そして2人で無事、医大に合格する。
旭は泣き言ひとつ言わず、俺の指導をよく聞き実践したので当然の結果だろう。
医大の6年間、研修医として2年間。
俺達に青春なんてものはなく、ひたすら最短で外科医になるため勉強の日々が続く。
とうとう専攻医になれた、その報告をした翌日。
雫ちゃんは病院で静かに息を引き取った。
18歳という若い年齢で、最後の3年間は病院のベッドで過ごしたまま……。
旭の悲しみは痛いほど感じたので、このまま外科医になるのを諦めるのではと心配したが、雫ちゃんと最後に交わした約束を守るんだと歯を食いしばって耐え、外科医としての道を俺と共に歩み始めた。
その旭も45歳の若さで亡くなってしまう。
緊急手術で自宅から呼び出され、手術を終え医局に戻ったら旭が倒れていたのだ。
脈が止まっているのを確認し、直ぐに蘇生処置を施したけれど旭はそのまま息を引き取った。
親友を腕の中で亡くし、俺は暫く生きる気力が湧かず、淡々と仕事をこなす毎日を続ける。
毎週、旭と一緒に通っていたジムもいかなくなり、無気力な状態が続いていたと思う。
そんな時、沙良が心配して頻繁に俺のマンションへくるようになった。
お互い家を出て1人暮らしを始めてからは少し疎遠になっており、顔を合わすのは実家で集まる時ぐらいだったが、俺の好物を作り一緒に食事をし旭の思い出話をするようになってから、少しずつ気持ちを整理出来たので大変感謝している。
幼馴染で親友の旭の初恋は、密かに妹だったんじゃないかと疑っていたが、旭が沙良に告白をする事はなく幼馴染としてのポジションを最後まで守り抜いた。
なぁ旭、一度ぐらい玉砕覚悟で妹に告白しても良かっただろうに……。
沙良が、お前を幼馴染で俺の親友だと思っていたとしてもな。
俺に遠慮したのか?
別に、牽制してた訳じゃないぞ?
旭の死を漸く受け入れられた頃に、今度は沙良が亡くなった。
見送るばかりの俺は、独り取り残されたようで心にぽっかりと穴が空いてしまう。
一緒に嘆き悲しむ家族はいたが、それでもどうにも出来ない虚しさは残る。
2人の子供を亡くしてしまった両親は、一気に老け込んだように感じた。
子供の俺達がしっかり支えないと、その一心でなんとか生活している。
市内の病院で外科部長をしている俺は、日々忙しく仕事人間になっていった。
結婚はしておらず、所謂独身貴族というやつだ。
まぁ実際タワーマンションと車を現金一括で払ったので、現在ローンはないし交際している女性もいないため、お金には困っていない。
唯一の趣味は週末、会員になっているホテルのジムに通うぐらいだ。
食事は作る時間や、材料を購入しても食材が余り破棄するのを考えると無駄に思えたので、専ら外食で済ませる事が多い。
そんな土曜日の午後。
いつものようにジムへいき一汗流して家に戻る。
今日の夕食は、どこの店で食べようか考えながらTVを付け、ぼんやりしていると突然部屋が強い光に包まれた。
眩しくて目を閉じた後、再び目を開けると目の前に小学生ぐらいの外人の少女がいる。
はっ?
何だこれ!
慌てて周囲を見渡すと、自分の部屋じゃない。
目の前の少女も驚いているのか、ビックリした表情をし固まっていた。
少女が俺を見て口を開く。
「えっ、誰ですか?」
一瞬、聴こえてきた日本語に、それは俺の方が聞きたいと思っても仕方ないだろう。
外人にしか見えない少女が、日本語を流暢に喋る事に違和感を覚えてしまう。
お互い混乱した状態だったため、少女に対し少しきつめの言葉を言ってしまった。
「お前こそ誰だよ! ここはどこだ、なんで家じゃなく突然違う場所にいるんだ!」
いや、ちょっと大人気なかった。
初対面の小さな少女に向かって言う台詞じゃない。
反省していると少女がいきなり土下座し、とんでもない話をした。
「申し訳ございません。私があなたを誘拐しました。しかもここは異世界で、地球には帰せないんです。これから私が責任を持ち、一生面倒みますから許して下さい。出来る事は全てさせて頂きますので、何卒宜しくお願い致します」
益々、意味不明だ。
真面そうに見えるが、この子は少し頭が足りないのか?
「はあ? なに馬鹿な事を言ってるんだ、取り敢えず席に座ってくれ。このままじゃ話がしにくい」
小さな少女を土下座させたままじゃ外聞が悪いため、そう言って席に座らせた。
「まずは、お前は誰なんだ。名前くらい名乗れ」
「ええっと私の名前は、この世界ではリーシャ・ハンフリー12歳となっていますが、実際の名前は椎名 沙良48歳です。詳しい事情は、この手紙を読んでもらうともう少し分かるかと思います」
亡くなった妹の名前を出され、ひょっとして新手の詐欺か何かじゃないかと胡乱げに少女を見ながら渡された手紙を受け取る。
封筒には、日本語で【詫び状】と書かれていた。
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