ガーグ老達と夕食を食べ終えた後、また来週くると伝えて工房を後にした。
ホームの自宅へ戻り、先程の話を2人に聞いてみる事にする。
私は酔い覚ましに濃い緑茶を淹れて話を切り出した。
「お兄ちゃんも旭も、ご老人達には将棋の指し方に癖があるから知り合いに似ていると思ったんだよね? ガーグ老も同じ事を言っていたけど……」
「あぁ、料理に例えると分かり易いかもしれんが、例えばサヨさんと母が作る味は似ているだろう? それはサヨさんが母に教えたからだと思う。同じように、母から料理を習ったお前はサヨさんが作る味に似ている。鯖の煮付けを、サヨさんと母と沙良に旭の母親が作ったとしよう。目隠しをして、それぞれ誰が作った料理か当てようとすれば、確実に旭の母親の分は分かるだろう。だが、3人の味付けは似ているから当てるのは難しい」
兄が長々と説明をしてくれたけど、私の理解力が足りないのか何が言いたいのか今一ピンとこなかった。
「要するに、将棋も同じ人間に師事を受けたら指し方が似るんだ。俺達は祖父と父に習ったから、指し方も祖父や父に似ているんだろう。そして他に雅人と遥斗が、将棋を教えてもらっている」
「ううんっと、それじゃお爺ちゃんとお父さんと雅人に遥斗が同じ将棋の指し方をするって事?」
「まぁ一概にそうだとは言えないがな。何度も対局をすれば、指し方も変えてくるだろう。ただやはり得意な戦法は個人によって違いがあるし、その種類も多い。どれだけ多くの戦略を知っているかで勝敗は決まるんだ」
「ガーグ老が、お兄ちゃん達と対局後に護衛していた王族の方と指し方が似てると言ったのは?」
「俺が沙良に召喚される前、4人はピンピンしていたぞ? 旭みたいに、突然心臓発作を起こす可能性はあるかも知れないが……。少なくとも生きていたのは確かだ」
「でもそれじゃ、話がかみ合わないよね。私達が異世界にきた後亡くなって、時間軸がズレた時代へ転生したのかな?」
「その王族の人に会ってみたいよね! もしかして、賢也達の家族かも知れないし!」
能天気な旭は簡単に言うけど……。
「う~ん、ガーグ老の伝手で会わせてもらうのは難しいんじゃないかしら? それに相手は王族だよ?」
そして私は公爵令嬢の身分を隠しておきたい。
もし身内が私達より先に異世界へ転生か転移しているのなら、会いたいのはやまやまなんだけどね。
兄も実際行動に移しはしないだろう。
あれっ、ガーグ老は女性だと言ってたけど……。
「お兄ちゃん、王族の方は女性なんだよね? 遥斗だったら直ぐに順応しそうだけど、3人だったら大変そう!」
「遥斗だって一応男なんだから、そんな風に言うんじゃない。まぁ確認を取る方法が今の所なさそうだから、この件は保留だな」
そう兄は結論付けて話を終わらせた。
旭は少し納得いかない様子だったけど、権力者に近付く行為は危険すぎる。
何の対策もせず安易に行動すべきじゃないと私も思う。
身分制度がある異世界で王族は最大の権力者だ。
せめて両親を召喚後、相談して安全に接触できる方法を考えないと……。
その夜は、色々と考えてしまい中々寝付けなかった。
お爺ちゃんやお父さんなら、そんなに心配はいらない。
でも双子達の内、遥斗は雅人がいないと不安で堪らないだろう。
雅人は、まぁ問題ない気がするなぁ~。
月曜日。
今日から5日間またダンジョン攻略。
階段へ一直線に、地下1階から地下11階まで駆け抜ける。
兄とフォレストを置いて、私と旭は再び地下11階から地下14階まで駆け抜けた。
安全地帯に着いてマジックテントを設置後、休憩したら攻略開始。
アマンダさんとダンクさんのパーティーは先週帰還しているから、まだ安全地帯に到着していなかった。
シルバーの背に乗り安全地帯を抜ける。
トレントの森付近に到着したら、ハニーのお迎えだ。
今日もハニーがマジックバッグ3㎥を口に咥え差し出してくる。
「ハニーのコロニーが沢山薬草を採取してくれたお陰で、またポーションの値段が安くなるんだって! 頑張ったね~」
そう言ってハニーを褒め、頭をよしよしと撫でてあげる。
ハニーは、嬉しそうに触覚をピコピコさせ喜んでいた。
自分のコロニーが役に立ち、ちょっと自慢しているようにも見える。
従魔とはまだ会話が出来ないけど、なんとなく思っている事が分かるのだ。
マジックバッグ3㎥の中身をアイテムBOXへ移し替え、キラービーの首に掛けると飛び立つ。
今日も、よろしくね!
ハニーを連れシルバーの下へ移動すると、フォレストウサギが1匹地面に横たわっていた。
どうやら、この短い間に狩ったらしい。
こちらも回収し、褒めて褒めてと尻尾をブンブン大きく振るシルバーの頭を何度も撫でてあげる。
従魔達はスキンシップが大好きだ。
これでテイムLvが上がるかどうかは不明だけど……。
キウイフルーツ&迷宮タイガーを収納して、午前中は薬草採取の時間。
今日も楽しく癒し草を探し2時間程すると、マッピングにダンクさんのパーティーがキングビーと交戦している姿が映った。
ハニーの姿を見られたくないのでかなり距離が離れているけど、いつもと様子が違い少々苦戦しているようだ。
魔法士の人が、地下14階までくる間に魔力を使い切ってしまったのだろうか?
もう少し詳しく見ようと拡大すると、人数が1人足りない。
おや?
何かあったみたいだ。
私はハニーへ、ここで待機してねとお願いし、シルバーと一緒にダンクさんパーティーの近くへ移動した。
現在4匹のキングビーが、まだ生きて空中を飛びまわっている。
既にリリーさんが毒針で刺されたのか、戦力外となり地面に座り込んでいた。
毒針に刺された時は動かない方がいい。
下手に動いてしまうと、毒が早く体に回ってしまう。
「ダンクさん、助けは要りますか?」
「あぁ、サラちゃん悪い。旭を呼んで、リリーを治療してくれ!」
おっと、私はどうやら戦力として数えられていないようだ。
ここは魔法士として活躍する場面だよね!
「サンダーボール!」
4匹のキングビーに向かい私は魔法を撃った。
普段はドレインで昏倒させるけど、流石に見せる訳にはいかない。
雷系の魔法は、以前ダンクさんを蘇生する時に一度使用したので大丈夫。
感電したキングビーがボタボタと地面に落ちてきた所、ダンクさんのパーティーメンバーが止めを刺した。
私は真っ青な顔をしたリリーさんに、兄と旭が浄化済みのポーションを「毒消しポーションです」と言って渡す。
彼女は言われた内容に首を傾げていたけど、もう一度「早く飲んで下さい!」と強くお願いしたら目をぱちくりしながら飲んでくれた。
さて、ちゃんと効果はあるかしら?
リリーさんが刺されたのは左腕なので、露出している腫れた部分を注視すると、徐々に肌色が回復し腫れが引いていく様子が見て取れた。
うん、毒消しの効果はバッチリね!
直接魔法を使用するより、少し時間が掛かるくらいだ。
見ていたダンクさんが驚いた声を上げる。
「おいおいサラちゃん、エリクサーを飲ませたのか!?」
「いえ、違いますよ? 今日から販売される『毒消しポーション』です」
「毒消しポーションだって!?」
ダンクさんのパーティーメンバー全員の声が綺麗にハモったのだった。
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