【椎名 賢也】
俺は7人家族の長男で現在50歳。
いや、だったと言う方が正確か……。
家族構成は、両親(共に71歳)・長女の沙良(享年48)・次女の茜(46歳)・双子の雅人に遥斗(40歳)の現在は6人家族。
昨年の12月24日、クリスマスイブの日。
妹の沙良が、この世を去った。
あの日、沙良は仕事帰りに自宅付近の道端で倒れ、そのまま息を引き取ったらしい。
見付けた人が救急車を呼んでくれたそうだが、すでに心肺停止の状態で助かる見込みはなかった。
身内の葬儀に出るのは、これで4度目だ。
はっきりと覚えている葬儀は9歳の時。
母が交通事故に遭い、妊娠していた子供を亡くした。
出産予定日を数日後に控えていた、ある夏の日。
家族全員で決めた名前の香織と一度も呼ばれる事なく、妹はこの世を去ったのだ。
当時子供だった俺は目の前で母が車に撥ねられた、あの日を今でも鮮明に覚えている。
その半年程前、亡くなった妹の沙良が大人の女性に誘拐され、車で連れ去られた時より受けた衝撃が強かったからだ。
運転者は心臓発作を起こしそのまま死亡したので、家族は怒りの矛先をどこにも向けられず、ただただ悲しみだけが残った。
その後、病院の医療過誤が発覚。
もしかしたら赤ちゃんは助かったかも知れない……。
俺はその時、将来弁護士になると決めた。
この世に生を受けられず亡くなった妹のために、病院の医療過誤を扱う専任の弁護士を目指そうと思ったのである。
その後、両親は悲しみを乗り越え母は無事に双子の弟を出産。
沙良は妹の茜が突然男の子の恰好をするようになり寂しかったのか、小学生に上がる前まで双子達に女の子の洋服を着せ、とても可愛がっていた。
あれは茜の気持ちもよく分かるだけに俺も止められず、双子達には申し訳ないが目を瞑ってしまったのを今では少し後悔している。
双子達は残念ながら、40歳になった今でも女性にしか見えないのだ。
原因は、沙良が幼少期に女の子の洋服を着せた所為かも知れない。
旭の妹の雫ちゃんは、一緒に育った幼馴染の双子達を女の子だと信じて疑わなかった。
病気がちで友達の少なかった雫ちゃんに、「男の子の友達なんか嫌!」と言われた双子達がショックを受けた事が、その後の成長に大きく影響したのか定かではないが……。
沙良は俺と茜と一緒の時に1度実際に誘拐され、その後2度も誘拐されかけた。
兄の目から見ても当時7歳だった沙良は非常に可愛らしい子供で、父は沙良から「将来はパパのお嫁さんになる!」と言われ、かなりデレデレしていたような記憶がある。
そこは年齢的に、兄じゃないのかとちらっと思ったものだが……。
そんな訳で、妹の沙良は変質者の男性に2度も誘拐されかけ、その場にいた俺が1度目の誘拐後、両親から持たされた防犯ブザーを鳴らし未遂に終わった。
茜は3度も姉の危険に遭遇したため、妹のままじゃ姉を守れないと思ったようだ。
俺のお古を着るようになり、長かった髪を自分で切ってしまう程その覚悟は強かった。
両親は沙良が実際に何度も誘拐されかけたので、茜の覚悟を否定せず受け入れた。
そして双子達を妹のように可愛がる沙良を、まぁ子供の内はいいかと黙認する。
いや、駄目だろう……。
近所の人達は双子達を女の子だと思っていたようだが、それは問題じゃないのか?
小学校のランドセルの色が黒いお陰で、双子達は漸く男の子だと認識されたようなものだ。
最近はランドセルの色も多様化しピンクや青や紫と自由に選べるらしいが、俺達の子供時代は問答無用で男の子は黒、女の子は赤と決まっており良かったと思う。
茜は男の子らしく育ってしまったけれど、双子達は自分が男の子だと自覚しスカートを穿くのを嫌がるようになったから、沙良は寂しそうにしていた。
雫ちゃんは幼馴染の双子達が実は男の子と知った時、かなり長い間口を利かなかったと聞いたが……。
高校3年生になって直ぐ、親友の旭から一緒に外科医を目指してくれと土下座でお願いされた。
俺はもう、その頃には弁護士の勉強を本格的に始めていたので旭の願いを聞き、かなり躊躇した。
なんで、選りに選って医者なんだと……。
雫ちゃんが心臓に重大な欠陥を持っているのは知っていたけれど、彼が外科医を目指そうとしているとは知らなかった。
親友の頼みを受け入れた夜、俺は香織にした約束を守れなくなると静かに涙した。
これも運命なのかも知れない……。
けれど旭、それはかなり無謀だぞ!
今までの成績を知っているから、合格ラインには程遠い事を懸念する。
寝なくてもよいと言う言葉をその通り受け取り、夏休み期間は必要最低限の睡眠時間しか与えず、旭の部屋に泊まり込んで猛勉強させた。
沙良は俺が弁護士を諦め旭と一緒に医者を目指すと知り微妙な顔をしたが、雫ちゃんのためを思ってか何も言わずにいてくれた。
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