暫くすると夕食が部屋に運ばれてきた。
私達だけで食べられるよう気を使ってくれたのだろう。
内容は『ハンバーグ』・『チーズオムレツ』・『フレンチトースト』にスープ。
ハンバーグには、ニンニクとマジックキノコをバターで炒めたソースが掛かっていた。
これもケンさんが料理長に教え作ってくれたに違いない。
女官が毒見を済ませてから食べ始める。
ガーグ老達と女官長達のメニューも一緒かな?
食事後は就寝すると伝えて、私達だけになる。
ホームへ帰り、各自お風呂を済ませ再び客室に戻ってきた。
寝るにはまだ時間が早い。
兄は勉強、セイさんは読書、私と茜は従魔達のブラッシングを始める。
樹おじさんは、ポチとタマを撫でていた。
穏やかな時間を過ごしてた私の背筋が、急にゾクリとなる。
はっとして顔を上げた瞬間、突然何者かが現れ即座に皆が警戒態勢を取った。
「姫様! ご無事か!?」
隣の部屋にいたガーグ老達が、扉を開けなだれ込んでくる。
この気配は魔族の青年と同じものだ。
出現した非常に麗しい男性は、位の高い魔族に違いない。
「息子が帰ってこないから迎えに来てみれば、エルフが絡んでいるとは……。契約内容をよく確認しなかったらしいな。息子は何処ですか?」
特に敵意も見せず、息子を迎えに来たと言う魔族は父親らしい。
悪魔のような種族だと聞いたから、木の股から生まれると思っていたので親がいるとは思わなかった。
「少し待っておれ」
用件を聞いたガーグ老が、さっさと息子を引き渡そうと部下に指示を出す。
あ~、まだ魅惑魔法が掛かったままだよ!
簀巻きの状態で引きずられた青年は、父親の顔を見るなり青ざめる。
「父上、どうしてここに……」
「初めての契約が上手くいってないと思い、心配で迎えに来た」
「それは……失敗しました」
「その姿を見れば分かる。何故、契約を破棄し戻ってこない」
「……好きな女性が出来たのです」
「なんだと?」
魔族の青年は、ちらちらと樹おじさんの方に視線を送る。
「相手はエルフの姫か……。お前では身分が違い過ぎるから、諦めなさい」
「嫌です! 私は彼女の傍にいたい」
なんか思わぬ展開になっている。
このままじゃちょっと拙い気がするなぁ。
「あの……情報を聞き出そうと魅惑魔法を掛けただけですから、ご心配なく」
「魔族が魅惑魔法に掛かるとは情けない。理由が分かったなら、早く契約を破棄せよ」
いやいや、連れて行かれると計画が台無しになるから困る。
「それなんですけど、私が新たに契約しようと思っているので待ってもらえませんか?」
「そなたらの中で一番弱い息子が何の役に立つのだ?」
おお、はっきり言うな。
確かに今のままじゃ弱いんだけど……。
「この場にいる全員と契約すれば、強くなるでしょう」
樹おじさんが、にっこり笑って父親に返事をした。
「全員とは……。ステータス値が下がっても、問題なさそうな者達ばかりではあるが代償は高いぞ?」
「問題ありません」
おじさんがきっぱりと言い切る。
「ふむ、では息子を託そう。怪我をしているようだから、一度異界に連れ帰る。そちらで再召喚してくれ」
「あっ、召喚陣を教えて下さい!」
呼び出す方法が分からないと召喚出来ないため、焦って声を上げる。
すると、羊皮紙がひらりと舞い手元に落ちた。
そこには複雑な魔法陣が描かれている。
「あっ!」
という青年の言葉を残し、突然現れた魔族の父親が息子を連れ帰ってしまった。
「異界に戻れば、切断された両足は戻るのかな?」
「魔族は、この世界で顕現した体が死んでも異界に戻れば生き返るようです」
呆気に取られながら呟いた言葉に、セイさんが答えてくれる。
「へぇ~便利な種族ね。それなら不死身に近いんじゃない?」
「異世界で契約した時だけだと思います。契約時以外では、行動に制限がありそうですね」
「その辺は、彼を召喚して聞き出しましょう」
羊皮紙を女官長へ渡し、床に魔法陣を描いてもらった。
この魔法陣は一度使用すると消えるそうだ。
樹おじさんが召喚の言葉を口にする。
「魔族召喚!」
随分、簡単な召喚呪文だな……。
もっと、中二病溢れる恥ずかしい呪文じゃないのか。
魔法陣の中央に、両足が戻った魔族の青年が召喚された。
樹おじさんを抱き締めようとするので、ガーグ老が引き離し羽交い絞めにしている。
異界に戻っても、魅惑魔法の効果は切れないらしい。
おじさんの魔法が強力過ぎる。
こんな状態で契約出来るのかしら?
「私の願いの対価は魔力150です。ドラゴンになって下さい」
「……お前は馬鹿なのか? 体積を考えてものを言え、出来るわけがない」
魅惑魔法に掛かった状態でも、意志の疎通は可能みたいだ。
「じゃあ、ピンクパンサーになって」
「骨格が違い過ぎるだろう!」
体積とか骨格とか……巫女姫の姿になれるから期待したのに。
「役立たず!」
「それは男の前で言うな!」
「じゃあ、何の姿になれるのよ?」
「見た人の姿しかなれない」
「え~、使えないなぁ。じゃあ肩叩き10回でいいわ」
「態々、魔族を呼び出し願う内容がそれでいいのか?」
「ええ貴方は、この場にいる全員と契約をして爵位を上げたくはない?」
悪魔の囁きに、魔族の青年が顔色を変える。
「全員の望みを叶えさせ爵位を上げる意図はなんだ」
「強くなってから、受けてほしい依頼があるのよ」
「そうか、じゃあ契約を受けよう」
「「その内容は許可出来ない!」」
兄と樹おじさんの声がハモり、2人が顔を見合わせた。
「肩を叩く相手は俺にしろ」
過保護な兄は、男性が私に触れるのが嫌らしい。
その場にいた全員が同意するよう頷いていた。
よく分からないけど、ここは皆の意見を尊重しよう。
「えっと、じゃあ兄にお願いね」
青年は無言で兄の肩を10回叩き、「契約完了」と口にする。
ステータスを確認したらMP値が150減っていた。
対価の魔力は契約完了後に取られるみたいね。
「次は私だ。腹筋を100回しろ」
茜の願いに青年が唖然とする。
「本気で言ってるのか?」
「簡単にしてやったんだ、文句を言うな」
「分かった。契約を受けよう」
腹筋100回は簡単な、お願いじゃない気がするけど……。
青年は最後までやり切った。
セイさんは茜の願いを聞き、腕立て伏せ100回を依頼。
あ~、なんだか嫌な予感がする。
全員の願いを聞いたら、魔族の青年は全身筋肉痛になりそう。
兄は3回まわってワンと鳴けという、屈辱的な願いをする。
魔族の青年は腹筋100回と腕立て伏せ100回よりはマシだと思ったのか、顔を真っ赤にしながらワンと鳴いていた。
ちょっと可哀想……。
樹おじさんは青龍の巫女姿を希望。
ガーグ老は背筋100回と言って彼を絶望させた。
続く部下達の願いも何のトレーニングだというばかりのものであったため、契約が終了するのに時間が掛かりそうだと思い私達は先に寝る事にした。
ガーグ老達と女官長達へ飴を2個渡し、必ず舐めて下さいと伝えておく。
魔族の青年が女官長達の願いまで達成出来るか心配だ。
明日、息をしているだろうか?
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