3人で密談した後、ガーグ老から家族を紹介される。
長男のゼンは俺も知っているが、次男から五男は誰だ?
しかも全然似ていないし、見た目年齢が逆のようだが……。
五男が一番年上に見えるぞ?
四男と五男の嫁に至っては、もう何と言っていいか分からない。
辛うじて、口から大きくはみ出た口紅だけが女性らしい所だろうか?
いや、いや、絶対男だろ!
俺がじっと見つめると、長男以外が視線を逸らす。
「ごほんっ。こやつらは、御子の料理が食べたかったようでな。まぁ、その許してやって下され。他の者は、木の妖精に扮し御子から料理を分けてもらっておる」
姿を見せているガーグ老達とは違い、50人の『万象』達は隠形しているから家族や妖精という事にして料理を食べているのか……。
この世界の残念な料理を思い出し、なるほどなと理由を察した。
ただ、もう少しなんとかならなかったんだろうか。
似てない兄弟は仕方ないにしても年齢順にするとか、妻役は小柄な男性がするとか……。
どうやって役柄を決めたのか聞くと、総当たり戦で勝った順番らしい。
そんなに娘の料理が食べたかったのか?
しかし、この家族を紹介された皆は、かなり不審に思っているだろうな。
大丈夫か、これ……。
工房から出ると昼食の準備が済んでいたのか、三男役が慌てて配膳に向かった。
妻役の2人が動かないのは、『万象』内での序列が上だからだろう。
妻役は自分達の演技を放棄してないか?
沙良ちゃんが出来上がった料理を、妻と一緒に木の下へ運んでいる。
可哀想に結花の料理も食べるのか……。
妖精役をしている『万象』達は、天国と地獄を同時に味わいそうだ。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『五目あんかけうどん』と『カツ煮』です。『五目あんかけうどん』は非常に熱いので、取り皿に入れ食べて下さいね。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
娘の挨拶が終ると、皆が一斉に食事を始める。
稽古の後は、毎回お礼に料理を振る舞っているんだろう。
「これは期間限定の『うどん』だな。あれは50食しかないで、まだ一度も食べた事がないのだ」
異世界にはない『うどん』をガーグ老が知っていた。
不思議に思っていると、響から娘が『肉うどん店』を経営していると教えてもらう。
異世界人には受けがいいだろうから、店は繁盛していそうだな。
子供達の支援だけじゃなく、飲食店も経営しているとは驚いた。
俺の娘は遣り手らしい。
「おおっ、なんだかほっとする味だわ。どれ『カツ煮』とやらも食べてみよう。これはっ! 甘辛くて『うどん』によう合うわい」
ガーグ老が感想を言いながら、次々と口に入れる。
他の影衆達は無言で黙々と食べていた。
その表情を見れば料理が美味しいと分かる。
「姫様の食べたがっておった料理を、サラ……ちゃんが沢山作ってくれての。『ハンバーガー』や『ピザ』や『フライドポテト』は、確かに太る食べ物であった。『うなぎの蒲焼』は、本当に美味しかったですぞ! 少しばかり効果があり過ぎて、些か困り申したが……」
ヒルダ時代、俺が食べたいと言っていた料理名を覚えていたのか……。
それにしても効果がある『うなぎの蒲焼』に、嫌な予感がするのは何故だ?
もしかして精力剤の効能がある、ダンジョン産の魔物じゃないか?
