俺は【詫び状】と書かれた封筒を訝しく思いながら、中身を取り出し読み始める。
『とても困った事になっている貴方へ
すべての元凶は私です。
この責任を取り、出来うる限りの保障をさせて頂きました。
まず、いま貴方がいる世界は地球ではありません。
剣と魔法の、ファンタジーである所の異世界です。
そして、とても残念ですが椎名 沙良様48歳は、お亡くなりになりました。
貴方は現在、カルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー第一令嬢12歳です。
リーシャの家庭環境
母(ファイナ・ハンフリー 享年30 2年前に逝去)
父(ケンドリック・ハンフリー 33歳 公爵家当主 1年前に後妻と再婚)
後妻(リンダ・ハンフリー 32歳 継承権なし)
連れ子(サリナ・ハンフリー 12歳 継承権なし)
備考※ 現在、公爵は王都に社交のため不在。後妻リンダが領地公爵邸を仕切っており、リーシャは部屋を連れ子サリナに追い出され、納屋で監禁生活を送っている模様。(こんな家庭しか用意出来ずに申し訳ありません)
リーシャ・ハンフリーの能力
【時空魔法】
●ホーム 地球世界の椎名 沙良様の自宅に移転出来ます。
家賃・水道光熱費無料。
今回は慰謝料として、4階建てアパート12部屋すべてをホームとさせて頂きます。
また、異世界お試し期間で1年間(365日)分の部屋にあるすべてを(2021年12月24日現在 補充可能 可能な限りでの原状回復済み、更に自宅303号室は追加登録補充可能)補償します。
レベル10毎にホームに出来る箇所が追加、最大10か所。
●アイテムBOX 容量無限・時間停止。
●マッピング 行動範囲を地図に作成。
●召喚 地球世界の人間を呼び出せます。但し召喚した人間は送還出来ません。
レベル10毎に1人召喚出来ます。
慰謝料として、現在は1人召喚可能。
召喚した人間には、異世界の能力をランダムに3つ与えます。
この手紙を読み終わり次第、椎名 沙良様の肉体は消滅しリーシャ・ハンフリー様に変換されますので、まずは「ステータス」と唱え能力の確認をお勧めします。
最後に、このような不幸な目に遭わせてしまいましたが、これからの貴方の人生が幸多き事でありますよう、お祈り申し上げます。』
俺は手紙を読み終わると、テーブルの上に置いた。
果たして、この内容は真実なのか? どうにも疑わしく思えてならない。
実際、自宅から召喚? され、ここにいるんだろうから、全てを否定する心算はないが……。
目の前の少女を、48歳だった妹の沙良だと言われても直ぐには納得出来ないのだ。
金髪で茶色の瞳をした、初めて会う少女。
全く面影がないどころか日本人ですらない。
手紙に依ると赤の他人になっているから、仕方ないとは思う。
しかも12歳って……一体、何十年若返っているんだ?
人生やり直すにしたって若過ぎるだろう……。
沙良と思われる少女が、申し訳なさそうに口を開く。
「召喚して貴方を呼び出した訳ですが、まさかランダムに召喚されるとは思わず、私は自分の兄を呼んだ心算でいたんですけど……」
「あ~それは間違ってないようだ。これが大仕掛けのドッキリじゃなければ……。沙良、お前生きてたんだな!」
本当なら妹と感動の再会を果たした嬉しさのあまり抱き締めたい所だが、50歳の俺が12歳の少女にするのは抵抗感があり過ぎ出来なかった。
少女は俺の顔をじっと見つめた後で、首を傾げ問いかける。
「もしかして、お兄ちゃんだったりする? なんでそんなに若くなってるの?」
「はあっ? 若くなってるだと?」
そう言われて自分の体を見ると、確かに半袖Tシャツと半ズボンから出た腕や足の肌の張りが違う。
「寝室に姿見があるから、確認してきた方がいいよ」
少女に言われ席を立ち、急いで沙良の寝室に向かった。
姿見に映っていたのは中学生時代の懐かしい自分の姿だっため、思わず絶叫してしまう。
「なんだこれ~!」
亡くなった妹に召喚され異世界転移し、妹が別人になり生きているだけでも充分混乱していたんだ。
更に自分が若返るとか完全に理解の範疇を超えている。
外科医として常に冷静さを求められる俺は今、非常にヤバイ状態だ。
こんな時に手術したら、普段しないようなミスを連発するだろう。
沙良が12歳の年齢と考えると、日本での年齢差そのままなのか?
それなら俺は14歳だ。
人生をやり直したいと思った事はないから、いきなりこんなに若くなるのはとても困る。
日本に帰れないんじゃ、この先どう生活していけばいいんだ?
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!