その日の夕食時。
沙良の食べる量が少なかった所為で、賢也が体調が悪いのかと心配していた。
息子は娘の食事量を把握しているのか?
俺は内緒で食べた事がバレやしないかと焦り、冷や冷やさせられた。
どうやら俺の食事量には無関心のようで、何の指摘もされずちょっぴり寂しい。
賢也よ、お父さんにもう少し関心を持ってくれてもいいんだぞ?
翌日から午前中は沙良の薬草採取に付き合い、午後は地下30階~地下29階を攻略した。
『万象』達は、既に地下29階と地下28階に辿り着き待機している。
今後は5日間の攻略で地下1階~地下29階までの往復をしなければならず、かなり大変な護衛となるだろう。
騎獣が早く到着すれば、もう少し楽になりそうだが……。
5日間の攻略を終え、冒険者ギルドへ換金にいく。
尚人君は、アイテムBOXに収納した11年間分の魔物を毎回提出しているらしい。
それぞれ倒した魔物の換金額を6人で均等に割る事になった。
手渡された金額を見て唖然となる。
たった5日で数千万円……。
妻と結花さんがニコニコしているのは、旦那の年収だった金額より多いからじゃないよな?
これでも地下30階~地下28階の魔物の分は換金されていない。
娘達は一体、幾ら稼いでたんだ……。
間違いなく、この迷宮都市一番の稼ぎを叩き出しているだろう。
冒険者ギルドが大量の魔物素材を、どう処理しているのか心配なくらいだ。
また娘にLvを聞かれる。
俺は分かり易くLv30だと言っておいた。
一応数値も計算し、いつでも答えられるようにする。
78×31で2,418だ。
もうLv125の数値を上回っている。
夕食は初攻略のお疲れ様会を居酒屋で祝った。
その際、賢也から地下16階の果物を聞かれ沙良が慌てている。
実際攻略していたのは地下30階~地下28階だから、知らないのも無理はない。
ダンジョンに不慣れな俺に注意していたと言い、なんとか兄からの疑問を躱したようだ。
その理由はどうかと思うぞ?
俺は、娘からスパルタ式のLv上げをさせられていたからな。
まぁ言えないから黙ったまま口を噤んでおこう。
2時間程でお開きになり、この日も至って大人しく就寝する。
翌日、土曜日。
沙良は賢也から異世界に1人でいくなと言われているため、俺と一緒に奏屋へ果物を卸しにいきたいらしい。
そろそろガーグ老からの返事がもらえるだろうと思い、沙良と一緒に異世界へ転移する。
奏屋のご主人は義父に当たるが、本人は知らないので挨拶が出来ず残念だ。
沙良が地下16階で採取した果物を卸すと、その値段に驚愕した。
ただの果物であるアメリカンチェリーが15万円、佐藤錦に至っては40万円だと!?
どんな高級フルーツなんだ!
これも上位貴族が見栄のために買いそうな品だな。
奏屋を出ると、次はガーグ老の工房に寄りたいと伝えた。
工房の門を開けると、ポチとタマが急接近して両肩に止まる。
傍にいない樹を、まだかと催促しているようだ。
そのまま中に入ると、ガーグ老達影衆10人が既に待機している。
何故か全員、顔中ポーション塗れなんだが……。
激しい鍛錬の最中だったのか?
「こんにちは~」
「サラ……ちゃん、父親殿ようきた。今日は何用であったかの?」
娘が挨拶をすると、ガーグ老から用件を聞かれる。
「ガーグ老。先週話していた、娘の結婚相手を決めたい。周知は、なるべく早い方がいいだろう」
「おお、そうか。うむ、それなんだが……相手は儂がいいだろう」
なんだと?
待て待て、ガーグ老は1,000歳を超えているじゃないか!
しかもこの世界の見た目では、10代の娘の婿として釣り合わんだろう。
どうして息子を紹介しないんだ!
