【アリサ】
兄達と一緒にモグラの討伐をしていると、見知らぬ5人の大人が近付いてきた。
冒険者崩れといった見た目の男性達だ。
まだ路上生活をしながら教会の炊き出しに並んでいた時、よく見掛けた大人達に似ている。
最年長である長男が警戒したのが分かり、私達も身を硬くした。
あっという間に取り囲まれ、私達は捕まってしまう。
迷宮都市で孤児の私達を攫おうとする人間はいない。
クランクラッシャーの渾名を持つサラお姉ちゃんや、冒険者達が支援していると知っているからだけど……。
どうやら、この大人達は他領の人間らしい。
私達は慌てず騒がず、犯人の要求通り馬車に乗りこんだ。
町の子供達なら泣き喚く場面でも、修羅場を潜り抜けてきた私達は大人しくするのが肝心だと理解している。
下手に抵抗すれば、痛い思いをすると分かっているからだ。
犯人達は私達をどこかへ連れ去る気なのか、馬車を一昼夜走らせた。
子供の私達がいる馬車に見張りはいなかった。
全員が眠ってしまわないよう、兄が交代で眠るよう指示を出す。
これは、路上生活をしていた時の鉄則だ。
160程いた孤児たちは、ある程度のグループに分かれ集団生活をしていた。
寝ている間に物が盗まれる事がないよう、交代で眠るのは当然だろう。
半日以上走り続けた馬車が、目的地に着いたのか止まった。
迷宮都市から、かなり離れた場所へ連れてこられ不安になる。
犯人達に馬車から降りろと言われ、出た先は森の中?
目の前には小屋が見える。
その小屋へ入ると、一番体格の良い大人が私達に質問してきた。
「お前達の親の名前を教えろ。それと全員、同じ服装をしているのは何故だ?」
私達が孤児だと知らず、攫ったのかな?
耳当てとスヌードとポンチョを着ている私達が、孤児に見えなかったんだろう。
親のいない私達に名前を聞かれても、答えようがない。
黙ったままでいると、いきなり長男が殴られた。
「痛い思いをしたくなければ、早く答えるんだ」
気の短い犯人は、口を割らせるために暴力を振るうと脅してきた。
それでも私達は話さない。
順番に殴られたけど、私は絶対何も言わないと決めていた。
特に、私達の命の恩人であるサラお姉ちゃんの名前を出す訳にはいかない。
子供達全員が食べられるようにと自費で教会の炊き出しを行い、路上生活をしていた私達へ、家と家族に親代わりの保護者を与えてくれた奇跡のような人。
お金がなく冒険者になれなかった私達は、今では10歳になると全員が冒険者登録出来る。
E級になれば、保護者の冒険者達が武器や防具を購入してくれ討伐依頼も受けられるのだ。
今着ている防寒具や服も寒くないようにと、サラお姉ちゃんからプレゼントされた物。
本当はもう炊き出しの必要がないのに、毎週日曜日には必ず用意をしてくれる。
それに【約束事】を守りながら生活している私達へ、ご褒美を沢山くれる優しい人。
珍しい食べ物や果物、物語や音楽を聞かせてくれ、新しい遊びも教えてくれた。
絶対に、サラお姉ちゃんの事は話さない!
私達が何も言わないでいると、焦れた犯人が斧を持ち出してきた。
「おい! このまま黙っているようなら、こいつの手を切り落とすぞ!」
そう言って、私の右手を掴む。
最年少である私を傷つけ、兄達の口を割らせようとしたらしい。
私はもう覚悟を決めているから意志を貫くだけだ。
兄達へ分かるよう、ゆっくりと首を横に振ってみせる。
「ちっ、不気味な子供だな。一言も話しやがらねぇ」
そう言って、犯人が斧を振りかざす。
直後右手へ走った激痛に、声を出すまいと必死に歯を食いしばり耐えた。
経験した事のない痛みで気が遠くなる。
泣くもんか!
死んでも、犯人達の思い通りにはさせない!
「次はお前だ!」
私の隣にいた姉の手を掴む犯人が斧を振り上げた瞬間、吹き飛ばされた。
「子供達に何をする!」
突然、小屋内に現れた10人のお爺ちゃん達が5人の犯人を次々蹴り倒し、動かなくなった犯人を素早く縄でぐるぐる巻きにしている。
私達は、その様子を呆気に取られ見ていた。
ええっと、……誰?
そうした後で、私達の顔を見るなり犯人の両頬を殴り付けた。
仕返し、してくれたのかな?
「お嬢ちゃん、よく頑張ったの。儂では右手をくっつけられんが、MAXポーションを掛けてやろう」
聞いた事もないポーションを取り出し、右手へ掛けてくれた。
すると傷口が塞がり痛みも消える。
「犯人達と一緒の小屋では落ち着かんだろう」
お爺ちゃん達は私達を抱き上げ小屋から連れ出すと、大きな木の下で待っているよう伝える。
もうすぐ近くまで、私達を探しに誰かがきているそうだ。
「あの、助けてくれてありがとうございます。お爺さん達は誰ですか?」
長男が助けてくれたお礼を言い相手が誰か尋ねると、
「……儂らは木の妖精だ」
と答え姿を消してしまった。
突然現れ姿が消えたお爺ちゃん達に、妖精の存在を知らない私達は驚いた。
「木の妖精さんは、体格の良いお爺ちゃんだったね~」
「アリサ、右手は大丈夫か?」
兄達が右手を切り落とされた私を心配そうに見る。
もう痛みはなくなっているけど、直接見たら悲しむかも知れないと右手を後ろへ回した。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れたから眠るね」
私は、本当に怠くなっていた体を休めるため目を閉じた。
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