パーティーを組んでいる意味がなさそうな4人だけど、本人達の基礎値が高いから心配はいらないだろう。
多少の怪我なら兄と旭が治療可能だ。
問題なしとみて、私は再びマドレーヌを焼き続ける。
3時間後。
5人がテントに戻って来ると、黄金と山吹が、私の両袖を引っ張りテントの外へ連れ出す。
そして目の前に仕留めた魔物を山盛り出した。
私は2匹にお礼を言い、頑張ったね~と褒めながら撫でてあげた。
黄金は喜び、その場でジャンプを繰り返し、山吹は私の周囲をくるくる回っている。
従魔達は本当に可愛いなぁ。
献上された魔物をアイテムBOXに収納し、シュウゲンさんを実家に帰したら迷宮都市地下15階の安全地帯へ移動する。
ホームで休憩後、テントから出て夕食のメニューは何にしようか考えていると、ダンクさんがやってきた。
「サラちゃん、今日はセイさんと初めての攻略日だよな。食事は少し豪華にするのか? 『すき焼き』とか……」
おや? これは遠回しに『すき焼き』が食べたいとの催促だろうか……。
『すき焼きのタレ』は販売していないから、リリーさんもケンさんも作れない。
「えぇ、今夜は『すき焼き』ですよ~。一緒に食べましょう!」
「おおっ、そうか! じゃあ、リリーに手伝うよう言っておくよ」
私の返事を聞いたダンクさんは、リリーさんへ伝えに走っていく。
その後ろ姿を見送り、ミノタウロスの肉をアイテムBOXから取り出した。
リリーさんから話を聞いたケンさんも手伝いに来て、各パーティー分の材料を切り始める。
『すき焼き』用の鍋は以前渡し済みなので、後は『すき焼きのタレ』を渡せばいいか。
今回も生卵は不要だと言われてしまった。
まぁ、異世界の卵は生で食べない方がいいかも……。
「頂きます! いや~、『すき焼き』が食べたかったんだよなぁ。肉が旨い!」
ダンクさんは肉を鍋から取り出して口にするなり、嬉しそうに言い笑みを浮かべる。
隣にいるリリーさんは、入れた端から肉をメンバーが食べるからせっせと追加するので忙しそう。
このパーティーはリーダーに遠慮しないのだ。
アマンダさんのパーティーは、食べる順番が決まっているのか皆大人しく待っている。
ケンさんも、自分の分を食べながら鍋奉行をしていた。
私達は旭家と椎名家に分かれ、樹おじさんと父が材料を入れている。
セイさんは人数の少ない旭家と一緒に食事をしてもらった。
勿論、全員生卵付きだ。
これは日本の卵だから、お腹を壊す心配はない。
「いや~。ダンジョンの食事が、こんなに美味しいとは驚きました!」
長く冒険者をしているセイさんは、日本料理が出てくるとは思わなかったのか『すき焼き』を食べて満足そうに微笑んでいる。
「サラちゃんの作る料理は絶品だよ。珍しい物ばかりだから、セイさんは幸せだねぇ」
アマンダさんがそう言って彼の肩を叩く。
「響さんと奏さんの知り合いで良かったです」
セイさんは、さりげなくパーティー加入の理由を話し出す。
ダンクさんの父親に会いに迷宮都市へ来たら2人も知り合いと再会し、私が経営している『製麺店』と『お菓子の店』には、元パーティーメンバーがいたと大袈裟に驚いてみせる。
「親父にはセイさんが迷宮都市にきた事を連絡してある。そのうち手紙が届くだろう」
話を聞いていたダンクさんは、今朝紹介した後でセイさんの到着を配送担当者に伝えたそうだ。
「ジョンさんが生きていると知り、本当に嬉しかったです。会うのがとても楽しみですね」
「親父達は運が良かった。20年も石化した状態だったからな……」
ダンクさんは、ちらりと兄達を見てからそれ以上は黙る。
誰が治療したか内緒にする約束を覚えているんだろう。
「ええ、ジョンさん達の石化が治療出来て良かった……」
セイさんの目が少し赤くなった所で、話題転換をしよう。
「迷宮都市のダンジョンは地下20階までしか攻略されていませんけど、それ以上攻略する冒険者はいないんですか?」
するとアマンダさんとダンクさんのパーティーが、私の質問に呆気に取られた表情になる。
「サラちゃん。攻略階層を3ヶ月毎に移動する、おかしい冒険者はあんた達だけだよ。私は既に攻略済みの階層だから一緒に付いていくけどね。地下18階に到着したら、それ以上先は進まない。1パーティーだけで攻略するのは危険過ぎる。最終攻略層を移動する場合は、大抵そこを拠点にしているクランリーダー達と話し合って決めるんだ。普通は治癒術師が3人もいるパーティーはないからね」
アマンダさんが苦笑しながら理由を教えてくれた。
ジョンさん達は1パーティーで地下19階を攻略していたけど、それは既に地下20階を攻略済みで治癒術師のルイスさんがいたからなのか……。
そのルイスさんが妊娠しメンバーから外れている今は、地下18階を攻略中だ。
治癒術師のいないパーティーで単独攻略するのは危険なのだろう。
「まっ、今は『MAXポーション』があるから、そのうち最終攻略組も地下19階に移る可能性が高いけどな。魔物情報も親父達が知っているし初見の魔物がいない分、拠点を移動するのは難しくない」
「『MAXポーション』?」
セイさんが、ダンクさんが口にした聞き慣れない言葉に反応を示す。
「迷宮都市限定で、エリクサーと同様の回復量があるポーションが販売されているんだ」
「嘘でしょう!? 王都でしか販売されていない、しかも貴族じゃないと購入出来ないエリクサーと同様のポーションが買えるんですか!!」
「それで今は迷宮都市が注目されている。これから他領の冒険者も増えるだろうな。サラちゃんのパーティーにいる限り、必要ないと思うが……」
ダンクさんが再び兄達に視線を向け笑っている。
『MAXポーション』は、今まで冒険者達が欲しくても購入出来なかったポーションだ。
パーティーに1個でも常備すれば安全性が高まる。
常に危険を伴うダンジョン攻略のリスクの軽減が可能なら、拠点を迷宮都市に移す冒険者も多くなりそう。
ただ他領の冒険者が増えるのは良い事ばかりじゃない。
その分、厄介な問題も出くる筈。
迷宮都市の責任者であるオリビアさんは大変になるかも?
デザートにダンジョン産のシャインマスカットを出すと、迷宮都市のダンジョン内で果物が生ると知りセイさんが唖然としている。
奏屋は迷宮都市と王都にしかないため、ダンジョン産の果物の存在を初めて聞いたらしい。
雫ちゃんが、今日収穫したアメリカンチェリーと佐藤錦も提供してくれた。
3種類の果物を前にしたアマンダさんの機嫌がいい。
彼女は果物が大好きだから、美味しそうにパクパク食べていた。
その後、始まった劇の稽古内容にセイさんが固まっている。
もう既に原作とは違う改変された『白雪姫』は、なんかもう……。
『人魚姫』は王子役がダンクさんの時点で怪しさ満点だ。
セイさんのために披露された『シンデレラ』と『赤ずきんちゃん』を見て、彼は大爆笑していた。
まぁ、楽しそうで何よりです。
今夜も帰りが遅くなりそうだと思い旭の方を向くと、既に兄の肩で寝落ちし雫ちゃんがマントを被せている。
あの~皆さん、早く寝かせてくれませんかね?
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