悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

06敵対勢力

公開日時: 2022年8月5日(金) 21:05
文字数:2,010

 ヴァイスの情報によれば、私のあずかり知らぬところで王位継承権を持つ者たちの間では、なにやらきな臭い動きがあるようだ。

けれどそれは、殿方同士の話。こと球技大会においては、男女別で行われることで、私はその渦中からは外されていた。

もしこれが、同じく学園に生徒として通っている王位継承権を持つ女子生徒が存在していたならば、私も私の意図とは関係なく、その者と争わされていたのだろう。

ホント、そういう人が居なくて助かったわね……。


 私が余計な争いに巻き込まれずに済んでいることを安堵し、ついでにどうでもいい情報に金貨一枚とは言え払わされたことに若干苛立っていると、ミー先輩が申し訳なさそうに会話に入ってきた。



「あのー、先ほどの話って、本当なんでしょうか……」


「んぁ? お前は俺の情報を疑うってワケ?」


「いえ、そうではなく……」


「ヴァイスはこんなですけれど、情報屋としては一流よ。

 少なくとも私は、疑う必要はないと考えておりますわ」


「そうなんですか……」



 こんなとはなんだと、ヴァイスの不満げな声が聞こえたが、そんな言葉を発する前に自身の日頃の行いを顧みてほしいものね。

それにしても、ミー先輩が貴族の話に興味を持つなんて意外ね。



「けれど何か、気になることがあるのなら話していただけるかしら?

 この男、嘘をつくことはなくとも、結果的に嘘になる話をすることはあるかもしれませんもの」


「おいおいエリーちゃん、長い付き合いなのに俺を信用してねえってのか?」


「情報は多角的に見て検証する、それが大事なのはあなたもわきまえているでしょう?」


「まあ、そうだがなぁ……。で、お前は何が気になるんだよ?」



 不愛想に話のパスを投げ返されたミー先輩は、いつにもまして遠慮気味な雰囲気だ。

貴族の話に首を突っ込むんじゃなかった、なんて今さら考えているのかしら?



「その、気になるというか……。球技大会って、毎年ある行事なんですよ。

 だから、私は去年も参加しているんですが、そのなんというか……。

 そんな大事な行事の雰囲気なんてなかったように思うんですけど……」


「確かにそうね。毎年の行事なら、今年だけが特別なはずないもの。

 ヴァイス、まさかあなた、ガセ情報でもつかまされたんじゃないでしょうね?」


「お前らなぁ……。ちょっとは頭使えっての」



 わざとらしいため息と共に、やれやれといった様子のヴァイス。

こういう反応をするときは、大抵重要な情報を持っているか、もしくは確信を持っている時だ。

なのでわざわざその先を聞く必要はないのだけど……。まあ、聞くだけ聞いておきましょうか。



「あのな、去年だけじゃなく、その前からオズナ王子は留学で国内に居なかっただろ?

 だから、学園に入る前の中等部時代だって、行事で王位継承権持ち同士がカチ合うことなんてなかったんだよ」


「あっ、そういえばそうですよね」


「それにエリーちゃん、お前さんは行事でこそいざこざがなかっただろうが、他のとこじゃ身に覚えがあるはずだぜ?」


「…………。そうね、アルガス家の人間には、三男のテオ君以外には明らかな敵意を向けられているのは、なんとなく察していたわ」


「だろ? それが留学から帰ってきたことで、オズナクンに向けられてるってワケよ」


「本当、面倒なことになっているのね。王子には同情するわ」



 アルガス家とは、現国王の弟であり、私の母の弟でもある家系だ。

つまり現国王が長男で、母が長女、その弟がアルガス家の当主ということだ。

なので、もちろん母は自分の弟が、自分以上の地位につくなんてことは嫌がっているし、内心貶めたいとすら思っているだろう。

だからこそアルガス家の人間と私は、あまり仲が良くないのだ。


 そしてそのアルガス家子供、つまり私の従兄にあたるのが、例の幼稚な嫌がらせ保健医の、フリード・アルガスである。

もしかして、彼が夏休み明けに事を起さなかったのは、オズナ王子に標的を移したため……?

ヴァイスならうまくそそのかして、そういう風に仕向けたとしてもおかしくはないけれど……。



「あの、その話が本当なら、オズナ王子が危ないのでは……?」


「おいおい、俺らは気に入らなきゃ殴って済ます平民とは違うんだぞ?

 実際の仲が良い悪いに関係なく、表面上を取り繕うのは慣れっこだぜ?」


「貴族というのは、テーブルの上では笑顔で握手しながら、見えないテーブルの下では足を踏みあってるものなのよ」


「えぇ……」


「だからこそ、見えない実情を裏から持ってくる情報屋ってのがやってける世界なんだよ」


「面倒な貴族社会に巣食う害虫とも言えるわね」


「ちょっ!? エリーちゃんよ、さすがにそれは俺だって傷つくぜ?」


「この程度で傷つくほど、あなたって薄い面の皮でもありませんわよ?」


「言ってくれるぜ……」



 貴族ジョークをかわす私たちを眺めるミー先輩は、なにかとんでもないものを見ているような表情だ。

私も平民の生まれだったなら、もしかするとこんな風な反応を見せていたのかもしれないわね。

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