俺は響との初夜に盛られた媚薬を思い出し、絶対食べないと決めた。
強制的に発情させられるのは一度で充分だ。
今は若くなった妻の誘惑を躱すので精一杯だからな。
恐ろしい食材に震えていたら、娘が誤魔化していた件を聞いてくる。
「ガーグ老は、樹おじさんをどうして姫様と勘違いしたの?」
おっと、それを正面切って質問されると困ってしまう。
「あぁ、それは……。俺の魔力が姫様に似ていたから、姿変えの魔道具で変装していると思ったみたいだ」
姿は別人になっているから、ここは個人が識別出来る魔力と言って乗り切ろう。
同じ種族は大抵魔力で判断出来る。
エルフは見た目が特徴的な種族だが、武の出身の者は人間じゃ分からないだろうな。
俺の近衛だった女性騎士達は綺麗な容姿をしていたけど、ガーグ老達はエルフには見えない。
「ポチとタマが懐いているのも、その所為?」
「元は姫様の従魔だから……そうだろう」
「ふ~ん。じゃあ、樹おじさんの言葉を理解出来るのかな?」
「今はガーグ老の従魔だから、いくら魔力が似ていても俺の言葉は分からないだろう」
本当は言葉が伝わっているが黙っておいた。
主人以外の指示で動く従魔はいない。
今も俺の両肩に止まって離れない2匹の白梟は、俺と娘の顔を交互に見て何度も同じ仕草をした後、頭を一度だけ上下に動かした。
何だ? ポチとタマは俺の言葉を分かっているが、現在はガーグ老の従魔なので念話は出来ない。
2匹が何を考えているのか分からず、その行動の意味は不明だった。
食事を済ませた後、沙良ちゃん達はこれから俺の騎獣をテイムしに行くらしい。
直ぐに済むから待っていてねと言われ、どんな風にテイムするのか気になった。
響曰く、かなり特殊な方法のようだから違う種族の魔物でも大丈夫みたいだ。
女性陣と息子達が工房を出ていき、義祖父と義父、俺と響が残る。
するとガーグ老が、いそいそと将棋盤を持ち出し義祖父に対局を申し込んでいた。
王族の護衛に役立つからと将棋を教え、勝ってよく王宮を抜け出したのを思い出す。
槍の仕合では手加減していたが、将棋なら本気で相手が出来ると踏んだんだろう。
だが、日本人の義祖父には勝てないと思うぞ? そもそも、響の父親に将棋を教えたのは彼だ。
言わば俺達の師匠に当たる。
多分、この4人の中で一番強いに違いない。
案の定、ガーグ老は短時間で負け悔しそうな顔で唸っている。
義祖父は「儂の相手にはならんな」と言い、ニヤリと笑っていた。
この2人は仲良くなれそうにないな……。
良い機会だから、俺はガーグ老の長男を相手に将棋を指しながら娘の事を尋ねよう。
「ゼン、貫禄が付きましたね」
300年前に会った時とは違い年齢を重ねた長男は、より逞しくなっていた。
「はっ、姫様は随分とお姿が違い戸惑っております」
まぁヒルダと樹の俺じゃ、性別自体が違うから違和感が凄いんだろう。
それには苦笑するしかない。
「娘の護衛は問題ありませんか?」
「ティーナ様の身は、私共『万象』50名が常に気を配っております。ですが時空魔法で移転されるのが問題かと……」
「本人は護衛されていると知らないのです。王にも注意するよう伝えますが、これからもお願いしますね」
「はっ! 世界樹の精霊王にかけて誓約しております」
おっと、それはまた重い忠誠心だな。
でもそれなら娘の安全は守られるだろう。
「私は、ゼンが娘の偽装結婚の相手だと思っておりました。ガーグ老が相手役になったのは、何故かしら?」
「申し訳ありません。父には勝てませんでした」
あ~、どうやら夫役は対戦で勝った者なのか。
武の出身者は力が全てな所があり、何かを決める時は大抵対戦して勝敗を決める事が多い。
影衆当主の座を降りても、まだガーグ老が一番強いようだ。
将棋は当然俺が勝ち、長男は「姫様に勝てるよう、精進致します」と言って席を立つ。
娘達が帰ってくる前に、世界樹の精霊王に挨拶でもするか。
庭にある一番大きな木の下へ行き、両手を幹に触れ意識を精霊の森へ飛ばした。
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