「ご老人。いくら何でも娘より年上過ぎる」
俺は渋面になって抗議した。
「いや、結果がそうなったのだ。これは譲れん!」
しかしガーグ老は引かない心算らしい。
暫し睨み合った末、お互いの剣に手を掛ける。
ここは仕合で決着をつけようと、娘のために本気で相手をするが……。
悲しいかな本職には勝てず、俺は持っていた得物を弾き飛ばされ首に剣を突きつけられた。
勝負ありか……。
悲壮な顔をしている娘に頭を下げ、
「すまない。俺には相手が強すぎた……」
心から謝罪した。
「じゃあ、私の結婚相手は……ガーグ老?」
「そういう事になる」
沙良は結婚相手に呆然となり、未来を想像したのか遠い目となる。
俺も、義理の息子が年上になった……。
それでも沙良は偽装結婚の相手役をしてくれるガーグ老へ、お礼の言葉を述べる。
「ええっと危険なお役目ですが、引き受けて下さりありがとうございます。どうかこれから、よろしくお願いします」
「なに、儂は死なんから大丈夫だわ。サラ……ちゃんを、絶対に未亡人にはせんで安心するがよい」
この世界にガーグ老を殺れる暗殺者等おらんだろう。
その点だけは確実と言っていい。
それにしても相手がガーグ老だと知った妻は、卒倒するかも知れん。
流石に、そのまま結婚してほしいとは思わないだろう。
賢也と尚人君は、枯れた老人が相手でほっとするかも……。
俺達は相手が決まり失意のまま工房を後にする。
動揺した沙良がヨロヨロしているので、気分転換になると思い王都行きを提案した。
「沙良。ガーグ老から聞いたんだが、王都にドワーフの鍛冶職人がいる店があるらしい。槍術を身に付けたら、もっといい武器が欲しくないか?」
「えっ? この国にドワーフの鍛冶職人がいるの?」
どうやら娘の気を惹くのは成功だ。
「ああ、場所も教えてくれたから王都までいけば案内出来るぞ」
話を聞いた沙良の表情に生気が戻る。
それから笑顔に変わった。
「いきたい! 私ドワーフは会った事がないの。一度見てみたかったんだよね~。やっぱり背が低くて、髭もじゃな種族なのかな? いつもお酒を飲んで、赤ら顔をしているのかしら?」
好奇心旺盛な沙良が、瞳をキラキラさせて想像を語る。
いや、そのどれも該当しないが……まぁ見てのお楽しみだろう。
ヒルダそっくりな娘の注文は、受けてもらえる可能性が高い。
あのエロ親父が生きていればだが……。
ドワーフは長命な種族だから、150年後も存命だろう。
異世界にある沙良の家までいき、そこから王都へ移転した。
俺は国王時代、樹に紹介した武器屋へと沙良を連れていく。
店の前まで歩くと、以前と同じ店名の武器屋があり安心する。
店がなかったら娘が、がっかりしてしまう所だった。
店内に入ると、そこにはドワーフの名匠バール氏の変わらぬ姿があった。
沙良は目の前の男性がドワーフだと気付かないようで、店内にいる筈のドワーフらしき人物を探している。
俺が小声で彼がドワーフだと教えてやると、仰け反り「予想外過ぎる……」と呟く。
まぁ見た目だけなら歴戦の戦士に見えるだろうからな。
バール氏が俺達に、いや沙良の姿に気付き声を掛けてきた。
「お嬢ちゃん、今日は何を注文するんだ? おや、少し背が低くなったのか? それに胸が……」
あぁ~、こいつヒルダだった樹を覚えているのか!?
300年も前に会ったきりだぞ?
娘は初対面の人物に、背が低くなったと言われきょとんとしている。
その後に続いた言葉は聞かなかった事にしよう。
樹だって、エルフの種族にしてはそこそこあった方だ。
今の娘程ではないが……。
「あの、槍を注文出来ますか? 魔法の性能が付いた物は必要ないので……」
沙良は、バール氏に早速注文をお願いしていた。
「今日は剣ではなく槍か? 今使っている物を見せてくれ」
沙良が武器屋で購入した槍を彼に手渡すと、長さと重さを確認している。
「ふむ、これ以上の鉱物で作ってやろう」
バール氏は、あっさりと沙良の注文を受けた。
やはり美人は得なんだな……。
「よろしくお願いします」
沙良はにっこり笑顔でお礼を言うと、俺に向かい「お父さんはいいの?」と聞いてくる。
俺は、樹が用意してくれた剣があれば充分だ。
「あぁ、俺の分は……」
「お主、その腰の剣は俺の親父が鍛えた物だな。それを何処で手に入れた?」
まさか、シュウゲンはバール氏の父親だったのか?
これは拙い事態になった……。
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