昨日のお礼も兼ねて、2パーティーの夕食は私が作ろう。
メニューを聞いたダンクさんとアマンダさんが、嬉しそうにしていた。
リリーさんとケンさんへ、ミノタウロスの肉を薄切りにするようお願いして『すき焼き』の準備を始める。
白菜とネギを切り、かさ増しにじゃが芋を追加。
『すき焼きのタレ』を渡したら、後は各パーティーで鍋を囲み好きに食べてもらう。
鍋奉行をした兄が肉を取り分け、私のパーティーは溶き卵に潜らせて、お肉を味わう。
いつ食べても、ミノタウロスの肉は美味しいなぁ。
ダンクさんのパーティーは、相変わらずリーダーそっちのけで肉の取り合いをしていた。
アマンダさんのパーティーとは本当に対照的だ。
肉好きな旭も雫ちゃんも、次々と口に運んでいる。
それを見た茜は、兄が食べられるようにと鍋奉行を交代。
私は締め用の冷凍うどんを茹で、2パーティーの鍋に入れた。
食事の後は、口の中をさっぱりさせるためにシャインマスカットを出す。
美味しい食事とデザートで、お腹を満たしたら情報収集だ。
「アマンダさん。別大陸に行くなら、どんな方法がありますか?」
ダンクさんより、貴族令嬢のアマンダさんの方が知っていると思い声を掛ける。
「そうだね、海を越える必要があるから船が一般的だろう。ただ、海には魔物も多いから安全とはいかない」
「金を惜しまなければ、飛竜を調達した方が速いと思うぞ?」
話を聞いていた奏伯父さんが口を挟む。
「調教された飛竜に乗せてもらうには、かなり金を積む必要があるだろうけどね」
「そんなに高いんですか?」
「1日で金貨1枚(100万円)は掛かると思った方がいいよ」
うわっ、高い!
別大陸なら何日も払うお金がないと無理そう。
「他の方法はないんですか? 国同士を繋ぐ魔法陣とか……」
「あ~それは……あったら便利だとは思う」
おや? アマンダさんの表情が変わった。
なんだか彼女らしくなく、はっきりしない言い方だ。
「そういうのは国に秘匿されているから、王族でもなければ使用出来ないだろうな」
奏伯父さんはそう言い、否定しなかった。
魔法陣があるんだ……。
秘匿されているなら、これ以上聞き出さない方がいいかも?
私は追及するのを止めメンバーとホームへ帰った。
一度自宅に戻り、兄へ母の様子を茜と見に行くと告げる。
本当は、シュウゲンさんから話を聞く予定だけどね。
「あぁ、分かった。あまり遅くなるなよ」
「うん。お父さんがいなくて心配だけど、シュウゲンさんと奏伯父さんがいるから大丈夫だと思う。顔を見て安心したいだけだから」
茜と実家へ移転すると、シュウゲンさんはリビングにいた。
「おや? こんな時間にどうしたんじゃ」
私と茜が来たのに気付いた祖父が声を掛ける。
「少し話があって……。ドワーフの国は北大陸にありますよね? シュウゲンさんは、カルドサリ王国にどうやって来たんですか?」
「そうだの……。ダンジョンから他国へ繋がる魔法陣がある。これは100階以上を超える大型ダンジョンにしかないが、ある条件を達成すると利用可能になるんじゃよ」
やっぱり、他のダンジョンにも移転可能な魔法陣があるらしい。
「それは、例えばボスのような魔物を倒したりとかですか?」
「ふむ、まぁ似たようなものだ。儂は、ドワーフの国にあるダンジョンから直接カルドサリ王国へ来たでな。特級冒険者は、ダンジョンの魔法陣で移転可能な者だけがなれる。守秘義務もあるが、時空魔法を持つ沙良ちゃんに内緒にしたところで意味はなかろう。アシュカナ帝国へ行った父親が心配なのか?」
「ええ、それもありますが……。ちなみにドワーフの王は、どんな方ですか?」
「……国一番の鍛冶師じゃの。世襲制ではなく、火竜が認めた者が王になる」
「ではドワーフの国は、ケスラーの民達をイフリートが守っていたように、火竜が守護しているんですね」
「あぁ、沙良ちゃんには見えておったか」
昨日の襲撃時、イフリートが顕現したのを冒険者達は知らない。
兄達が何も言わないのは、見えなかったからだろう。
リーシャはエルフの血を引いているから、精霊の姿が見えたのかしら?
何を話しているか言葉は分からなかったけど……。
「ドワーフ王は火の精霊王から加護を貰っておる。そろそろ、代替わりしていい頃だがの。まだ奉納の儀で認められた者がおらんみたいでな、ずっと変わらぬままじゃ」
う~ん。
ここまで聞いても、自分が王だと話さないのは何か理由がありそうだ。
探し出した妻との身分差を考えての事だろうか?
ドワーフ王は鍛冶の腕が良い人物との認識で、国の政には関わってなさそうだけど……。
「鍛冶の腕なら、シュウゲンさんが王になれそうですね!」
「そうか、嬉しい事を言ってくれるの」
にこにこと笑うシュウゲンさんは、ボロを出しそうにない。
自分が王だと忘れてしまってるんじゃないかしらね。
「ダンジョンから行ける魔法陣の移転先は、どれくらいあるんですか?」
「見つけたダンジョンの階層により変化するようだが、儂が移動出来るのは20ヶ国ある」
「南大陸も含まれてますか?」
「いや、中央大陸と北大陸に西大陸だけだの」
「そうですか、教えて下さりありがとうございます」
シュウゲンさんにお礼を伝え自宅へ帰る。
私達が発見した隠し部屋にある移転陣は、移動先が100あった。
これは、ダンジョンマスターが召喚した大型魔物を倒した特典だろうか?
明日は111階層から調べよう。
そう思いながら竜の卵へ魔力を与え直ぐ眠りに就いた。
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