悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

10悪役令嬢は凄腕アタッカー

公開日時: 2021年9月18日(土) 02:05
文字数:2,054

 ミー先輩との打ち合わせを終え、プールの様子を覗けば、そこには予想外の光景があった。

なんと王子が、すでにセイラと仲良くなっていたのだ。

まあ、そういうふうに見えたのは、私の思い違いだとは思うのだけど、二人が話をしていたのには変わりない。


 ただの平民と王子の運命の出会い。

この先、二人の家柄という壁を乗り越える、胸高鳴る展開っ……!

なんて、恋愛小説を読み耽っている人ならば妄想するところだろう。

事実そういったストーリーのようだし、私には願ってもない展開だ。

だが、その様子を見たミー先輩が、顔を青ざめさせて私の様子を伺っていたのは、言うまでもないだろう。



「あっ、あのっ! エリヌス様……。暑いですし、もう少し屋内にいた方が……」


「お気遣いありがとう。けれど、暑いならなお、水の中に入ってしまった方がいいのではなくて?」


「ひえっ……」



 満面の笑みだったはずなのに、ミー先輩は恐怖の声を上げる。

まったく、私は笑っている方が怖いと言いたいのかしら?



「さて、ゆきますわよ」


「ひえぇぇ……」



 頑として動きたくないといった様子のミー先輩の手首をつかみ、私たちはふたりの元へと向かう。

王子の背中越しに見るセイラの顔は、いつも通り無表情だった。



「オズナ王子、お待たせして申し訳ありません」


「ああ、エリヌス。どこへ行ったのかと思ったよ」


「知り合いが居たもので、少々お話を」


「そうだったんだね」


「それで、彼女と何かありまして? ずいぶん仲良さげに見えましたけれど」


「ああ、君の専属メイドが彼女と一緒に居たのを見てね、お友達かと思ったんだ。

 話を聞けば、同じ一年でクラスも同じだと言うじゃないか。

 偶然クラスメイトに会うなんて、嬉しいと思ってね」


「クラスメイト……、ですか」



 王子は私と同じクラスになるよう手配したと言うし、知り合いを先に作れたと喜んでいるのだろう。

けれど、そのクラスメイトというものは、色々と面倒ごとを孕んでいる相手なのだけど……。



「それで、そちらの方も同じクラスの人かい?」


「いえ、こちらは一年上のミー先輩です。

 少々縁あって、お話するようになったんですよ」


「はっ、はじめましてっ! ミーと言いますっ!」


「はじめまして。僕はオズナ・ウラクです。

 ミー先輩、どうぞよろしくお願いします」


「ひぇっ! こっ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」


「ふふっ……。そんなにかしこまらないでいいですよ。

 おっと、これじゃあ僕の方が先輩に対して失礼かな?」


「いえっ! そんなことは決して!!」



 ミー先輩は、ガチガチに緊張しているが、なんとか自己紹介を終えた。

まあ、そりゃ相手が王家の、それも第一王子であるなら、緊張しても仕方ないだろう。

あら? そう言う意味では、私も公爵で王位継承権もあるのだけど……。

まあ、初めて会った時のミー先輩はそれどころではなかったし、緊張もしなかったのかしらね。



「それじゃあ、せっかく会ったんだし、5人で遊ぼうよ。

 ちょうど、ボールも用意してもらったんだ」



 日差しで焼けるプールサイドには、汗ひとつかかず佇む燕尾服の執事。

彼に向けて王子が手招きすれば、足元に置いてあった荷物のうちから、ボールをひとつこちらへよこす。

それは柔らかい革製の、すこし大きめのボールだった。

王子はボールを受け取ると、ヒョイっとこちらへとパスを回す。



「ほらっ! エリヌスたちも入っておいでよ」



 その声と共に、王子はプールへと入り、私たちを招く。

隣に立つミー先輩は、いまだにどうしていいかわからず、私に救いを求める視線を送っていた。



「王族の方となんて、いいんでしょうか……」


「お誘いを断るわけにはいきませんわよね?」



 そうして共に水へと入り、エイダを含めた5人での、水中バレーが始まった。

といっても、本格的なものじゃない。ただパスやトスを回すだけの、ちょっとしたお遊びだ。



「エリヌス、いくよ!」


「ええ。エイダ、パスですわ!」


「…………。ミー様、ゆきますよ」


「はっ、はい! えっと……」



 水中でも、エイダは無駄のない言動。

まるで人形のようだが、的確にミー先輩が受けやすい場所へとボールを運ぶ。

そのボールをどうしたものかと悩みながら、ミー先輩はセイラに回すのだった。


 いたって普通の、平穏で穏便な遊び。

けれど、その合間合間で、私は彼と目が合っていた。

無表情のその視線は、私に言葉ではない司令を飛ばす。『やれ』と。

まったく、今日はやめておこうと思ったのに……。



「お嬢様、どうぞ」



 悟ったのか、エイダは少々高めにボールを弾いた。

つまり、これで決めろということだ。

私は思い切りジャンプし、全力でアタックする。



「必殺アタックですわっ!!」



 スパンッ! と右手から放たれたボールは、目にも止まらぬ速さで標的へと吸い込まれる。

私のスキルは必中。ならば、そのアタックが外れることなどありはしない。

ボールはそのまま、防ごうという動きも、表情の変化もないセイラの顔面へと、勢いを殺すことなく突き進んだ。


 パンッという音と共に、顔面にボールを受けたセイラは、ボールそのままの勢いで、プールの中へと背中から倒れこんだ。

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