アイテムBOXから取り出したトレントに定規を当て、幅3cmになるよう線を入れる。
ウィンドボールをカッターのようにイメージし、水平になるよう切り出していった。
現在あるのは66枚の座面なので、追加で必要なのは114枚だ。
幅1mのトレントから33枚出来るので、4個分を切り出せばよい。
魔法でするので時間はそう掛からなかった。
私が4個分のトレントの座面を作り終える間に、10人の職人さん達は脚と補強材を作ってくれたようだ。
これで後は、丸椅子を組み立てるだけで済む。
「サラ……ちゃん。こちらは終わったが、本当に組み立てはせんでいいのか?」
どうもガーグ老は、私の名前を呼ぶのに躊躇いがあるらしい。
「呼びにくかったら、サラと呼び捨てにしてもらっても構いませんよ?」
「それはいかん! 儂が悪いのだ。呼び方については、早く慣れるように努力しよう」
「はぁ……。組み立ては私がするので大丈夫です。こんなに早くして頂いて、本当にありがとうございました。トレントの加工費用は、お幾らでしょうか?」
「なに、大した作業でもないし、お金なぞ取ったりせぬ。それで代わりといってはなんだが、儂らは男所帯だで何か料理を作って食べさせてもらえんかの?」
なんと加工費用の代わりに、料理で良いと提案された。
掛かった時間も30分程だったし、幼く見える私からお金を取るのは可哀想だと思ってくれたのだろうか?
「本当に私の作る料理で良いんですか?」
「あぁ、サラ……ちゃんの作った料理が食べたいのだ。『肉うどん店』には、よく通っておるぞ?」
なら、お店の常連さん達か……。
現在時間は10時を少し過ぎた頃。
今日は午後からサヨさんとスーパー銭湯に行く予定があるので、今から何の料理が作れるか考えてみる。
年齢的にも皆が高齢者だ。
その割には、鍛えあげられた肉体をしているけど……。
きっと本職は家具職人ではないだろうと思い、その筋肉に見合う肉料理にしよう。
私は材料を切るだけで出来る『バーベキュー』にする事にした。
お礼を兼ねているので、使用する肉はミノタウロスとハイオークのねぎまがいいかな?
野菜は、玉ねぎ・じゃがいも・人参・にんにくがあれば充分だろう。
「わかりました。準備をするので、少しだけ待っていて下さいね」
「おぉ、作ってくれるのか! ありがたい!」
そう言って、ガーグ老は満面の笑みを浮かべている。
本当に嬉しそうだ。
今まで、この工房では料理を作る人がいなかったのかしら?
私は簡易テーブルと『バーベキュー台』を出して、材料を切っていく。
男性10名分だから、少し多目の方がいいかも知れない。
切った材料を火を起こした『バーベキュー台』の網の上に載せ、表面に綺麗な焼き色が付くまで焼いていると周囲に美味しそうな匂いが漂ってきた。
ご老人達は待ちきれない様子で、既に自分達の取り皿と箸を準備して待っている。
『肉うどん店』ではフォークと箸を選べるようにしているけど、常連の皆さんは箸で食べる人が多いと聞いていた。
ここの人達は、普段から箸を使用して食べているみたい。
日本人として、ちょっと嬉しいな。
ここは少し奮発して、焼肉のタレも付けてあげよう!
「お肉や野菜に付ける『秘伝のタレ』があるんですが、皆さん試してみますか?」
焼肉のタレを入れた陶器の壺を出し提案してみれば、ガーグ老が前のめりになって取り皿を差し出してきた。
「そりゃもう是非!」
おおっ、凄い勢いで食いつかれたよ。
ガーグ老の後ろに、以下9人の職人さんが整列して待っている。
いやこの統率の取れた動きは、絶対に家具職人じゃありえないから!
皆さん、一般人に擬態するのが下手すぎる……。
他国の諜報員でない事だけは確かなようだけどね。
ああいった人達は、周囲と完全に同化する高度な訓練を受けている専門家だ。
私のような一般人では、一生見分ける事は出来ないだろう。
その点、ここの老人達は非常に分かり易い。
まぁ悪い人達ではなさそうだ。
整然と並んだ老人達の取り皿に焼肉のタレを入れてあげる。
後は網の上から各自好きな肉や野菜を取って食べて下さいと言えば、皆がねぎまに集中していた。
そしてガーグ老が一言放つ。
「旨い! 誰か、酒を持って参れ!」
「はっ、今すぐ持って参ります!」
2人がその場から離れ、数分後に店舗からお酒を持って帰ってきた。
行動が早すぎる!
もうこの人達、隠す気が全くないんじゃないかしら?
どう考えても軍人さんの匂いがするよ!
異世界では騎士団になるのかな?
それが元なのか、現在の姿がカモフラージュであるのかは定かじゃないけれど……。
部下らしき人がお酒を注いで手渡すと、ガーグ老が一気飲みする。
それを見た残りの9人も、一斉にお酒のグラスを持って飲み出した。
え~っと皆さん、まだお昼前ですけど?
今日の仕事は大丈夫なんですかね?
その後も、予想通り年齢の割に健啖家であったご老人達は、多めに切った肉や野菜を残さず食べていた。
皆が「旨い! 旨い!」と言いながら食べてくれたので、ちゃんとお礼にはなっただろう。
ここはデザートも付けてあげよう。
男性は果物の皮を剥くのを面倒くさがる傾向にあるので、そのまま食べる事が出来るシャインマスカットを出した。
『奏屋』では、高級フルーツとして販売している物だから食べるのは初めてだろう。
房からちぎって一粒口にした途端、皆が満足そうな表情をする。
良かった、美味しいと思ってくれたようだ。
「サラ……ちゃんは、冒険者をしておるのだろ? 武器は何を使っているのだ?」
私は魔法士だけど武器となると……。
ガーグ老から尋ねられ、無難に答える事にした。
「槍です」
ステータスに、槍術は表示されないけどね~。
「槍かの。儂は少し腕に覚えがあるのだ。よければ稽古を付けてやるぞ? お仲間も一緒にどうだ?」
うん?
何故、槍の稽古を付けてくれるの?
「ええっと。大変ありがたい申し出ですが、一度兄と相談してみます」
「何、遠慮する事はない。儂らは暇な爺ばかりだ。家具も老後の楽しみに作っておるにすぎんからの」
そう言って、ガーグ老が笑う。
う~ん、引退した何処かの騎士団員さん達なのかしら?
でも稽古を付けてくれるのは、少し魅力的な提案だと思う。
B級冒険者にもなって、今更冒険者ギルドの無料講習を受ける事も出来ないし……。
旭も、ちゃんと教えてもらえれば体術と剣術が身に付く可能性がある。
兄は、どうだろう?
毎週ジムに通うくらいだから、体を動かす事は嫌いじゃないと思うけど……。
武術に興味があるかしら?
家に帰ったら2人に聞いてみよう。
「何か必要な物があれば、いつでも作るからの。なに、また料理を作ってくれればそれで良い」
「わかりました。まだテーブルが必要なので、今度また美味しい料理を作りに来ますね」
クリスマス会に必要なテーブルが、準備出来ていないので再びお願いしに来る事を伝え、その場を後にした。
ガーグ老とその部下9人達とは、この日が最初の出会いだった。
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