悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

10魔力切れと火元

公開日時: 2021年7月24日(土) 02:05
文字数:2,176



「ん……。あれ? ここどこ……?」



 気付いた時、私はおでこに濡れタオルを乗せられ、見知らぬ部屋で寝かされていた。

質素な木の家。周りには木箱が山積み。

そこまで確認して、頭を両手で押さえた。



「うぅ……。頭が痛い……」



 魔法の使い過ぎだ。無理して魔法を使うと、体調に異変が起こる。

前の魔法適正試験の時は、ずっとお腹が痛くなったし、小さい頃魔法で遊んでた時は、一晩中吐き気に襲われたっけな……。

限界まで魔法使うなんて、試験じゃなきゃ普通はしないわ。

でも、今回は仕方ないよね。だって、目の前で火事が起こってるのを見たんだもの……。


 確かあの後は……。思い出そうにも、頭が痛くて……。

そう! セイラさんの呼びかけに気付いた人が集まってきて、みんなで水魔法を使ったのよ。

それで火は消し止められたんだけど、結局八百屋さんは全焼。商店街まで燃え広がらなかったことだけが救いね……。



「おっ、嬢ちゃん気が付いたかい?」



 扉が開いて、入ってきたおじさんに声を掛けられた。

えーっと、どちら様?



「あの、ここは……」


「あぁ、うちの店の倉庫さ。火事があった八百屋の二軒隣にある、金物屋だ。

 嬢ちゃんのおかげで、ウチに燃え広がらずに済んだんだ。ありがとな」


「いえ、私は何にもできなくて……」


「いやいや、発見が早かったおかげで助かったんだ。

 ま、ともかくメシあるからよ、食べられるか?」


「あ、ありがとうございます……」



 おじさんはシチューとパンを出してくれた。

魔力の使い過ぎで体調は悪いけど、食事と睡眠を取るのが一番の回復法だ。

だから、無理してでも食べないとね。食べながら、その後の様子を聞いてみよう。



「あの、それで八百屋さんは……」


「残念だが全焼だ。ま、家の奴らは外出中だったんで無事だがな」


「よかった……。いや、よくないか……」


「命あるだけ儲けもんさ。しかし……」


「え? なにかあるんですか?」


「いやな、どうも燃え方が……」


「燃え方?」


「ああ。一番燃えたのが、店側なんだよ。

 まあ、それもあって、君らがすぐ見つけられたんだろうけどな」


「そっか、奥の家側が燃えてたら、私達も見ただけじゃ気づかなかったかも」


「だろ? で、あの店は」


「八百屋さん? あっ、燃えるものなんて、扱ってませんよね」


「そうだ。だから……、誰かが火を付けたんじゃないかと……」


「えぇ!? 本当ですか!?」


「いや、可能性の話な? 可能性の話」



 えー……。物騒な話だなぁ……。それにしても、誰が火なんて……。

えっ? もしかして、もしかしなくても疑われてる!?



「わっ! 私たちじゃないですからね!?」


「おいおい、疑ってねえっての。というか、犯人の目星は付いてるしな」


「え? そうなんですか?」


「あぁ。どうせ、いつもの地上げ屋だ」


「地上げ屋?」


「そうさ。この商店街、昔と比べて空き地が増えたと思わねえか?」


「えーっと……。私は昔から来ていたわけではないので……。

 空き地も、そのうち店が建つものかと思ってたので、気にしてませんでした」


「そうかい……。昔はもっと店が多くて、活気があったんだよ」


「そうなんですか」


「だがよ、最近とある貴族が土地を買い占めはじめてな。

 どうやら、この商店街を取り潰して、邸宅を建てるつもりらしい」


「えぇ……。なんでわざわざ、すでに人が住んでいるところに……」


「まあ、色々理由はあるんだがよ、この商店街は街の中でも、中心に近いだろ?

 つっても、昔は町外れだったんだが、移住者が増えて市街地が広がったからな。

 いつの間にやら、比較的中心に寄ったってことよ」


「そっか、貴族は王宮のある中心地近くに住みたがりますもんね。

 仕事の兼ね合いかなにかは知りませんけど」


「いや、王宮に近いほど、王との関係も近いっていうアピールらしいな。

 実際は町外れに邸宅を構えたって、仕事にゃ何にも影響ないって話さ」


「え? じゃあ、貴族のメンツのために、商店街を潰すんですか!?」


「ま、平たくいえば、そういうこった」


「ひどい……」



 貴族ってのはわがままなものだ。

それに、貴族同士の何かがあるのかもしれないけれど、だからって平民を好きに扱うなんて……。



「それで、金でなびかねえヤツってのを見せしめにな……」


「そんなことで火を付けたんですか!?」


「その前から、嫌がらせに客を装った下っ端使って、店に理不尽な苦情入れさせたり、店の前で喚いて妨害したり……。色々あるな」


「そんな……」


「だが、相手も計算が狂っただろうな。この辺は昔っからの木造建築だらけだ。

 全部一気に焼き払えるって思ってたんだろうが、そうはいかなかった。

 助かったのは、君らのおかげってわけさ。ありがとな」


「いえ、そんな……。ホントにたまたま通りがかっただけで……」


「そう謙遜すんなって。君らは俺たちを救った女神様さ。

 カノの旦那にも、皆で礼をしに行かなきゃな」



 そっか、同じ商店街だから、カノさんとも知り合いなんだ。

ということは、もしかしてカノさんも、同じように嫌がらせされてるのかな……。



「あっ……。あの、一緒にいたセイラさんは……」


「ああ、あの子なら、君の家に事情を説明しに行ったぞ」


「そうなんですか」


「また戻ってくるって話だから、ゆっくり休んでいってくれ」


「ありがとうございます」



 出してもらった食事を食べ終え、一息つく。

なんだか色々あって、どっと疲れが出てきた……。

肩とまぶたが重くなって、私は再び眠りへと落ちていった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート