悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

04裏切りの情報屋

公開日時: 2022年2月14日(月) 21:35
文字数:2,267

 勝負する前から勝ち誇ったようなフリードに、内心あきれつつヴァイスは平静を装い問いかける。



「では、フリード様はいかようにして、その宿敵を排除するおつもりでしょうか?」


「ははは、君は私から情報を仕入れたいということだね?」


「そう思われても仕方ないでしょう。けれどどちらかといえば、私めの心情は心配の方が多数を占めております」


「おやおや……。まさか君に心配されているとは、予想外もいいところだね」


「フリード様はお得意様ですから、当然かと」


「私たちは、あくまでビジネス上の付き合いというわけだね」



 お互い腹の内を探りあっているような会話であるが、言うまでもなくヴァイスの方が一枚も二枚も上手だ。

もちろんこの場でそのような客観的事実を知るのは当のヴァイスだけだが。



「ええ。ですから、フリード様が広めたくない話であれば、そのようにおっしゃって下さいませ。

 情報屋は情報を流すだけの仕事ではありません。情報を操るのが、本来あるべき姿です。

 当然宿敵の排除法もまた、口止めのご指示をいただけるのであれば、どのような報酬を提示されても、どのような拷問を受けようとも、外部に漏らすことはありませんよ」


「情報屋はただの噂好きとは違うと言いたいのだね。

 であるならば、口止めと邪魔をしないと約束させた上で、方法を語るのもやぶさかではない。

 しかし君がそうしているように、情報には対価が必要ではないかね?」


「では、こういうのはいかがでしょう。

 私はフリード様の計画を聞き、私の持つ情報から、穴や抜けが無いかを見定め、より成功率の高い方法を提案する。

 もちろん、フリード様がその提案を受けるかどうかはお任せいたしますが、一人で考え一人で実行されるより、良いものが出来上がるのではないでしょうか」


「なるほど、悪くない提案だ……。だが今は、君がどこまで知っているか気になるね。

 どうして君は、私が一人で実行しようとしていると思っているのだい?」


「もちろん、聞き及んでいるからですよ。セイラに協力を要請したものの、断られてしまった件につきましてもね」


「まったく、君にはどんな隠し事もできないってわけかい?

 まるで君の知らないことは何もないのかと思うほどだよ」


「ははは……。私を知る者はみな、そのようにおっしゃいます。

 けれど、フリード様にもそろそろ慣れていただきたいものです。これからも末長く取引することになるでしょうからね」


「そうだね。私としても、君とは良い関係を保ちたいものだよ」



 お互い笑みを浮かべ、乾ききった笑い声をあげる。

しかしその冷めきった様子に反し、フリードは意外なほどに乗り気であった。

奏でていた防衛用の音楽を止め、前のめりに語りだしたのだ。



「では、私の宿敵である、エリヌス君への今後の対応を話しておこうか。

 ぜひとも君の意見も教えてくれ。次こそは目的を完遂し、彼女を私の視界から消し去りたいと思っているのだ」


「できる限りのご協力をお約束いたしましょう」



 そこから始まったフリードの作戦披露は、ヴァイスをうんざりさせるには十分だった。

なにせ内容が、以前から行っていたとエリヌスの口から聞かされた、幼稚で些細な嫌がらせと大差なかったからだ。


 それは、たとえば上履きを隠したり、もしくは昼食を食べられないよう、食堂や売店の商品を買い占めたり……。

または買収や脅迫によって、同じクラスの者たちから無視されるように仕込んだりなどなど……。


 宿敵を追い詰めると言葉上は言っていたとして、やることといえば嫌がらせか、もしくはイジメと呼ばれるものだ。

彼女がそのようなことで屈する相手でないことは、ヴァイスが誰よりもよく知っている。


 むしろ少々の嫌がらせは、オズナ王子の目がある状態では逆効果である。

彼はエリヌスに嫌われるよう振る舞っているが、その実陰ながら彼女を見守っているのだ。

そして公爵令嬢ということで、クラス全員から「触らぬ神に祟りなし」と、腫れ物のように扱われているのだから、全員で無視させるのも、今の現状とそう大差ない。


 これでは最悪の場合、オズナ王子がエリヌスとよりを戻そうとする可能性も出てくる。

そのような危機感をヴァイスに持たせるには十分なほどに、穴だらけの計画だったのだ。


 しかし、内心ため息をつくヴァイスのことなど知るはずもないフリードは、ニヤリと笑みを浮かべ、勝ち誇った表情を隠すこともなかった。



「どうだい、素晴らしい計画だろう?」


「ええ、計画通りにゆけば。しかし本当に、それで彼女が学園を出ていくでしょうか」


「フン、どうせ甘やかされたお嬢様だ。邪魔さえ入らなければ、我慢が利かずに癇癪を起こすに決まっている。

 問題を起こさせさえすれば、居た堪れなくなって学園を出ていくだろうさ」


「なるほど……。フリード様はお優しい方ですね」


「なに? 私が優しいだと?」


「ええ。学園を出ていくだけでお許しになるとは、非常に寛大な方だと私、感動いたしました」


「ほう……。では君なら、もっと追い詰めることができると?」


「私なら、国外追放まで持っていける方法を考えますね。

 でなければ仕事をしている間に、大切な弟君を取られないかとヒヤヒヤする日々を送ることになるでしょうから」


「それは許せん。しかし、そのような方法など……」


「ありますよ? お聞きになられますか?」



 ニヤリと、ヴァイスは本当の悪い笑みとはこういうものだと語るように笑う。

その表情に、背筋に冷たいものが流れるのを感じるフリード。



「いいだろう。いくらだ?」


「まいどありがとうございます」



 だが、恐ろしいと思っていても、その先を聞かずにはいられなかった。

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