「沙良……。正確には、こちらの世界で何日になるのかしら?」
少し動揺した母が尋ねてくる。
「6週間だから42日かな?」
「……生理、きてないわね」
「あっ、もしかして心当たりがあったりする?」
「……あるかしら」
漸く、その可能性に気付いた母が、引っこ抜いていた草を手から取り落とす。
「少し遅れているだけかも知れないけど、念のため検査した方がいいかもね」
まだ衝撃から立ち直っていない母と一緒に実家へ戻り、私は妊娠検査薬を手渡した。
母が調べるのを待っている間、朝食の準備を始める。
多分、食事を作るどころではなくなるだろう。
「今日は家で食べるのか?」
帰らない私に父が不思議そうな顔をする。
「うん、一緒にお祝いしようと思って」
「お祝い? 何の?」
父と話していると、母が妊娠検査薬を持ちダイニングへ現れた。
「あなた……。私、妊娠したみたい」
母の第一声に、父が飲んでいたコーヒーを口から噴き出す。
「妊娠って……もうあがった筈じゃ……?」
私は内心ガッツポーズをし喜びを噛み締めた。
「本当!? わぁ~、おめでとう! きっと妹だよ! お兄ちゃん達を呼んでくるね~」
唖然とする父を置き去り、私は兄と旭を連れにマンションへ移動する。
突然の妊娠に、両親も話し合う必要があるだろう。
産まないという選択はしないと思うけど……。
既に起きていた2人へ、今日は朝食を実家で食べると言い少し時間を置き再び移動。
そこには恥ずかしそうな母をしっかりと抱き締め、嬉しそうな表情をした父の姿があった。
良かった……。
香織ちゃんの妊娠を、戸惑いながらも両親は喜んでいるようだ。
78歳の2人に、また子育てするのは大変だろう。
でも大人になった私や兄もサヨさんもいるから、心配しなくても大丈夫だよ!
旭は朝からラブラブの両親を見て目を瞬かせている。
兄は、いつもの事なのでスルーだ。
アイテムBOXから作り置きの料理を何品か取り出し、みそ汁を作ったら皆で朝食を食べる。
食後、父から母の妊娠を告げられた兄は一瞬私に視線を合わせ、「おめでとう」と母へお祝いの言葉を掛けた。
少し遅れて旭も、「おめでとうございます」と祝福してくれる。
「沙良。病院をホームに設定しないとな。ちゃんとした設備がある所で産んだ方がいい」
「うん。土曜日、一緒に行こう」
「母さん。妹は、俺が取り上げるから心配はいらない」
「2人とも、まだ妹か弟になるか分からないわよ。それに出産の立ち合いは尚人君へ、お願いしたいわ」
苦笑した母からそう言われ、兄はショックを受けたようだ。
いや、身内に出産シーンを見られるのは嫌だろう。
出来れば私も遠慮したい……。
「任せて下さい! 俺が無事に取り上げますよ!」
お願いされた旭は、やる気満々だ。
これから兄と産科の勉強が待っていると思うけど……。
母へ冒険者活動は休止し、家でのんびりするよう伝える。
妊娠初期は注意が必要だ。
何かあってからでは遅い。
ダンジョン攻略を楽しんでいたのか、少し残念そうだった。
「しっかり稼いできてね」と父の両手を握り締めていたから、毎週増えていく預金を見るのが楽しかったのかも?
雫ちゃんとお母さんにも母が妊娠した報告をし、今週から家で待機すると伝える。
2人からお祝いの言葉を掛けられ、父は照れ臭そうに笑っていた。
ダンジョンへいく前に、冒険者ギルドでタケルの父親宛ての手紙を依頼する。
同じ領内なので手紙は一両日中に届くだろう。
さて今日から5日間またダンジョン攻略。
階段へ一直線に、地下1階から地下11階まで駆け抜ける。
兄&フォレストと別れ、私達は再び地下11階から地下15階まで駆け抜けた。
安全地帯に着いてマジックテントを設置後、休憩したら攻略開始。
アマンダさん・ダンクさんと挨拶を交わしながら、子供達の話を併せ伝えていく。
その際、母が妊娠した報告をすると皆から「おめでとう!」と声を掛けられる。
父はその度「ありがとう」と返し、嬉しそうにしていた。
午前中は、いつもの薬草採取と地下16階の果物採取。
午後からは、セイさんと一緒に摩天楼のダンジョン30階を攻略する。
宝箱の出現まで後11日だ。
セイさんに母の妊娠報告をすると驚きつつも、お祝いしてくれる。
父は実年齢を知られているからか、少し恥ずかしそう。
私は2人をテントから送り出し、テーブルと椅子を設置し魔物を倒していった。
5日後。
冒険者ギルドで換金を済ませ、実家に集まりメンバー全員で母の懐妊祝いをする。
サヨさんも呼び、息子がフィンレイ伯爵だと併せて伝えると二重の喜びに涙を流し喜んでいた。
奏伯父さんには明日、異世界の家へきてもらうよう手紙を出しているから、一緒に会う事にしよう。
サヨさんと沢山の料理を作り、皆で豪華な料理に舌鼓を打つ。
お赤飯、鯛の姿焼き、天麩羅盛り合わせ、金目鯛の煮付け、すき焼き、伊勢海老の味噌汁……。
刺身とお酒は母が食べられないため食卓へ並んでおらず、飲み物は全員お茶にする。
食べきれない量のご馳走を前に、雫ちゃんが大喜びしていた。
雫ちゃんのお母さんは、私も3人目が欲しいわと言っている。
樹おじさんを召喚したら頑張って下さい。
母の従魔であるボブは家で待機中の母の傍に、ずっといたみたいで寂しい思いをせず済みそうだ。
今日はサヨさんが実家へ泊まるそうで、父が遠慮し私の家にくるらしい。
相談したい事があると言っていたけど何だろう?
楽しい食事会を終え皆を送り届けると、父が徐に話を切り出した。
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