デザートのマンゴープリンを食べ終わる頃、沙良ちゃんが話し出す。
「今日、雫ちゃんを狙った犯人達を冒険者ギルドに引き渡してきたよ。その前に、茜が犯人達から話を聞き出した内容を伝えるね」
「あぁ、金曜日に引き渡す予定だったのを忘れていたな。オリビアさんから注意されなかったか?」
そういや、妻のアイテムBOXに俺達を襲ってきた冒険者を入れたままだった。
あっさり事件が解決したから、そんな事があったと俺も忘れていたな。
賢也君は、犯人の引き渡しに時間が掛かったのが気になるのか心配している。
「うん、特に何も言われなかったよ。それで犯人達なんだけど、レバンダリニア皇国の冒険者だった。冒険者カードを剥奪されて、カルドサリ王国に来たみたい。この国は冒険者ギルドが甘いという噂が流れているんだって。迷宮都市で雫ちゃんを狙ったのは、情報屋からどこかの国の王が冒険者の少女と引き換えに大金をくれると聞いたかららしい」
「何だ、その胡散臭い噂は……。こりゃアシュカナ帝国が一枚噛んでそうな話だな。ダンジョンに呪具を設置するだけじゃなく、犯罪者まで利用しようとしてるのか」
義父が話を聞いて、アシュカナ帝国との関連性を疑う。
俺は、それより冒険者の少女という単語が気になった。
もしかして娘の事じゃないか?
「その少女の名前や特徴は伝わっているのか?」
同じように考えた賢也君の表情が険しいものに変化する。
「名前は知らないみたい。20代で綺麗な容姿というだけで、雫ちゃんを狙ったらしいわ」
「20代……。じゃあ、お前は対象外だな」
娘の正確な情報は伝わっていないのか……。
20代がターゲットなら10代に見える娘の狙われる可能性は低い。
「帝国は必要最小限の動きでカルドサリ王国に罠を仕掛けてるな。絡め手でくるのは嫌な方法だ。労せず戦力を削ぎ落す心算か……」
響は帝国の意図を知り、自国を攻められるには嫌な方法だと言う。
「鬱陶しい国だな。さっさと滅ぼすか……」
俺は、心の声をつい口に出してしまった。
「取り敢えず、私達のパーティーで少女の外見に一致するメンバーは雫ちゃんと茜ね。茜は心配いらないけど、雫ちゃんは今後も狙われる可能性があるから皆で守りましょう。ただダンクさん達を襲った冒険者はまた別みたいで、こちらも注意が必要だと思う」
「12人の冒険者か……。マジックバッグを盗んだのなら、単純に金目当ての犯行かもな。それにしてはリスクに見合わない行動だが、目先の利益に目が眩むような人間の心理は理解出来ん。なんにせよ、他領の冒険者が増えているのは確かだろう。俺達も出来るだけ単独行動は控えよう」
賢也君が話を纏めると雫が不安そうな表情になる。
自分が狙われるかも知れないと思えば怖いよな。
俺と息子は雫の肩に手を置き、大丈夫だと言い安心させる。
家族を守るのは父親の役目だ。
雫に指一本触れさせるものか!
話が済んだあと沙良ちゃんから子供達へ持たせるお守り用に、魔石へドレインの魔法を付与してほしいと頼まれる。
同時に従魔用のマジックバッグだと言われ、〇ーターラビットと人参の刺繍が入ったポシェットを渡された。
フォレストウサギだから分かり易い刺繍にしたんだろう。
「沙良お姉ちゃん。従魔用のポシェット作ってくれたんだ。お父さんのLvが45になったから、沢山入るね。この刺繍も可愛い~。ありがとう!」
それを見た雫が感激し喜んでいる。
まぁ、容量は45㎥じゃなく70㎥だけどな。
月曜日。
ダンジョン攻略の前に、ドレイン魔法の付与魔石を沙良ちゃんが子供達へ渡しに行く。
「悪い人がいたら、このお守りを持って眠るようにお願いするといいよ。1人ずつ用意したから、兄妹に渡してあげて」
「お守り? よく分からないけど、魔石を握ってお願いすればいいの?」
「ええ、きっと守ってくれるわ」
お守りと言っても子供達には理解出来ないと思うが、付与魔石は念じれば発動するから呪文を唱える必要がない。
子供達でも魔法を使用するのは簡単だし、防犯ブザーより確実に役立つだろう。
用事を済ませダンジョン攻略を始める。
娘から渡されたポシェットをマジックバッグにして従魔達の首に掛けたら、マリーが張り切り過ぎ大変だった。
飛び跳ねる魔物は、やはり騎獣に向いてない。
胃がひっくり返りそうになったじゃないか……。
そんな俺を見て、暫く一緒に行動する義父が黄金に乗り笑っていた。
午前中は何事もなく終了し、ホーム内で昼食を食べ午後の攻略へ向かう。
3時間後、安全地帯に戻ると冒険者達がざわついていた。
娘がアマンダ嬢へ何があったか尋ねる。
「12人の冒険者に襲われたパーティーが出たらしいけど、待機していたギルド職員に捕まったようだよ」
「良かったですね。襲われた冒険者に怪我はありませんか?」
「あぁ、『MAXポーション』で治療したから問題ない。だけど、この階層以外でも冒険者達が襲われる事態が起きているそうだ。荷物を運ぶクランメンバーから話を聞いた限りじゃ、地下10階だったようだね」
「怪我人が出たんでしょうか?」
「詳しい事は分からなくて何とも言えない。地下10階の冒険者を襲った犯人は、逃げたそうだよ」
「そうですか……。他領から来た冒険者は質が悪い人が多そうで心配です」
「人が増えると、どうしても問題が多くなる。だからと言って犯罪者を野放しにするわけにはいかないから、今後は領内の衛兵も動き出すだろう」
ふむ。
12人の犯人が捕まったのはいいが、地下10階でも犯罪者が出たのか……。
優しい娘は様子を見に行くかも知れない。
摩天楼のダンジョンには戻らない可能性を考え連絡しておこう。
『ガーグ老。地下10階で冒険者が襲われました。娘が階層を移動するかも知れないので、迷宮都市ダンジョンを担当している『万象』達に伝えて下さい』
『承知した。先回りするよう儂が指示しておこう。御子の守りは万全だから安心してよいぞ』
『あの子は移転で場所を変えるから護衛も大変でしょうが、よろしくお願いしますね』
『姫様と違い、大人しいもんだわ』
『……』
それは、どういう意味だろう?
俺がヒルダ時代、何度も王宮を抜け出した件を言っているのか?
300年も王女の振りをしたんだから、逆に自分を褒めたいくらいだ。
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