。
けれど巫女姫は、どんな種族にもその魔力を与える事が出来る稀有な存在。
与えられた魔力は、そのまま本人の魔力となり魔力量が増える事になる。
それを知っているのは、ごく一部の限られた種族の王や族長達だけだった。
恩恵を受ける事が出来れば魔力量が増す事になるので、巫女姫は大切にされる。
世界樹の精霊王が精霊の森で育てたのは、存在を隠しておきたいからだと思う。
この森には、精霊王が許可した相手しか入る事は出来ないからね。
ティーナとセキちゃんセイちゃんの3人で、風魔法の練習をしている所に精霊王から連絡が入った。
話があるから、全員一緒に森の中央へきてほしいらしい。
精霊王からの伝言を伝えた妖精が、羽を動かしひらりと舞う。
森の至る所にいるこの小さな妖精達は、とてもお喋り好きだ。
見た目が可愛いので騙されそうになるけれど、実はとても好戦的で賢い種族なので侮らない方がいい。
もし捕まえようとすれば、それ相応の報復が待っている。
結構、危険な種族なのよね。
世界樹の木がある森の中央に辿り着くと、既に精霊王がいた。
実はね……と話された内容に、私は驚いてしまう。
なんとティーナは、他の世界で転生しないといけないらしい。
その護衛役は既に候補が出揃っていて、後は私達だけなんだとか……。
数に制限があるから、全員は無理だと言われてショックを受ける。
お母さんと離れるなんて考えた事もなかった。
いつかはハルクと番になり、この森を出る事になるとは思っていたけど……。
それは、まだ先の話でこんなに急に別れる事は想定外だ。
私は悲しくなり涙を零す。
だって、護衛役なら小さな私は選ばれない。
きっと、一緒に転生するのはセキちゃんとセイちゃんだ。
私が泣いている姿を見たセキちゃんは、セイちゃんに「ちい姫とリルを頼んだぞ!」と言い譲ってくれた。
私はセキちゃんに本当にいいのか確認してみたけど、「お前はまだティーナと一緒にいた方が良い」と優しい言葉を掛けてくれる。
うん私、絶対にセキちゃんの分までお母さんの事を守ってみせるよ!
1ヶ月後、獅子王の下に転生組が勢揃いした。
そこに、ハルクとルードお兄ちゃんの姿を見付けて嬉しくなる。
大好きな2人も一緒なら心強い。
それがまさかあんな事になるなんて……。
沙良ちゃんに言われて、ガーグ老が製作した天蓋付きのベッドに横たわり天井を見上げた瞬間、記憶が戻った。
そして今、目の前には世界樹の精霊王の姿がある。
旭 尚人としての記憶も、リルとしての記憶もあって私は混乱していた。
うわっ、何これ!
かなりおかしい事になってるんですけど!?
フェンリルの雌だった私が、人間の男に転生してお母さんに恋してるよ!
いやいや、それより重要な事が……。
私、男として経験済みだった!
許嫁のハルクがいるのに、どうしたらいいの?
200年も待ってくれたのに、私は人間に転生して28年で童貞捨てちゃいましたよ……。
あぁぁ~!
ハルクは一体誰に転生しているんだろう?
知られると非常に不味い気がする。
そして護衛役として転生したのに、ボディーガード役を茜ちゃんに取られてるし。
もう、私の転生の記憶は消してしまいたい。
ルードお兄ちゃんには、転生先で面倒を見てもらってばっかりだ。
賢也だったルードお兄ちゃんは、精霊王に噛み付いている。
確かに記憶を消される事や性別が変わるなんて聞いてなかったよ。
私も精霊王に文句を言ってやろう。
これ、他にも性別が変わって転生した護衛役がいるんじゃないかしら?
やっと記憶が戻ったというのに、再び封印されてしまうらしい。
もう止めて~。
自分が雌なんだか雄なんだか分からなくなっちゃうよ!
そして、目が覚めると沙良ちゃんが俺達の事を心配そうに見ていた。
なんだか、夢見が最悪だった気がする。
天蓋付きベッドに描かれた男性を見ると、どうしても腹が立って仕方ない。
見た事ないくらい綺麗な容姿をした人だけど、男性には興味がないし何故か嫌いだと感じる。
夕食は機嫌が悪かった俺のためか、沙良ちゃんがハートマーク付きのオムライスを作ってくれた。
食べている間に、すっかり機嫌が直ってしまう。
帰り際、沙良ちゃんから明日俺達にサプライズがあると言われた。
何だろう?
凄く楽しみだ!
その夜、いつものように賢也のベッドに潜り込んでおやすみの言葉をかける。
「お兄ちゃん、おやすみ~」
うんんっ?
今、何って言った?
「誰がお兄ちゃんだ! お前は俺と同い年だろうが、寝る前にボケた事を言ってるんじゃない」
「あははっ、だよね。賢也の方が年上っぽいから、何か自然に口から出ちゃった」
「ほら、いいから早く寝ろよ」
そう言われて寝心地のいい場所を探す。
不思議と体が、どんどん賢也の体に近付いていく。
丁度良いと思った場所に頭を凭れさせ、俺は直ぐに安心して眠ってしまった。
寝る直前、賢也に背中をぽんぽんと叩かれていたような……?
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