「ん……。あれ? ここどこ……?」
気付いた時、私はおでこに濡れタオルを乗せられ、見知らぬ部屋で寝かされていた。
質素な木の家。周りには木箱が山積み。
そこまで確認して、頭を両手で押さえた。
「うぅ……。頭が痛い……」
魔法の使い過ぎだ。無理して魔法を使うと、体調に異変が起こる。
前の魔法適正試験の時は、ずっとお腹が痛くなったし、小さい頃魔法で遊んでた時は、一晩中吐き気に襲われたっけな……。
限界まで魔法使うなんて、試験じゃなきゃ普通はしないわ。
でも、今回は仕方ないよね。だって、目の前で火事が起こってるのを見たんだもの……。
確かあの後は……。思い出そうにも、頭が痛くて……。
そう! セイラさんの呼びかけに気付いた人が集まってきて、みんなで水魔法を使ったのよ。
それで火は消し止められたんだけど、結局八百屋さんは全焼。商店街まで燃え広がらなかったことだけが救いね……。
「おっ、嬢ちゃん気が付いたかい?」
扉が開いて、入ってきたおじさんに声を掛けられた。
えーっと、どちら様?
「あの、ここは……」
「あぁ、うちの店の倉庫さ。火事があった八百屋の二軒隣にある、金物屋だ。
嬢ちゃんのおかげで、ウチに燃え広がらずに済んだんだ。ありがとな」
「いえ、私は何にもできなくて……」
「いやいや、発見が早かったおかげで助かったんだ。
ま、ともかくメシあるからよ、食べられるか?」
「あ、ありがとうございます……」
おじさんはシチューとパンを出してくれた。
魔力の使い過ぎで体調は悪いけど、食事と睡眠を取るのが一番の回復法だ。
だから、無理してでも食べないとね。食べながら、その後の様子を聞いてみよう。
「あの、それで八百屋さんは……」
「残念だが全焼だ。ま、家の奴らは外出中だったんで無事だがな」
「よかった……。いや、よくないか……」
「命あるだけ儲けもんさ。しかし……」
「え? なにかあるんですか?」
「いやな、どうも燃え方が……」
「燃え方?」
「ああ。一番燃えたのが、店側なんだよ。
まあ、それもあって、君らがすぐ見つけられたんだろうけどな」
「そっか、奥の家側が燃えてたら、私達も見ただけじゃ気づかなかったかも」
「だろ? で、あの店は」
「八百屋さん? あっ、燃えるものなんて、扱ってませんよね」
「そうだ。だから……、誰かが火を付けたんじゃないかと……」
「えぇ!? 本当ですか!?」
「いや、可能性の話な? 可能性の話」
えー……。物騒な話だなぁ……。それにしても、誰が火なんて……。
えっ? もしかして、もしかしなくても疑われてる!?
「わっ! 私たちじゃないですからね!?」
「おいおい、疑ってねえっての。というか、犯人の目星は付いてるしな」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。どうせ、いつもの地上げ屋だ」
「地上げ屋?」
「そうさ。この商店街、昔と比べて空き地が増えたと思わねえか?」
「えーっと……。私は昔から来ていたわけではないので……。
空き地も、そのうち店が建つものかと思ってたので、気にしてませんでした」
「そうかい……。昔はもっと店が多くて、活気があったんだよ」
「そうなんですか」
「だがよ、最近とある貴族が土地を買い占めはじめてな。
どうやら、この商店街を取り潰して、邸宅を建てるつもりらしい」
「えぇ……。なんでわざわざ、すでに人が住んでいるところに……」
「まあ、色々理由はあるんだがよ、この商店街は街の中でも、中心に近いだろ?
つっても、昔は町外れだったんだが、移住者が増えて市街地が広がったからな。
いつの間にやら、比較的中心に寄ったってことよ」
「そっか、貴族は王宮のある中心地近くに住みたがりますもんね。
仕事の兼ね合いかなにかは知りませんけど」
「いや、王宮に近いほど、王との関係も近いっていうアピールらしいな。
実際は町外れに邸宅を構えたって、仕事にゃ何にも影響ないって話さ」
「え? じゃあ、貴族のメンツのために、商店街を潰すんですか!?」
「ま、平たくいえば、そういうこった」
「ひどい……」
貴族ってのはわがままなものだ。
それに、貴族同士の何かがあるのかもしれないけれど、だからって平民を好きに扱うなんて……。
「それで、金でなびかねえヤツってのを見せしめにな……」
「そんなことで火を付けたんですか!?」
「その前から、嫌がらせに客を装った下っ端使って、店に理不尽な苦情入れさせたり、店の前で喚いて妨害したり……。色々あるな」
「そんな……」
「だが、相手も計算が狂っただろうな。この辺は昔っからの木造建築だらけだ。
全部一気に焼き払えるって思ってたんだろうが、そうはいかなかった。
助かったのは、君らのおかげってわけさ。ありがとな」
「いえ、そんな……。ホントにたまたま通りがかっただけで……」
「そう謙遜すんなって。君らは俺たちを救った女神様さ。
カノの旦那にも、皆で礼をしに行かなきゃな」
そっか、同じ商店街だから、カノさんとも知り合いなんだ。
ということは、もしかしてカノさんも、同じように嫌がらせされてるのかな……。
「あっ……。あの、一緒にいたセイラさんは……」
「ああ、あの子なら、君の家に事情を説明しに行ったぞ」
「そうなんですか」
「また戻ってくるって話だから、ゆっくり休んでいってくれ」
「ありがとうございます」
出してもらった食事を食べ終え、一息つく。
なんだか色々あって、どっと疲れが出てきた……。
肩とまぶたが重くなって、私は再び眠りへと落ちていった。
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