「ところでバールよ、よく西大陸の国を知っておったな」
「ええ……。我が一族のサキヨミが予言した地を下見した事がありまして……」
サキヨミとな? 未来視をする者かの?
バールが属する種族にとって、ここは重要な地であるらしい。
「そうか、他の階層も調べたい。黒曜、悪いが元の場所へ戻ってくれ」
『承知しました』
出てきた小屋の前に降り、再び魔法陣の上に立ち次の階層を押す。
地下101階は同じ北大陸にあるパジャン王国で、ワイバーンの鱗を取りに一度行ったから、ここは直ぐに分かる。
その後も調べた結果、地下101~地下109階までは北大陸の国へ繋がっているのが判明した。
地下99階の安全地帯で1泊し、翌日から地下110階の移転先を確認していくが……。
地下110階~地下119階は扉が開かず外に出られなかった。
移転先へ行くには何か条件を満たす必要がありそうじゃ。
地下120階~地下129階は獣人が住む中央大陸で、ここもバールが行った事があり教えてくれた。
現在獣人を束ねるのは獅子族の王らしく、地下120階のア・フォン王国になるようだ。
獣人の種族だけ国があり、非常にややこしい国名が付けられておる。
全て〇・フォンいう国名は覚えるのが難儀しそうだの。
ア・フォン王国では獣人達の武闘大会が開かれており、大変な賑わいをみせていた。
獣人なら何か身体的特徴があるかと思っていたが、見た目は人間と変わらず尻尾や耳はない。
バールに聞いたところ、族長の血筋だけが獣に変態する能力を備えているみたいだ。
ならば、鳥系の種族は自分で空を飛べるのかと少しだけ羨ましく感じる。
通りは腕に覚えがある若者共で溢れ、活気的な様子に血が湧きたった。
儂も参加してみようかの? ふと思い立ち受付場所を探していると、特徴的な種族が目に入ってきた。
おおっ!! あの豊満な胸は……、バニーちゃんではないか!?
彼女達は露店を出し、葉物野菜を売っている。
食の好みも種族に関係するのかの? ならば、お近づきになれる効果抜群な野菜がある。
マジックバッグから人参を出し、バニーちゃんがいる露店へ足を向けようとした瞬間。
黒曜が、もの凄い勢いで人参を持った手まで口に入れる。
『ご主人様。私の好物をよくご存じですね!』
こやつは竜馬だから、人参が好きであったらしい。
しかし、今まで一度も餌を与えた事はないんじゃが……。
急に食べたりして腹を壊さんか心配だ。
そもそも、食事が不要な魔物に消化器官はあるんだろうか?
1本食べられてしまったが、マジックバッグにはまだ沢山人参が残っている。
気を取り直して2本目の人参を取り出すと、それもまた黒曜がパクリと食べてしまった。
その後、全ての人参を出した端から黒曜に取られ、バニーちゃんと親交を深めるチャンスを逃してしまう。
非常に残念だが、彼女達と仲良くなるのは次の機会にするか……。
肩を落とし大会に参加登録しようとしたところで、血気盛んな若者が突っかかってきた。
「おいおい、場違いな子供がいるぞ! 獣王を決める武闘会で恥を晒す心算か? 何の種族か知らねえが、参加するのは止めた方が身のためだ」
見た目から侮っていると分かる口調で、大柄な若者が大声を上げ嘲笑する。
馬鹿め、少なくともお主よりは儂の方が強いわ。
相対し力量を判断出来ぬ時点で、大した技量ではないな。
相手にする必要もないだろうと無視を決め込み、受付まで歩こうとしてバールに引き留められた。
「シュウゲン様。資格詐欺になるので、大会へ参加するのは無理です」
何だと? 受付に貼られた参加要項を確認したら、参加資格に獣人のみとある。
先程の若者が獣王を決めると言っておったな……。
ならば、大会に出場出来るのは獣人のみであるのも頷ける。
つまらんのぅ。
せっかく、強者と戦える貴重な場であったのに……。
参加登録をせず儂が帰る姿を見た周囲の若者に冷やかされ、不快な気分を味わう。
ただこのまま帰るだけというのもつまらぬので、武闘大会の観客席へ向かった。
大会は1週間開催されるようだが、参加受付は今日が最終日だったらしい。
明日からの開始を前に、今日は余興として大会に参加しない者が演舞を披露するという。
見ておいて損はないだろうと黒曜を待機させ、バールと共に円形の闘技場に入った。
観客席は、ほぼ満席で後ろの方しか空いておらず階段を一番上まで上り席に着く。
既に、2人の屈強な男が槍を手に演舞をしている最中で観客の熱気が伝わってきた。
どれどれ獣人の技量はいか程かの?
演舞している2人をよく見ようと身を乗りだした途端、強い視線を感じて広場中央から右前方へ顔を向けた。
貴賓席と分かる豪華な天幕が張られた場所にいた人物が席を立ち、こちらを凝視する姿は遠目からも何かに驚いている様子に見えた。
バールがこそりと獅子王ですと耳元で囁き、相手が誰であるか知る。
現在の獣王が驚いて腰を浮かせるような人物が近くにいるのか?
視線だけを動かし周囲を探ってみるも該当するような人物は見当たらず不思議に思っていると、獅子王が両手を握り合わせ額に付ける仕草をしたあと深々と一礼する。
まるで上位の人物に対する立礼に、どこかの王族がお忍びで観戦しているのだろうと気付かぬ振りをし我関せずな態度を装っていたら、獅子王が敬う態度を見た観客が騒めき始めこちらに注目が集まった。
儂は関係ないぞ? 誰だか知らぬが、人騒がせな御仁だ。
そう思っていたのに演舞していた2人がぴたりと動きを止め、儂の方を見るなり顎を落とし驚愕したように目を瞠る。
続いてばさりと音がしたかと思うと、背中から大きな羽を生やし2人が飛んでくる。
鳥系獣人だったのか! しかも変態は、全身じゃなく羽だけを生やす事が可能らしい。
その生態にはビックリじゃ!
普段は、どのように羽が体内に収納されておるのか呑気に考えている場合ではない。
あっという間に2人が儂の前へ降りて片膝を突き、
「是非、風槍の奥義を見せて下さい!!」
見事に声をハモらせ言い募った。
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