悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

07ヴァイス、襲来。

公開日時: 2021年7月20日(火) 21:05
文字数:2,264



「で、働くことになったのか……。

 お前、もしかしなくてもバカか?」


「そんな言い方ないじゃない。これでも私なりに考えたのよ?」



 月曜の昼休み、二年の教室に突撃してきたヴァイスを、誰も認識できていなかった。

私自身も、目の前にいたはずの彼を、突然現れたかのように思ったのよね。

これって、影が薄いというよりは、もはや超常現象よ。

まあ、彼が魔術師なら納得ではあるんだけどね。



「はー……。お前さんには、もっと効率のいい情報収集の方法があったんだがな」


「なによ、方法があるなら先に教えてよね」


「んー、でもなぁ……。教えると、俺の稼ぎが減るしなぁ……」


「なによそれ。その方法を使えば、簡単に稼げるみたいなものなの?」


「いや、お前さんのスキルさ」



 その言葉に、体を静電気が走ったようにびくりと反応してしまった。

自分のスキル、それは学園に通う者が血眼になって探すもの。

いえ、むしろ学園自体が、スキルを発見させるための施設。


 学園に入学し、卒業するまでにスキルを見つけなければ、免除されていた学費を卒業後払わなければならない。

それは、貴族であれば大した問題ではないけど、私のような平民にとっては大きなお金。

卒業したって、学費を払うために奴隷のような生活環境に陥る人も多い。

けど、スキルさえ発見、というか自覚し、報告すれば、学費はそのまま返さなくてよくなるのだ。

しかも、スキルの有用性次第では、高待遇の仕事が斡旋される。

スキルがわかるかどうかは、平民の特待生にとっては、天国と地獄の分かれ道なのだ。


 だからこそ、誰もが自分のスキルを発見しようとする。なのに、見つけられないでいる。

自分ですらわからないような、見つけにくいものなのだ。

なので彼が私のスキルを看破してるなんてのは、考えにくい……。はず……。



「確かに、それは高値で売れそうな情報ね。

 でも、あなたが私のスキルを見破ったなんて考えにくいわ」


「いやいや、第三者目線ってのは、本人以上に理解を深めるものなのさ。

 むしろ、本人以上に相手を理解できねえヤツは、情報屋なんてやれねえだろ?」


「ま……、まぁそうかもしれないけど……。

 でも、あなた私のこと、何も知らないでしょ?」


「知ってるぜ? 何から聞きたい?

 家族構成? 借金の使い道? ガキの頃のやらかし?

 もしくは、スリーサイズ? 今日の下着の色も知ってるぜ?」


「ヘンタイ!!」



 咄嗟に飛び出た平手打ちは、いつかと同じく空を切った。

というか、一瞬で背景に溶けたような、存在が消えたような感覚がしたわ……。

もしかして、彼のスキルって「身体が空気になる」なんてスキルなのかしら!?



「いきなり消えるとか怖い……」



 ぞわっと全身を悪寒が走る。

自分で自分の身体を抱くように震えながら呟くと、彼はまたも背景から滲み出すように現れた。



「ま、これが俺のスキルだからな。

 存在感を完全に消すスキル。便利だぜ?」


「ホントに怖い……。悪用し放題じゃないの」


「実際、悪用してるけどな」


「暗殺も余裕そうね。あなたが鉄の死神なんじゃないの?」


「暗殺なんざ興味ねえな。めんどくせえし。

 なんたって、俺が直接手を出さなくてもな、口を出すだけで消せんだ。

 殺しなんざ、疲れるだけだし、万一捕まれば終わりだぜ? 割にあわねえっての」


「そういうものなのかしらね。よくわからないわ」



 情報を流すだけで消せる、か……。

これこそ、ペンは剣よりも強しってヤツなのかしらね。

まあ、彼らしいといえばらしいか。



「で、お前さんのスキルなら、効率よく噂くらい集められるって話よ。

 どうだ、この情報買う気はねえか?」


「どうせお高いんでしょう?」


「そりゃな。学費全額免除できる情報だ。

 俺にとっちゃ簡単に手に入る情報ではあるが、買うことによるリターンがデカイからな。

 お安くしてちゃ、商売にならねえよ」


「なら、やめておくわ。あなたが掴む程度の情報だもの、私だって卒業までには見つけられる……。はず……」


「最後、語気弱くなってんじゃねえか。ま、せいぜい頑張りな」


「えぇ、言われなくとも」


「そうだな……。手伝いもあるし、ヒントくらいはやるよ」


「高いんでしょう?」


「無料だ無料!」


「へー、何か裏がありそうね。後で請求はナシよ?」


「んな、みみっちいことしねえっての。ま、簡単な話。

 人間ってのはよ、自分にできることは他人にもできると思ってんだ。

 だからスキルを見つけられない。他のヤツもできると思ってるからな。

 よーく考えてみな。お前さんだけじゃない、みんなが普通と思って、自分の特別を見逃してる。

 全てを疑え。全てをいちから見直せ。そうすりゃ、あんたのスキル程度なら気付けるはずさ」


「なにそれ。なんか意味深なだけで、なんの情報もないじゃない」


「無料情報ってのは、その程度さ」



 言われてみれば、そうかもしれないけどね。

みんな、自分のできることは過小評価しがちだし、小さい頃からできているなら、それが普通と思うかもしれない。

彼みたいな、明らかに異質なものでなければ、簡単には気づけないよね。



「はー……。あなたはいいわね。すぐに分かりそうなスキルで」


「んなことねえぞ? 俺も自覚するまでには、色々とあったもんさ。

 それ以上に、自覚してから制御できるようになるまでの方が大変だったけどな」


「へー、意外ね」


「手伝いの出来次第では、教えてやってもいいぜ」


「えっ……。別に興味ないけど」


「ほーん。それが、エリーちゃん絡みであっても?」


「それは……」



 そう言われると気になる。

いえ、その前から、彼とエリヌス様の関係には興味があった。

貴族同士とはいえ、公爵と準男爵では、身分が違いすぎるのよね……。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート